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神隠しの夜  作者: 遠野空
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開校以来の怪異譚


 古い学校には、怪談がつきものである。


 当然、開校以来、百年を優に越えるうちの学校もしかりだ。

 むしろ、歴史があるからこそ、開校当初から広まっていた怪談も、色あせずに語り継がれているのかもしれない。


 黒森高校というのが学校名だが、東北の山間部にあるこの学校では、小学校から高校まで、まとめて一つの校舎に収まっている。

 今となっては、それでも全校生徒の数は三十名ほどに過ぎないが。


 もちろん、大昔の開校当時には、もう少し生徒もいたらしいが、もう生徒数は減る一方だ。


 それでも――「黒森高校の神隠し」と言えば、近隣の住民で知らぬ者がいないほどの怪異として知られているのだ。

 一年のうち、なぜか十二月十三日のみに起きる怪異だが、その日の零時三十分に校舎内にいた者は……白装束の女に連れて行かれ、二度と戻らない。


 ――伝統的な怪異の内容とは、実にたったこれだけのことなのだが、どうやら過去に「肝試し」と称してこの十二月十三日深夜に学校を訪れた者は、本当に一人の例外もなく、校舎内で消えてしまったらしい。


 白装束の女によって神隠しに遭ってしまったということか。

 近年では、「いっちょ本当かどうか試そう!」などという生徒ですら、とんと耳にしなくなった――少なくともこの日までは。 





 図書部に属する僕は、通常、放課後はしばらく図書室にいる。

 十二月も近いその日、その図書室に友人の新垣が訪れ、いきなり告げた。


「おい谷崎っ、うちの学校の怪談話、嘘っぱちだと証明してやろうぜ?」と。


 いきなり振られた僕はとっさに言葉を失い、次の瞬間、「こいつ正気か?」と思った。

 それか、いつものように、僕をからかっているかだ。

 だが、本人は真面目な表情なので、僕も一応、真面目に応じてやった。


「十六歳にして、人生投げるのか? それとも、怪談の内容を知らないとか?」

「知ってるさ!」


 新垣は肩をすくめて、カウンターの向こうに座す僕を見た。


「十二月十三日の零時半に校舎内にいると、神隠しに遭うっていうんだろ?」

「……正確には、その時刻にいると、白装束の女が来て、連れていかれるって話だぞ」

「そう、それ」


 ニヤッと新垣が笑う。

 だいたいこいつは、無謀なことをやらかす時は、こんな笑い方をする。


「逆に言えば、日付と時刻が限定されているだけに、真偽を証明しやすいわけだ」

「そりゃそうだけど……開校以来、百年以上続く怪異らしいぞ? おまえ、恐くないのかよ」

「単なる嘘話が恐いわけあるか」


 断言口調で新垣は言ってのけた。


「なぜ嘘とわかる!?」

「考えてもみろ? その怪異が本当なら、どうして具体的な被害者の名前を、誰も知らないんだ? 伝わっているのは怪異の内容ばかりで、被害者がどこの誰かは、一人として指摘されたことがないんだぜ?」

「どこの誰かというか……生徒の誰かだろう」


 反論しつつも、僕の口調はトーンダウンした。

 言われてみれば、確かに被害者の名前を特に聞いたことはない。最も近い怪異は十年前だそうだが、その被害者も「男子だった」ということしか知らない。

 白装束の女については目撃者がいるそうだが、その目撃者だって、誰だか伝わっているわけじゃない。


 ちなみに前回の被害者は、今の僕と同じく、高一だったそうだが。


「ほらみろ、おまえだって名前が出てこないだろう?」


 新垣は得意そうにカウンターに手をつき、僕を見据えた。


「つまり、最初からそんな被害者がいない証拠だよ。そんな古くさい怪談が今も語り継がれるのは、この年季入りまくりの木造校舎が、いかにも何か出そうに見えるからさ! 百年前なら街灯も少ないし、なおさらだろう」

「……かもしれないけど」


 僕は渋々頷いた。


「なにも、わざわざ怪異を否定するために、深夜にこんな不気味な校舎に来なくても」


 墨色の木造校舎に、今時、一部の廊下は電球が照らしている。最後に改築があったのはいつか知らないが、多分、前世紀なのは確実だ。

 当然、夜ともなれば八割増しで不気味さが増す。


「恐いのか?」


 挑戦的な口調で言われたが、僕は挑発に乗らなかった。

 本気で怖がりのせいもあるし、「わざわざ古い怪異譚の真偽を暴く必要がどこに?」と思ったからでもある。


「ああ、恐いね。僕はごめんだ」

「ならいいさ! その日が来たら、俺一人で試す。どうせ時間は決まってるし、大した手間じゃない」


 ため息をついて言い放ち、新垣はぼそっと言い足した。


「宮子(彼女)にも、もう宣言しちまったしな」

「おまえね……」


 僕は呆れて首を振った。

 こいつらしいとは思うが……彼女に見栄張りたいのが、本音だったとは。

 その時の僕は、ただひたすら呆れていた。


 しかし……実は本番はこれからだった。

 後から思えば、この時の短い会話こそが……僕が怪異に巻き込まれる、予兆だったのだ。


なろうコラボのラジオ賞応募のために、書き出してみます。

ただし、〆切はまだ遠いし、そもそもホラーの需要はあんまりないだろうなと。

なので、興味ある人だけ、どうかよろしくお願いします。


……来月末の〆切までには、終わる予定です。

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