002
よし。とりあえず落ち着いて考えよう。
まず。初期職業云々の時点では、多分オレ含めて誰もダンジョンにもぐる必要を感じてなかった、と思う。
で。パラメータがあったり、スキルがあったりでおそらくゲームっぽい世界なんだろう。
更に。性別が変わったのは大問題だけど、メイドは戦えないこともなさそう。
そして。ダンジョンのレベル3のボスドロップに元に戻れるアイテムが設定されている?
おっけー。
とりあえず、まず聞くべきことは。
「いろいろ置いておくけど、今何時かわかるやついる?っていうかスマホ!?荷物!」
落ち着くまで忘れていた荷物の行方だった。
「んーっとー。小物ならさっき着てた制服の中にあるんじゃないかなー?具体的には足元だねー?それ以外の荷物は持ってなかったからわかんないやー。あとー、双葉ちゃんだっけー?下着はここのメイドに予備を貸してもらうといいよー。後でこの子に案内させようー。さ、ちょうどいいから自己紹介して?」
後ろの4人に聞いたつもりだったのに魔王が耳聡く答え、狐幼女をずずいと押し出した。
「挨拶が遅れたが、許してほしいのじゃ。わらわは13代目スズラン・アクアリウム。これからよろしくなのじゃ。あと、今は夕刻で、もう少ししたら夕餉なのじゃ。わらわが招いたようなものじゃし、今日のところは遠慮しないで欲しいのじゃ・・・。」
自己紹介のあと、これでいいよねとばかりに魔王を振り返る狐幼女スズラン。
「あ、スマホあったよみんな!時間は17時、でも当然ながら圏外かぁ。僕の連続ログインがぁ・・・。」
「財布もありますな。しかし当分は使い道がなさそうなのが辛いところですな。あとは連続ログインもそうですが、イベント終わるまでに帰れるかも不安ですな・・・。」
この2人はソシャゲにどっぷりだから念願の異世界なのに喜びきれてないらしい。でも少ししたらすぐに溶け込んで活動を始まる気がする。
九条と柔道部は持ち物を確認して頷いた。
「うん、じゃぁとりあえず下着を借りてから、様子見でソロでダンジョン潜ってみる。よろしく、スズラン様?」
「スズランでいいのじゃ。わらわは姫じゃが、おぬしらは国民じゃないしの。威張っても仕方がないのじゃ。(あんまり威張るとお爺様の目が怖いのじゃ。)」
最後は小声だったけど聞こえてしまった。
「危険だと思ったらすぐ帰ってくださいね。準備なしでいけるかどうかはわかりませんし。」
「みんなで状況を整理しておくよぉ?」
いや、心配して付いてきてほしかったわけじゃないけど。あっさりしすぎてないか?
まぁ様子見って言ったし無茶する人間じゃないと信用されてるんだろう。
というわけでスズランにメイドを紹介してもらい、下着を借りた。
と同時にメイドの訓練に混ざることになった。
メイドの道を行くにしろ辞めるにしろ、今の職をレベル最大にしないと転職は出来ないらしい。
戦闘以外でもその職に関係のある行動で経験値は得られるらしい。
ちなみに見習い職の最大レベルは20だとか。
下着を着けてメイド服を着なおして姿見を見たら、自分の顔が全く持って変わっていないのに違和感がなくてすごいショックを受けた。
ついでにそのメイドに、ダンジョンの概要とかスキルのわかる範囲をざっくりと聞いた。
ひとつ、ダンジョン内のモンスターは魔力の塊のようなもので、死んだらドロップアイテムを残して消えること。
ひとつ、ダンジョンは入るパーティごとに違うところに転送されること。内部での待ち伏せとかバッティングとかは基本的にないらしい。
ひとつ、レベル1ダンジョンは人、獣、蟲の3種類があること。
ひとつ、レベル1ダンジョンではモンスターが群れを成さないこと。巡回はしてるので手こずったら増える可能性はあるらしい。
ひとつ、レベル1ダンジョンには大怪我以上をする罠はないこと。
ひとつ、モンスターはダンジョンの階層ごとに、段階を踏んで強くなっていくこと。
ひとつ、スキルは意識したらなんとなくわかるから、使ってみればいいということ。
ダンジョン入り口は城|(城の謁見の間に召還されたらしい)の北の方にあって、まずは入り口で入りたいダンジョンのレベルと種類を申請することになっていた。当然自分のレベルが低い場合は却下されたりもする。
今回はレベル1の獣ダンジョン。まるっきりの初心者にお勧めらしい。
ダンジョンに入って、右手に初期装備としてもらったナイフを持つ。
メイド服も、もらった初期装備ってことらしい。
ナイフを構えて、周りに気を配りながら忍び足で歩く。
少し歩くと、曲がり角の向こう側に何かいるような気がした。これが気配察知か!気のせいかもしれないけど!
忍び足を意識して早歩きをする。足音は立たない!これは完全にスキルの影響だ!
そして、近づいてくる何かに向かって先手必勝!
先ほどのショックを吹き飛ばそうとナイフを思い切り振り下ろした。
ガッ!という硬いものにナイフがあたる手ごたえ。絶対に毛皮じゃない。
あわてて飛びのくと、そこには鉄の首輪をした緑色の狼がいた。
なるほど、出てくるモンスターについて詳しく聞かなかったオレのミスかな。
とりあえず奇襲は失敗して、相手は敵意むき出しでこちらをにらんでいる。
にらんでいる?飛び掛ってこない?逃げるチャンスか?それとも?
なんて考えてると普通に飛び掛ってきたので間一髪でかわす。
思ったよりも怖くないぞ?
「グヮン!」
飛び掛ってきたのをかわす、とかわした先の壁を蹴って突っ込んできた!
「グヮン!」
三角跳び!?これは避けられ―――
ドゴォ!っと音がして緑狼の頭がオレの腹にめり込む。これは、かなり、痛い・・・。
でもチャンスだ。頭突きを食らった体勢から、緑狼の背中に向かってナイフを振り下ろす。
ナイフが何かに刺さる変な感触が一瞬して、緑狼は光になって消えた。たお、せた?
ドロップアイテムは緑色の毛皮っぽい何かだ。詳しくはわからない。
「ステータスオープン」
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名前 :都島 双葉
性別 :女
職 :見習いメイドLv1
HP :25
MP :30
STR: 9
VIT:10
DEX:11
AGI:10
MAG: 8
MID:10
保持スキル
短剣術Lv0 体術Lv0 気配察知Lv0 調理Lv0 水魔法Lv0 解体Lv0 忍び足Lv0 毒耐性Lv0 収納Lv0 荷役Lv0
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さすがに1体倒しただけじゃ何も上がらないか。そしてHPが15も減っている。やっぱりソロは厳しいかもしれない。
毛皮を拾って背負ってた学校指定のリュックに入れ、入り口付近まで退避。
水魔法には回復魔法があるらしいので、意識をしてみる。
呪文が頭の中に浮かんだ。日本語ではない言語だけれど、発音はできるみたいだ。
「『ヒーリングウォータ』」
それだけで魔法は成功したらしく、水っぽいエフェクトが体にまとわり付く。もう1度ステータスを見るとMPが5減ってHPが10回復していた。効率は微妙、レベルが上がれば威力が上がったりするんだろう。
んー。さすがに毛皮1枚だけじゃつまらないのでもう1戦闘だけしてみよう。今度は戦闘中に水魔法を使ってみたい。
忍び足でさっきの角を曲がり少し歩くと、向こうのほうに何かいるような気配を感じ取った。
水魔法水魔法・・・。
「『ウォータボール』」
呪文を唱えると、目の前にハンドボールくらいの水の弾が発生し、それがまっすぐ飛んでいく!
さっきの緑狼ぐらいの速度だ。そして何かにぶつかる音。どうやら避けられなかったらしい。
それから地面を走るような音。まだ倒れてはいないみたいだ。
「『ウォータボール』」
もう1度呪文を唱え、獲物にぶつけると、光になって消えていくのが見えた。
なるほど、魔法で遠距離で戦うのが安全なのか。でもそれだと戦闘回数を稼げそうにない。
今日のところは様子見だったので、2枚目の緑色の毛皮っぽい何かを拾って退散することにした。
「ただいま。」
「おぉおかえり双葉君。思ったより早かったねぇ。ダンジョンはどうだったぁ?こっちはのじゃロリにこの世界のファッションについていろいろ聞けたよぉ。」
「おかえりですぞ双葉君。こちらの城にも薬師見習いの方が居ましてな、我輩も明日から修行に混ぜさせてもらう手筈ですぞ。」
「うん、思ったよりいけそうだけど、無理するとすぐ死にそうなバランスだ。あと今回のお土産はこの毛皮っぽいの2枚だけだ。どうせ誰か鑑定スキル持ってるだろ?テキトーに使ってくれていい。」
「限定的だけど、僕も鑑定スキル持っているよぉ?・・・これは“グリーンウルフの毛皮”だってさ。裁縫でいろいろと加工できそうだよぉ。」
「そっか。当分お土産はそれだけになるけど、それでよさそうだな。あと化学部、ポーションは出来るだけ早めにほしい。採取クエストとかあるのなら着いていってもいいけど?」
「薬草のストックはすごくあるらしいので大丈夫ですな。恥ずかしながら戦闘は怖いですでな、ダンジョン探索はお任せしますぞ。我輩もASAPでポーション作りますでな。」
帰ってすぐに天神と化学部に捉まったけど、そこそこの成果があったみたいだ。
そして夕食。明日からは手伝うけど、今日はもう準備が出来ていた。和食だ。
オレからはダンジョンの情報、九条からは他班の存在が確認できたこと、他3人は専門職の修行に混ざることなどを話した。
人心地付いたところで、
「ところで双葉君、お風呂とかどうするつもりなのかなぁ?」
天神から爆弾を落とされた。
でも大丈夫、かわせる。
「ああ。城のメイドたちが入ったあと、スズランが入る前に時間をもらった。さすがに恥ずかしいから自分の裸はまじまじと見ないぞ?」
「それなら安心ですな。寝る場所はメイドルームですかな?」
「いや、鍵をかけられる一人部屋を貸してもらうことになった。」
「僕たちは城の東側の宿舎に泊まってるからねぇ。開き直って合流してくれてもいいよぉ?」
「男に戻れたらな。」
「だよねぇ。」
「天神、直接的過ぎますぞ。・・・おっと。」
「まぁ何かあったら九条をけしかけるからな?精神攻撃を喰らうといい。」
「「いやいや冗談冗談」」
2人の冗談に聞こえない冗談を流して、
お風呂では特にラッキースケベ(狐幼女乱入とかの)もなく。
夜這いもなかったのでぐっすり眠れた。
そこから1週間は早かった。
朝起きてダンジョンに向かい、グリーンウルフ(緑狼)を狩れるだけ狩る。
戻って朝食の準備を手伝い、朝食。
天神に毛皮を渡し、メイドの訓練に混ざる。
午後の休憩時間に九条からいろいろと聞き、化学部からポーションを受け取る。
休憩が終われば夕食の準備に加わり、夕食をとる。
夕食後の片づけが終われば、その日の訓練は終了で。
柔道部は夜まで帰ってこないが、会えたなら投げナイフを受け取る。
そのあとは風呂に入ってゆっくり眠る。
そしてそろそろレベル1の獣のダンジョン1Fは卒業かな、というパラメーターになった。
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名前 :都島 双葉
性別 :女
職 :見習いメイドLv5
HP :56
MP :40
STR:12
VIT:14
DEX:18
AGI:13
MAG:11
MID:12
保持スキル
短剣術Lv2 体術Lv2 気配察知Lv2 調理Lv1 水魔法Lv2 解体Lv2 忍び足Lv2 毒耐性Lv1 収納Lv2 荷役Lv2
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1週間で1Fってすごい悠長なペースだとは思うけど、
シーバス|(呼び捨てでいいらしい)曰く『え?蘇生?そんなものはないよー?死んだら死ぬに決まってるじゃんー?』ということなので、ゆっくりでも進めばいい、はず。
一応グリーンウルフの毛皮から緑色のメイド服が作れたらしく、装備をそれに変えたり、
どの大きさまで短剣として扱われるのかの実験の結果出来た大振りなナイフをもらったりして。
装備は充実。
さていざ行かんレベル1獣のダンジョン2F。