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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

きらきら輝く星々に

神様に望んだ私の能力

作者: 鮎崎カナ

(´・ω・`初小説です。混乱しながら書きました。



 ライトノベルを読むのが好きだった。


 私の胸に突き刺さっている剣をぼんやりと眺めながら、何を間違えてしまったのか考える。


 刺された時はすぐに死ぬかと思ったけど、そんなことはなかった。

 剣を伝いこぼれていく私の鮮やかな赤色の血液が、やけにゆっくりと空中で球状に形を変えていくのが見える。


 たぶん、時間が引き延ばされているんじゃないかな? それに、身体は動かないけど、ありがたいことに痛みを感じない。


 せっかくだから、走馬灯とは少し違う気がするけど、この時間を使って過去を振り返ってみる。自発的に思い出すんだから『セルフ走馬灯』って名付けてみた。


……使う機会はもうないけどね。







 私の名前は、桜木日菜子さくらぎひなこ

 二十二歳。独身。

 身長は百六十センチないくらい。

 体重は身長のわりに軽い。

 よく食べるほうだけど太らない。胃下垂なんじゃない? ってよく言われる。

 髪を一度も染めたことがないのが自慢だ。

 一つ歳上の兄と、三つ歳下の妹がいる。


 私が小学校三年生のときの夏休みに、両親は離婚し母子家庭になった。

 父は養育費を払うことなく蒸発したらしい。


 中学校二年生にあがるときのクラス替えで、新しいクラスに仲の良い友達が誰一人いないことを知ったときに、不安に押し潰されて泣いたことがある。

 結局、このクラスには馴染めなかったけど、私以上にクラスに馴染めていない、いや、虐められている子がいて、その子とだけ仲良くなった。

 その子を庇うようなポジションにいた私は、虐める側からすればウザい存在だったんだろう。

 中学校三年生になり、兄が卒業したからか私も虐めの対象になった。何をされたかは、もう思い出せない。というか記憶がない。

 ただ、小学生のときから仲の良かった友達とも会話することはなくなり、実際に友達と呼べるのは、一緒に虐められていた子の一人しかいなかったことを覚えてる。


 子供三人を一人で育てる母親に迷惑や苦労をかけたくなかったけど、大人達の社会にどうしても気づいて欲しくて、私はリストカットした。

 カッターだと熱くて痛かったから果物ナイフを突き立てたり、検索してリストカットのやり方を調べることもあった。


 だから、私の左手首の辺りには幾つもの躊躇い傷がある。


 あの頃の私は、なぜか「卒業するまでに死のう」と固く決意していた。けど、血のついたブラウスの袖を母親に見られて、リストカットしてるのがバレた。

 泣きながら怒る母親にビンタされて、私も久しぶりに涙が出た。生き返った気がした。


 虐めは何一つ解決しなかったけどなんとか卒業して、電車で一時間以上かかる、知り合いが誰もいない高校に進学したことがよかったのか、友達どころか親友までできた。

 皆勤賞を貰うほど、酷い過去を上書きするように高校生活三年間を謳歌したけど、就職して社会に出るのはまだ不安なのと、学びたいことがあるのとで大学へと進学した。


 実は、これは家族や教師を説得するための嘘だ。


 私は死ぬ事に慣れてしまっている。


 苦しいなら死ねばいい。悲しいなら死ねばいい。辛いなら死ねばいい。悩みがあるなら死ねばいい。キツいなら死ねばいい。面倒なら死ねばいい。不安なら死ねばいい。お金が無いなら死ねばいい。楽しんだ後に死ねばいい。後が無いなら死ねばいい。


 死という逃げ道が私には用意されてる。


 だから、まだ大人になりたくなかったから、楽しみたかったから、働きたくなかったから進学した。


 それがいけなかったのかな?


 その大学で、私が剣で刺し殺される直接的な原因となる運命と出逢う。


『ライトノベルサークル』


 大学のサークル勧誘でビラを受け取り、なんとなく、なにもしないよりいいかな程度の考えで入った。

 音感もないし、運動も苦手だし、どちらかというと大人しいタイプの私にはぴったりだ。

 活動内容は単純で「書く」か「読む」それだけ。

 大学公認のサークルらしいけど、私をいれても四人しかいない。

 女は私だけ、同学年の人もいない。

 でもなんでだろう実に落ちつく。


 三人の先輩方は、小説の案を練っていたり、パソコンで文字を打ち込んでいたりと忙しくしていて、私に話しかけてくることはない。少し寂しさを感じる。


 先輩達から「この部屋にあるのは全部おすすめだから読んでみて」と最初に言われていたのを思い出して、本棚にあった『可愛い女の子の絵が表紙にある本』を、何気なく手に取り読んでみたことが始まりだった。


 本の世界に吸い込まれる感じがした。まるで、私も登場人物になったかのように。


 初めてライトノベルというモノを読んだけど、凄く面白いと思った。


 それからというもの、講義の空き時間や、昼休み、放課後と、暇な時間をみつけては部室に入り浸って、ジャンルを問わず読み漁った。


 女の子が主人公にすぐ惚れたりするのは、正直「ばかじゃないの?」と思うこともある。あと、ハーレムとか。

 男の欲望は直線的というか、なんか凄いね。


 まあ、それは置いといて、部室には異世界転生もの? というジャンルのライトノベルが多くあった。


 決まりごとなのか、異世界に行くときに神様から特別な力を貰えるらしい。

 その力で強大な敵やモンスターを倒して、魔王を倒してハッピーエンド。

 単純だけど読みやすいし、私はこの異世界に行く物語が好き。


 私ならどんな力を神様に望むかな?


 皆が幸せになるためには、どんな能力があればいいのかな?


 そんな事ばかり考えてるうちに、あっという間に三年過ぎた。

 そんなある日、いつものように部室に行き、いつものようにライトノベルを読んでいると、留年していた先輩の一人が、凄い勢いで大きな音をたてながらドアを蹴破るように開けて入ってきた。

 反射的に小さく悲鳴を上げて椅子から立ち上がってしまったが、とりあえず挨拶しようと口を開く。


 瞬間、抱きつかれた。


 何がなんだかわからない。


 口の中に鉄のような匂いが広がる。


 急激に部室が寒くなってきた。でも、胸の辺りは凄く熱い。


 先輩は、私が振りほどこうと動くより先に離れて、なにか呟いてる。

 よく聞き取れないけど、なんか私が先輩と付き合ってるのに別の誰かと浮気してる。みたいなことを言ってる。と思う。たぶん。


 私は誰ともお付き合いしたことはない。

 もちろん、先輩とも。


 でも、今は、そんなことよりも凄く寒い。

 立っていられない。

 先輩は寒くないんだろうか? 


 あまりの寒さに耐えられず、椅子に寄りかかろうとしたけど、身体に力が入らなくてズルズルと地面へ倒れてしまった。


 良かった、今日はスカートじゃないや。スカートだったら絶対めくれてる。


 冷えた身体を暖めるように、胸に感じる熱に手を伸ばして、そこでやっと自分の胸に生えている異物に気づいた。

 それが何なのかすぐにわかった。

 手に馴染むサイズ、何度も握った事がある。


「果物ナイフかぁ……」


 私は目を閉じた。




 目を閉じたはずなのに凄く眩しい。それに誰かに呼ばれている気がする。


 ゆっくり目を開くと神様がいた。

 

 すぐにわかった、白い空間、白い服装、金髪金眼の幼女。ライトノベルで知った姿とほとんど同じだ。


 やっぱり私は死んだのだろうか?


 その疑問を私は口にしていないのに、金髪幼女は答えた。


「そうじゃ、日菜子。お前は勘違い男に刺されて死んだのじゃ」

「私の考えてることがわかるの?」

「わらわのことを神だと、お前は気づいておったでわないか。人間の考えなぞ簡単にわかるわ。ちなみに日菜子、お前の死因は外傷性ショック死。所謂、失血死じゃ」


 この幼い神様は、知りたくもない自分の死因も含めて親切に教えてくれた。とりあえず身体を起こして確認する。

 刺されっぱなしだった胸のナイフもなくなり、穴が開いたはずの胸も服も綺麗にふさがってる。


「さて、おおむね理解しとるようじゃが、一応説明しとくぞ」


 姿勢を正した私に、神様は言葉を続けた。


「お前を異世界に送る。本来なら転生させるべきじゃが、それじゃといろいろ面倒くさ――不都合なことがある。じゃから、傷を治して転移させることにした」


 わざわざ言い直さなくていいのに。

 正直な話、家族には悪いけど心残りは無い。なんか物語の主人公になったみたいでワクワクする。


「なぜ異世界に送るかは話せぬが。ま、こっちの事情じゃの。お前が特別だったわけじゃない、タイミングが良かったから、お前を選んだのじゃ」


 残念、主人公じゃなかったみたい。


「とは言え、こっちの勝手な都合じゃ。お前が望む力を一つ与えよう。む、言葉の心配なぞしなくていいのじゃ」


 あ、また私の心を読んだ。


 神様はニヤニヤしながら、ふんぞり返っている。


「ほれほれ、黙っとらんとなんでも言うてみるがよい」


 なんでもかぁ、本当にいいのかなぁ。


 私はライトノベルと出会ってから今までずっと考えてきた。


 最強を目指す? 成り上がる?

 なんて自分本位な考えなんだろう。


 私が望むのは優しい世界。不安なんかない。

 誰かが不幸の底へと埋没するのは嫌だ。


 私が望むのは調和と平和。争いはいらない。

 誰かが突出して幸せになるなんて嫌だ。


 だから、私が望むのは……


「私は、私の意思を他者に植えつける力が欲しい。……です」

「……」


 私の言葉を聞いて、神様のにやけていた表情がスッと消えた。


 なんか神様の表情が怖い。もっと分かりやすく言ったほうがいいかな?


「例えば、……そう、感染。私の意思を病原体みたいに生命から生命へと次々に伝染させて、侵入した相手の意思を徐々に私の意思に置き換えていく力」


 一つの意思で世界を埋め尽くして統一させれば世界は争いがなくなり平和になる、差別も貧困もない平等な世界ができる。

 ねずみ算式に伝わっていく。症状なんてないから気づかない。毒じゃないから薬もない。病じゃないから治らない。そんな力が欲しい。


「……」


 神様は何も答えず、私を睨んでる。


「ダメですか?」

「……」


 やっぱりダメなのかな?

 何も言われないのは不安だ。しかも、凄く機嫌が悪そう。


「……あのぅ?」

「シロツメクサ」

「え?」

「シロツメクサ。クローバーのことじゃ。お前の望んだ能力に名を付けた」


……クローバー?

 あぁ、四つ葉のクローバーとかのクローバーね。

 白くて丸い可愛い花が咲く、あの――


 と、そこまで考えたところで、公園を埋め尽くさんとしている緑色の草の姿が思い浮かんだ。


「……繁殖力があるとか、気づいたら侵食してるとか、そんな意味ですか?」

「知らぬならよい、ただの花言葉じゃ」

「花言葉?」


 どうやら、繁殖力だとかは違ったみたいだ。良かった、変な理由じゃなくて。

 でも、クローバーの花言葉知らないしなぁ。


 安堵と疑問を乗せた視線を神様に送る。


「ほら能力は与えた。もう送るのじゃ」


 神様が言い終わるのと同時に、白い世界は激しく眩しく輝き出した。


「え? ちょっと、教えて下さいよ! 気になるじゃないですか! 花言葉!」


 私の言葉は、返事をもらえることなく薄れゆく意識のなかで反響し続ける。




 心地の良い風に起こされて目を開けると、私は草原にいた。

 服装はそのまま、黒のタイトなパンツに、ピンクの膝丈チュニック。ヒールのない靴。

 持ち物で使えそうなのは、カバンに入ってる紅茶の入った水筒と、生理用品だけだ。


「花言葉かぁ、たぶん『幸せ』とか『平和』とかなんだろうな。うん、日菜子でクローバー相性も良さそう」


 私は歩きだした。




 そこからは早かった。村を見つけて能力を使い、街へ行き能力を使い、半年もかからずに私は『魔王』と呼ばれるようになっていた。


 そして、勇者に剣で胸を刺されている。


 私は考える。


 何を間違えたんだろう。


 頬を伝いこぼれていく私を映した透明な液体が、やけにゆっくりと空中で球状に形を変えていくのが見える。


白爪草シロツメクサ(クローバー)


クローバー全般の花言葉は四つあり、


「私を思って」

「幸運」

「約束」


「復讐」


だそうです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者が勘違いしているのか、主人公が自己愛すぎたのか。 対比であり、結論がつかないとしたら、うまいと思います。
2018/06/07 01:53 退会済み
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