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神隠しの夜  作者: 遠野空
4/10

浸蝕する怪異


 翌日から、祖父は勤務の合間、雪女というキーワードと怪異の関わりを探るべく、いろいろ尋ねて回ってくれたらしい。


 ただ、妙なことに尋ねた老人達は、誰もが「そういえば、どこかでそんな話を聞いた気がするねぇ」と首を傾げるのだが、どうしてだか内容を詳しく話せる人はなかなか見つからない。

 忘れても不思議じゃないような昔話かもしれないが、いくらなんでも、誰も思い出せないということはないだろうに。


 おまけに、一応僕は友人の新垣にも電話して事情を説明してやったのに、こいつはまた「証拠がないわけだろ、それじゃ? じゃあ確かめるしかないな」と言ってくれる。


 僕が真剣に警告しても、「証拠がなきゃ駄目だ」の一点張りだった。

 ただ、あいつだって僕の言葉を完全に聞き流しているわけじゃない証拠に、電話を切る間際に、「宮子が納得しないよ、それじゃ」なんて呟いていた。


 どうも、怪異に遭遇する恐怖より、できたての彼女の侮蔑の方が応えるらしい。

 困ったものだ。

 進展がないままに日が過ぎ、とうとう十二月に入って一週間が過ぎてしまった。


 十三日深夜は、もう目前だ。 


 ただ……この辺りから、僕自身にも十分不気味な出来事が起き始めたのだ。

 例えば近所のスーパーへ買い物に行くと、顔見知りのレジのおばさんに、「さっき一緒に歩いてた女の子は?」なんて訊かれたりする。


 僕が戸惑うと、「ほら、季節外れの白い浴衣着た綺麗な子が、そばにいたじゃない?」などと言うのだ。僕がぞっとしたのは、言うまでもない。

 おまけにファミレスなどに入ると、お冷やを二つ持ってきたウエイトレスが、「あら? 先程のお連れ様は?」などと不審がり、首を傾げたりする。


 嫌な予感がした僕が詳しく訊くと、こっちは一人で来たはずなのに「浴衣の女の子が一緒に来られましたよね?」と真面目な顔で言うのだ。


 あまりにも似たようなことが起きるので、僕は日を追うごとに精神的に参ってきた。


 学校だけに広まっているはずの怪異が……なぜか僕を獲物に定め、出張してきた……真面目にそんな風に思い始めていたのだ。

 勤務中の祖父から電話があったのは、恐怖と疑問が頂点に達した頃で、僕が学校から帰宅した直後のことだった。





『おい裕也っ、とうとうそれらしき話を知っている人に会ったぞ!』


 電話を取るなり祖父が口走り、僕はたちまち緊張した。

 普段、携帯電話なんか使わない祖父が、わざわざ連絡してきたのだ。よほどのことだろう。


「雪女と例の怪異の関係がわかったのかい!?」


『そうと決まったわけじゃないが、かなり怪しいっ。実はな、昔、黒森高校の近所に住んでいた、田口ってじーさんを見つけてな、さっき話を聞いたんだ。そのじーさんもすっかり忘れていたクチだが、無理に促すと、ようやく一部を思い出してくれた。俺も忘れないうちに、おめーに連絡しようと思ってな』


 早口で言う祖父は、まるで自分も忘れてしまうのを、本気で恐れているような口調だった。

 ただ、聞き込んでくれた話は、僕にはそう凄いネタだとは思えなかった。


 簡単にまとめれば、こんな話だ。




 ――黒森高校が開校する以前、学校を含めた周辺の土地はさる大地主の所有下にあった。しかもその家の当主は、この地方の住人なら、誰もが知る有名人だったらしい。


 ただ、ある時期を境に、その名家に嫌な噂が立つようになる。その噂というのが、ずばり「年末近くになると雪女が現れ、気に入った相手を殺す」というものだ。

 不思議なことに、その雪女が現れるのが決まって、地主の家があるごく狭い地方らしいのだ。よその集落に、雪女伝説など残っていない。




『田口じーさんの曾祖父ってのが、問題の大地主の家に田畑を借りていた小作人の出でな、じーさんが子供の頃、よくその雪女の話をしてくれたそうだ。それもあって、田口じーさんも微かに覚えていたらしい』

「初めて学校の怪異譚に関係ありそうな話を聞いたよ。ありがとう!」


 祖父が気を悪くしないように、僕は無理して礼を述べた。


『いやいや、まだこれからさ。具体的な突破口がわかったんだから、今度は今の話をまず説明して尋ねて回れば、きっともっと具体的な――』


 ふいに祖父の声が途切れた。


「……どうかした?」


 僕が受話器を持ち直すと、祖父は珍しく緊張した声で『いや、道の向こうに、変なおなごがな』などと答え、僕は息を呑んだ。


「おなごって、女の人? どんな!?」


 勢い込んで尋ねたが、祖父は我に返ったように『いやいや。大したことじゃない、大したことじゃない。ただ……なにか困ってるかもしれないから、ちょっと様子を見てくる。続きは帰ってからな!』と述べ、僕は慌てて止めようとした。


 無論、図書館の出来事を思いだしたからだっ。


「待って!」


 しかし……一呼吸、遅かった。

 既に電話は切れていたのだ。



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