スライムからのありがとう
魔王の城と特別な冒険者の街「アストラ」
その間をつなぐ一本道の草原。
そこにはどこにでもいる名もないスライムが一匹。
そのスライムが青空を見上げこう思った。
…………退屈だ…………
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
────二五年前
天魔王サタンに仕える三大魔王
空の支配者、大魔王ベルゼブブ
陸の支配者、大魔王アスモデウス
海の支配者、大魔王リヴァイアサン
世界を脅かし震わせてきたその三大魔王がなんと。
全く同じ時間。
秒単位の違いもなく倒されるという大事件が起きた。
三大魔王を倒したパーティ達がギルド「リンカーネイション」で
飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしていた。
リンカーネイションだけでなく他のギルド達も戦いには参加していたようで
こちらも宴を行っている。
天魔王サタンは世界中の魔物たちを自分の城へと集めた。
「これは一体どういうことだ!! なぜ配下である貴様らが生きており三大魔王がやられている!?!」
怒りと疑問交じりの咆哮を上げる。
誰も何も答えない中もう一度天魔王サタンが問う。
「何か知っているものはいないのか。おい海中代表何かないか」
集まった魔物たちすべての目が現在、海の代表者の魔王クラーケンに集まった。
「…………恐れ多いことながら伝えさせていただきます。私達は冒険者達を圧倒していました。やつらは魔法で水中でも息ができ素早く動けていましたがこちらの優位が続いておりました。……ですが相手剣士の左手首のブレスレットが光った途端一瞬で状況が一変しました。仲間の半数以上が倒されリヴァイアサン様も重傷を受けたのです。そしてそのあと冒険者たちは時計を取り出し「まだ時間じゃない」とつぶやき普通に戦闘を再開しました。」
「な………………生きているかぎり森羅万象どんな力でも傷つかないあいつが重傷だと?!」
「…………はい」
サタンは驚きを隠せなかった。
リヴァイアサンはサタン本人でも傷つけることができなかったからだ。
「……それでそのあとはどうした」
「……戦闘を続けていると後方で魔法使いの少女が時計を見て「時間です」と剣士に言った後またブレスレットが光りました。すると今度は……リヴァイアサン様の……首が……切断され……冒険者どもに取られてしまいました……」
涙交じりの声で報告するクラーケンに続き空の代表者魔王フェニックスが話す。
「こちらもご報告させていただきます。我らが領域の空では冒険者どもが空を飛ぶ魔法を使い自由自在に空を飛んでいました。ですが我らのほうが移動速度も速く圧倒しておりました。最初はこちら側には被害はなかったのです。しかしながら海中側と同じく冒険者側の一人の左手首に巻かれたブレスレットが光った途端こちらの配下の者の8割ほどが羽や翼を剣で切られ、魔法で封じられてしまい墜落。ベルゼブブ様の羽も二枚だけ残され……四肢切断されていました。そしてこのときこちらの冒険者も「時間はまだ先だ」と言っていました」
「…………そのあとベルゼブブは……どうなった?」
フェニックスが小さく深呼吸し続ける。
「冒険者の一人が「あと二秒」といったあと先ほどのブレスレットが光りいつの間にかベルゼブブ様の羽は斬られ、首を切断されリヴィアサン様とは違い……全身を奪われてしまいました……」
サタンは顔をうずめるしかできなかった。
自分と変わらぬカリスマ力を持つベルゼブブがな全身バラバラ、ひどい殺し方をされてしまっていたのだ。
それに体の部分何一つ手元にないのだ。
相当なショックだったのであろう。
今までとは違い小さくなった声で
「……アスモデウスはどうなのだ。アスモデウスと変わらぬ実力を持つベルフェゴールやマモンもそばにいたはずだぞ。」
「アスモデウス様やマモン様、ベルフェゴール様は最強した。サタン様が仰った通りお三方は変わらぬ実力を持っていたので一度の場所に大魔王様が三人いるようなものです。冒険者一同はお三方の前に立った瞬間アスモデウス様の一撃によって全滅しました。……全滅したと思い込んでいました。」
アスモデウス側近のバアルが告げる
「…………」
サタンを含め魔物達が息を呑む。
「四人……たったの四人だけそこから立ち上がったのです。ですがたかが四人。防御魔法を使っていたとしても虫の息でした。あまりの弱さにマモン様は不快に思ったのか瀕死の冒険者に近づき「お前らはこの程度の力で我らの元へと来たというのか? ここに来る道のりに我らの配下である者たちを置いたのだがお前らなんかよりは強かったはずなのだがな」と煽りました。しかし煽りを入れたのが間違いだったのか、それとも、元からそうなるようになってたのかはわかりません。立ち上がった冒険者の一人が「馬鹿が」とつぶやき海、空と同じように左手のブレスレットが光り形勢が逆転されました。一番近くにいたマモン様は……胴体を真っ二つにされベルフェゴール様は角と尾とすべての指を、アスモデウス様は膨れ上がった筋肉を切り削られ全身が細くなり血まみれでした。……そして先ほどアスモデウス様が吹き飛ばした冒険者たちが全員何事もなかったかのように復活していました。」
バアルは言葉が震えてきた頃に一度深呼吸をし、言葉を続ける。
「……我らが呆気に取られている間、冒険者たちは何か話し合っているようで私が聞こえた言葉が「時間が押してる」でした。私は何のことかわかりませんでした。そんなことよりもそのときの状況の方が重要でしたから。数秒した後、先ほどの冒険者のブレスレットがまた光り目の前にいた冒険者はアスモデウス様の座っていた玉座付近に移動していて…………マモン様、ベルフェゴール様の首が……地に落ちていました。生命力が桁外れであるアスモデウス様のことを詳しく知っていたようで、脳から下を切り刻まれていました。私たちが状況把握できない中冒険者たちはアスモデウス様の肉片となった顔ときれいなピンクの色をした脳を転移魔法のようなもので空間移動させマモン様とベルフェゴール様の頭も持ち帰っていきました……」
「お前らはそれを取り戻そうとはしなかったのか」
天魔王サタンは魔王の王である。
王として支配下における魔物を大事にするのは当たり前。
特に気に入っていた三体が倒されるだけなら復活ができたかもしれないと考えていたが、頭がとられたとなるとどうしようもないと怒りを露わにし始めたのだ。
心臓からの蘇生はできるがそれでは記憶がなくただ暴れるだけの魔物。
そんなもの配下に置いていても邪魔でしかない。
今報告をしているバアルも部下の一人ではあるがその部下にすら怒りを覚えてしまった自分に後から絶望するのであった。
「私たちは一驚のせいか冒険者に恐怖していたのかわかりませんが体が動かなかったのです……」
バアルは全身の毛を奮い立たせそう告げる。
「そうか……だがきっと我がその場にいても何が起きたかわからず動けなかっただろう。誰かその光の正体を知っているものはいないか?」
サタンの質問にバアルがそのまま答えた。
「光についてはわかりかねますがその場にいた冒険者は皆ブレスレットをつけていました」
「ふむ……そのブレスレットが何か関係しているのか…………」
サタンが顎に手を当て考える形をとった。
数秒後に
「………………すまんな怒声を上げてしまって」
サタンが頭を下げ、魔物たちに謝った。
サタンが頭を下げることは魔物たちにとって珍しくはなかったが、慣れたことなど一度もなかった。
魔物たちが現実を受け入れ始めたように涙を流し始め嗚咽し始める。
それほどまでに三大魔王は魔物たちにとって敬愛され、崇拝されていたのだ。
だがその中に一人……いや一匹泣きわめく集団の中になんの感情も抱いていないスライムがいた。
今の話に興味もなく共感もできずにいるスライムが。
────なぜか。
このスライムは陸の支配者アスモデウスには面倒をみてもらっていたのだ。
このスライムは水分で生きているため海の支配者リヴァイアサンにお世話になっていたのだ。
このスライムは時折空の支配者ベルゼブブの話し相手をしていてそれなりに特別な存在であったのだ。
────それなのになぜか
────このスライムはアスモデウス、ベルゼブブ、リヴァイアサンの殺されている瞬間を見ているからであった。
殺されたではなく殺されている瞬間である。
それは一体どういうことか。
────正解は単純
このスライムは魔力を無効化する体質なのだ。
他にも捕食した生き物の能力を取り込むことができる。
無効化の範囲は自分のみらしく無効なだけであって破壊ではないらしい。
三大魔王が殺された時の光。
これは時間停止と呼ばれる魔法。
最初に時間が停止したとき、つまりマモンが真っ二つにされている時もこのスライムはすべてを見ていたのだ。
立ち上がった冒険者の一人が呪文を唱え、何もない空間に緑の魔法陣が浮かび上がり生きているかどうかもわからない倒れていた冒険者の意識が戻り、服もケガもすべて元通りになっていく姿を。
全く動かないマモンに対し冒険者一人が長ったらしい呪文を唱え、唱えられた風魔法によってマモンの胴体が真っ二つにされる様子を。
数人の少年少女が魚に刃を入れるように動かないアスモデウスの筋肉にナイフを突き立て剥いでいく様子を。
長身の男性が剣を試すように動かないベルフェゴールの角を切り、尾を斬る様子を。
これを見て何も思わないほどこのスライムは薄情ではなかったがこの状況を打破できると自分では思っていなかった。
だからこのスライムは自分を三つに分裂させ一匹を滞在させ、一匹を領海へ、一匹を領空付近へと向かわせた。
助けを求めるために。
分裂体は意思疎通、視覚共通でき個々が個々の意思を持つようになる。
この時分裂体は時間停止状態の中唯一動ける魔物としての自覚を持ち慎重に移動した。
しばらく移動したあと領空付近へ向かったスライムが違和感を覚えた。
風が吹き、動物が動いていたのだ。
だがアスモデウスの方にいるスライムの視界ではまだ時は止まっている。
つまり効果範囲外ということ。
それを知ったスライムは急いだ。
海へとついたスライムは躊躇なく潜った。
体が水分であるため流されてしまう可能性もあったが今はそんなこと気にしている場合ではないと。
────しかし儚かった。
リヴァイアサンの姿を認識した頃もう二度目の時間停止が行われていた。
同時刻、空の部隊を見つけたスライムもそれに気づいた。
一切動かない魔物と魔方陣を広げる冒険者。
この様子を見れば誰でもわかる状況だった。
海では光る巨大な刀が。
空では鋼鉄の無数の剣が。
陸では無残にも雑に魔王たちを切り刻む姿が。
この時このスライムはこう思ってしまった。
────自分は無力だ
と。
この力が自分ではなく魔王たちにあればもっと力も有効活用されて良かったのではないかと。
結局三体に分裂した意味は死んだ三大魔王の死を見届けただけだった。
でもそうしたことに後悔はしなかった。
広い目で見れば仲間。
狭い目で見たら主。
生きとし生けるものとしてどんな死にざまだとしても今まで生きてきたのは本当だから。
敵ではなく味方に見届けてもらえて少しは魂が安らぐだろうと。
そう思えたからだ。
魔物達の集会が終わったあと天魔王サタンは新しい三大魔王を決めようと考え、自分の城に籠った。
スライムは選ばれるはずもなくもとの草原への返された。
三大魔王が支配していた領域は人間達の領土となり、冒険者の勢力はさらに強まっていった。
三大魔王の領土、人間の領土となったところを住処にしていた魔物は個々で勝手に生きていくようになった……………………
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
最近になって気づいたことは時を止めた冒険者やありえないほど大きな魔方陣を描き出した魔法使いは『転生者』と呼ばれる異世界の住人らしい。
異世界での寿命を終えた者がなぜか女神に次の人生を決められ、好きなもの、能力を貰えるというオプション付き。
転生者の数は少なくなく、冒険者のほとんどが転生者である。
もらえる能力にも限度があるようで、圧倒的すぎる能力は世界のバランスを崩すため不可能だと。
それなのに、ほぼ最強の能力や物を何人も持つのはいいなんてふざけてる。
女神に能力を貰い、大魔王をも倒した時間停止能力。
レヴィアタンの首を落とした全ての理を斬ることができる剣。
全属性の魔法を使うことが出来る魔法使いなど
与えられた能力をフルに使ってきた者達。
今こうやってつまらないと思っているのはその冒険者を取り込んだ……いや、食ったからだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
三大魔王を倒した数か月後、冒険者たちはサタンを倒しに魔王城へと向かう途中このスライムと出会った。
冒険者たちはスライムを無視して通り過ぎず倒そうとし、いつも通り魔法を放った。
だが魔法が効かないこのスライムは無傷である。
それは冒険者たちに動揺を与えた。
おかしいぞ
なぜ効かない
…………と。
転生者で組まれた人間最強のパーティはありとあらゆる能力を使い魔力を使い切るまでスライムを倒そうとした。
リヴァイアサンを殺した光の刀を使い切り刻んで来る者もいた。
ベルゼブブたちを無残に殺した無数の鋼鉄の剣で串刺しにしてくる者もいた。
七色の魔法を使う者もいた。
時間停止を使った者もいた。
────すべて無意味
女神がなんでも好きなものを与えるということは女神が物や能力を創生しているということ。
何かを作るためには力の源である魔力が必要なわけで女神が与えるものは魔力の塊である。
理すら気にしない剣であろうとすべてを燃やし尽くせる魔法であろうとも。
それが魔力の塊である以上絶対的に効かなかった。
スライムという弱小モンスターを倒せないことがプライドを傷つけたのか、テレポートやワープなどの移動魔法の分の魔力まで使い切ってしまった冒険者達。
全魔力を使い肩で息をしているパーティは倒せないと判断しおとなしくアストラへ帰ろうとしたがスライムは先回りし、道をふさぐ。
無傷であるにしても自分の住処は壊され無条件に攻撃されたのだ。
魔物としての本性が理性を上回り今のスライムの中には『捕食』ということしかなかった。
スライムは冒険者の一人、時間停止を使った剣士に張り付き全身に広がる。
液体であるスライムを手で剥がせることなどできず剣士の鎧や皮膚が粘液によって溶けていく。
剣士は焼けるような痛みにもがき苦しみ仲間に助けを求めるが、剣士の仲間たちは立ちすくみ呆然状態であった。
骨まで溶かし取り込んだスライムはすぐに時間停止を使い、その場にいる冒険者を一人残らず捕食し、人間最強の能力と無限の魔力を入手。
時間を止め捕食したのは分散されたら厄介であったというのもあるが、痛みを感じさせないための唯一の慈悲だった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
最強の冒険者達を食べ多くの武器と魔力、呪文、知識を取り込み最強の魔物となったスライム
女神ですら作り出せないチート級のチート生物
天魔王サタンなんて足元に及ばない強さを手に入れたしまったスライム
────そう
だからこそ退屈
強すぎるのは退屈なのだ
だが弱すぎてもいけない
いつも何かに恐怖していなければならないから
しかし最強になった今は不満だらけ
静かで平穏な日々を過ごしたい気持ちと互角に戦いあえるほどの力を持った者と出会いたい魔物としての本性
どちらを選んでもこの気持ちは満たされないのだろう────
────選択する時点で満たされることなんてないとわかっているのに────
そんなことを考えている時
「うおりゃゃゃゃゃゃ!!」
そう叫び剣を振りかぶって突撃してくる少女が見えた。
スライムは驚くことなく時間停止の能力を使った。
だが────
少女の剣は止まることなくスライムを切った。
身体はすぐに元通りになったが予期しなかった出来事に一瞬思考停止した。
この力を手にしてから無かった経験。
少女後ろから大振りで斬りかかってくる。
スライムは食べた冒険者の一人の能力「テレポート」を使い少女の背後に回る。
消えたスライムを探すように周りを見渡している。
その間にスライムは考えた。
なぜ時間停止が効かなかったのか。
────草木や風は止まっている。
虫だって動物だって止まっている。
時間停止は問題なく発動していた。
ならば────
『なあお嬢さん。あなたが女神からもらったものを教えてくれないか?』
スライムは少女の脳内に友好的に直接呼びかけた。
でも少女は答えない。
「なあお嬢さん。あなたが女神からもらったものを教えてくれないか?」
今度は一語一句変えずに自分の言葉で発する。
少女はスライムが喋ったことには驚かずに冷静に答えた。
「あたしが女神さまからもらった能力は『魔法の無効果』。だけどその代わり魔法が使えないの」
「………………」
驚いた。
少女の能力はこのスライムと同じ体質だった。
それを聞いて時間停止が聞かない理由も脳内に呼びかけた声が聞こえないのも納得。
女神からもらった無効化の能力範囲がどこまでか気になったが、時間停止で少女以外が止まっている時点で自分と同じなのではないかと推測した。
「あたしは今からサタンを倒しに行くんだ! だからそこをどいて!」
いきなり斬りかかってきて戦いたくはないという風に語りかけてくる少女にスライムは不快感を覚えたが少し考えることにした。
────こいつの能力は厄介だ。もしも天魔王が倒されることなんてあったら人間がさらに調子に乗ってしまい、好き勝手してしまうだろう。それはそれで面倒になる。
「無視するということはそこをどかないってことでいいんだな────ッ!!」
言い終わる前に剣を振りかぶり突進している少女に対しスライムは
「……自信満々だな」
一言目と口調を変え、低い声色で。
スライムは取り込んだ冒険者の姿へと変わった。
触手────手で何もない空間から二つほど光きらめく宝剣を取り出す。
それをみた少女は驚愕の表情をし、急停止した。
「はっ……はぁ~~~~??」
「なんだ? 剣ならお前もってるじゃないか」
「そ……そうじゃなくて。なんでスライムなんかが人に変身して…………世界に八つしかない宝剣のうち二つももってんのよ!?」
「お、これのことよく知ってるな。あと六つもあるぞ」
空間から六つの宝剣を自慢気に取り出した。
「え…………なんで……宝剣はリンカーネイションの人たちがもってるって……」
「あーあのギルドまだあるんだ。あんだけ食ったのに活動できるなんて流石だな。まあ、女神としてはストックはたくさんあるし人数には困らないのか」
最強と呼ばれたパーティをが食べられた後、伝説と呼ばれているのは宝剣だけでなく銃や盾、斧や弓矢などがありそれらの一部を持つリンカーネイションのパーティ数十組が魔王討伐にこの草原を通った。
そいつらも食べたことを思い出して高笑いをする。
「は、モンスター界最弱のスライムがあの最強のリンカーネイションを食った? ははは。そんなことあるわけないじゃない」
「だったらこの宝剣はどう説明するんだ?」
「……あ、あんたが盗んできたのよきっと。リンカーネイションの人達が寝てる間とか……」
「おまえが言うような最弱モンスターにそんな大事なものを取られるほど不用心なのか? 最強ギルドの冒険者様は」
「それかきっと偽物よ! そうよただの脅し用だわ」
少女がそういったときスライムは何もないところに向かって宝剣を振る。
少女はスライムが剣を振った理由がわからなかったがすぐに理解した。
自然の反応が遅れてやってきたのだ。
空間が切り裂かれたように剣の振った方向にあった草原は消え、茶色い土がむき出しになる。
スライムは少女に向かって人の姿でニコッとした。
「…………え、マジで本物なの?」
「これを見ても偽物だと思うかい?」
────これでおびえて逃げ出すだろう。
そう思ったが
「………………ふふふ。ここであんたを倒せば宝剣が八つすべて手に入るのね。それがあれば天魔王なんて余裕だわ」
よだれをたらしにやける少女の姿を見てスライムは少し引いた。
────ああ………なんて強欲なんだ
「おいおい。今の話マジかよ」
図太い声が声がした方を見ると剛腕をもつ大男を先頭にした一行の姿が。
「ギルダ! 何でここにいるの!」
「あ? サーシャか。なに、適当に魔物狩ってたら声が聞こえたから聞き耳立ててただけだろ」
少女────サーシャにギルダと呼ばれた大男はつづける。
「それよりその人の形をしたスライムを殺すだけで宝剣が手に入るんだってな。こんなおいしい話見逃せるかよ」
「ダメよギルダ! このスライムは先に見つけた私のものよ!」
「俺たちは冒険者だ。こういうのは早い者勝ちだろ」
「そんなの盗賊と変わらないじゃない!」
「盗賊だって冒険者だって何かを奪っていることに変わりないだろ。対象が人か魔物かの違い。同じ生き物っていう部類では同じだって」
「う…………」
「俺らに先を取られるのが嫌ならスライムごとき早く倒しておくんだったな」
ギルダは鼻をフンっとならしサーシャより前にでる。
「んじゃさっさと殺っちま────」
ギルダの声は途中で止まった。
「ギルダ? どうしたの?」
返事はない。
「ここは『私のために争わないで!』って言うところだがつまらない男に興味はないからな」
「い、いったい何をしたの!?」
「時間を止めたんだよ。お前は無効化持ちだからさっきも使ってたことに使ってたことに気づいていなかったんだな。うるさいから黙ってもらったよ。」
サーシャはギルダ一行を心配している顔ぶりでスライムに問う。
「ギルダたちをどうするつもり!」
こちらを睨み付ける。
「食べる」
「やめて!」
「わかったやめる」
「お願い。大事な同業者なの!」
「だからやめるって」
「そうよね……だったらあんたを倒してってえええぇぇぇぇぇええええ」
スライムが発した言葉を遅れて理解したサーシャ。
だがまだ半信半疑。
「ほんとに食べない…………?」
「食わねえよ。お前ならともかくそいつは暴言くらいしか言ってないからな。それにそいつは脅威でも何でもないからな」
「あ、そうなの。ありがとう」
(もしかしてこのスライム、話が分かるやつなのか…………だったら)
「ねえ、スライムのあなた。あなたにとって魔法の効かないあたしは最大の敵でしょ? あなただってまだ死にたくないわよね? そこで提案なんだけどギルダたちを解放して宝剣を何本かくれたら今回は引き下がるわよ?」
(いくら魔物だって死は怖いはず。ここでギルダたち人質を解放してもらい宝剣を手に入れた瞬間にこのスライムを切り刻む。そうすればすべての宝剣はあたしのものよ)
「あなただってここは穏便に済ませたいでしょ? だから────」
「却下だ。馬鹿かお前」
沈黙が訪れた。
時が止まっている中でのシンとした無音状態。
その沈黙をスライムが破る。
「お前とそこのやつらを見逃すだけならいいが、なんで俺の所有物までやらにゃならんのだ。引き返すってことはまた来るってことだろ。なんで敵に塩を送らねえといけねんだよ」
「いやまあこのまま帰ったら街の人に魔物に負けてきたって思われるじゃん? だけど宝剣持ってたらなんかすごいことしてきたって思われて私の評判が良くなるじゃんか」
「俺には関係ないな」
「それはそうだけど…………まあとにかくギルダたちは開放してよ。逃がしてもいいんでしょ?大人しく帰らせるからお願い」
それなら、とスライムはしょうがないといった顔で時間停止を解いた。
「────おうぜ」
ギルダの途中だった言葉の続きが吐き出され後ろにいる男が銃を構えた時
「ストップ!!」
とサーシャが大声で止める。
その声に圧倒され狙撃手は銃を下した。
「だからサーシャよ。邪魔すんなって」
「このスライムはいつでもあんたたちを殺せるのよ。あたしは今それを止めてあげてるの。だから今は早く帰って」
「そんなことを聞いて、はいわかりました帰ります。なんていうわけねえだろ。おい、撃て」
サーシャの忠告を無視し狙撃手の男に命令した。
狙撃手がまた銃を構え、今度はすぐに撃った。
「ちょ……バカ!」
狙撃手の銃が放った弾はズドンと音がしその筒から放たれた。
だがその弾はスライムに当たることなく空中で止まっている。
「お嬢さん、あんた説得下手くそだな」
「うるさいわね。こいつが頑固なだけよ」
「まっ、このままじゃ帰らないから脅しとして腕の一本くらいもらおうかな…………ってこの魔力は初めてだな。液体破裂か。放たれた液状の弾丸が風圧で広範囲に広がり爆発、単体に使うものじゃないから威嚇用か。面白いなー」
話している途中に放たれた弾丸を食べ取り込んだ能力で解析していた。
「そんなことしたら冒険者としてやっていけないじゃないの」
「なんだよ否定的だな俺のこと嫌いかよ。話も忠告も聞かなこいつらが悪いだろ。…………はあもうめんどくせえ。俺が帰してやんよ」
するとスライムはギルダ一行のほうを向くと彼らはその場から消えた。
何が起きたかわからなかったサーシャは不安に陥り
「なんで! 殺さないって言ったじゃない!」
叫んだ。
それに対してスライムは冷静に返答する。
「殺してない。アストラにテレポートさせただけだ」
涙ぐみそうなサーシャは、えっ、という顔をしたが間髪容れずに
「それでお前はどうするんだ? ここを通す気はないぞ」
目をこすりスライムのほうを向きはっきりとこういった
「あんたを倒して通るに決まってんだろ!!」
サーシャは先ほどと同じように正面から突っ込んだ。
スライムは脅しや自慢のために出した宝剣を六本しまい、二本だけ持ち突っ込んできたサーシャを払いのける。
自分の剣で受け止め、吹き飛んだサーシャは体制を立て直しまた突撃。
────こいつは突っ込むしか能がないのか────
また払いのけようと剣を振り払うが今度は二本の剣を受け流し目の前に。
「もらった!」
サーシャの剣がスライムの首を切り落とした。
宝剣は手から離れ、スライムは動かない。
「ははっ。なんだ呆気ねぇな」
動かないスライムに近づき二本の宝剣を拾おうとしたその時
サーシャは右に見えた影に反射的に顔を腕で守る。
大きな金属音が響き渡った。
「おいおい抵抗すんなよ。俺の優しさで苦しまずに殺してやろうと思ったのによ」
影の正体は首が少女へと変わった姿。
そいつがサーシャの頭部を狙い振った剣がガントレットに防がれていた。
「こんなだまし討ちしないと勝てないわけ…………」
「善行だっつーの。お前のこと気に入ったからこその行動だ。ありがたく思え」
「思えるわけないでしょッ!」
剣で押されている腕がどんどん押されている。
「ほらほらその程度なのか?」
「うるっさいわね! ちょっと黙ってなさいよ────ッ!」
声を張り上げ、腕で剣を薙ぎ払い、蹴り飛ばして距離をとる。
「まだまだこれからだぜ」
スライムは分裂体をさらに二体増やす
「三対一だ。がんばれよ」
────────十分ほど経った頃
「はあ、はあ、はあ」
防具や服はボロボロになりもう立つのもままならないほど疲労しているサーシャ。
そんな彼女を取り囲むのは少年少女の姿をしたスライムたち。
「そろそろ諦めて帰ったらどうだ? もう無理だろ」
「そんな……ことない…………」
実際サーシャの状況は良くない。
防戦一方の戦いで一度も攻撃を与えれてないのだ。
三対一だからしょうがないかもしれないがそんなことを告げたところで何も変わりはしない。
各方向からくる攻撃から重傷どころか少々の軽傷で済んでるのは褒められたものである。
「なんでそこまで頑張るんだよ。弱いくせによ」
「……だってあたしはあんたの唯一の脅威で…………多分世界でただ一人あんたを殺れる可能性だもの」
「だったらなおさら帰れよ。帰って修行でも何でもしてもっと強くなってから出直して───」
「それじゃダメなの!」
サーシャは膝をつき、呼吸も荒い
だが叫んだ。
「今サタンを倒さずに帰ったら…………魔物に襲われる犠牲者がさらに増えるじゃんか…………あんたたち魔物からしたらただの餌だったりするかもしれないけど、その人たちのことを大事に思っている人がいるんだよ…………あたしはもうみんなに悲しんでほしくないんだよ…………」
悔しそうに拳を強く握りしめ
涙は流れていないがきっと心は泣いている
うつむき顔を上げることもしない
そんな心情を察したにもかかわらず
「…………魔物にだって家族はいる。そんな家族を人間に殺されてつらい思いをしたやつだっている。お前らが狙うサタンのことを恩人だと、救いの手を差し伸べてくれた救世主だと言うものも少なくはない。もし俺がここを通してお前がサタンを倒したらきっと俺たち魔物は哀しみに溺れ、復讐に燃えお前を殺しに戦争を起こすだろうな。お前を探すために街を襲い、居場所をなくし、無関係の人間を殺し、お前を見つけ殺してもその怒りは収まらないだろうな。人間を滅ぼそうと考えるんじゃないかな」
────何をムキになっているのだろうか
「サタンを殺し平和が欲しいなんて言うのはお前らのエゴイズムだ。人間側の考えでしかない。自分たちが幸せであれば、自分が幸せならそれでいいんだと」
———————こんなことを言ったって何も変わらないのに
「…………だったら……どうしたらいいのよ! 共存でもしろっていうの? そんなのうまくいくわけないじゃない」
「誰もそんなこと言ってねえだろ」
「だったらなんだっていうのよ!」
怒鳴り声が平野一帯に響き渡る
「何も変わらねえでいいだろ」
「……え……?」
当然の疑問だ
「世界は弱肉強食。結局は弱いのが悪いんだ。勝ったら勝った。負けたら負けた。ただそれだけだろ?」
「答えになってないわよ」
「えっとな、今はお互いに敵がいるからある程度の平和があるんだよ。最悪の状況ではないんだ」
「……どういう……こと?」
「魔物が人間を滅ぼす、人間が魔物を滅ぼす。このお互いの目標が達成されたら次はどうなる? 平和が訪れるか? そんなわけない。訪れても一時の短い間だけだ。すぐに次の敵を見つけるだろう。その敵が味方から選ばれるんだ。これが俺の思う最悪の状況だ」
敵を倒した後は味方だったものから敵を探す。
消えたらまた同じことを繰り返す。
これ以上に醜いものがあるのか。
「だから俺は現状維持のためにここにいるんだ。お互いの最大の敵が絶対に倒せない圧倒的な力を持っていると思い込ませるために、ここを通る冒険者を襲い、魔物達には最弱であるスライムの俺がまだここで生きているということで冒険者は来てないと思い込ませることができているんだ」
「……だったらあたしのしていることは……間違いなのか…………」
「だからそう決めつけんなって。こんなのただの自己満足だ。自分で好き勝手に動いてるだけ。好き勝手に動いてるって大まかに考えたら、お前がサタンを、俺を倒そうとするのはお前の勝手でやってることは俺と同じなんだよ。俺の言ってることがあってるなんて俺しか思ってねえからお前もお前がやってることを信じればいいんだ」
冷静を装うことが難しくなっている
もう感情が爆発しそうだ
「でも……あんたが言ってることに一理あった。共感できた。だからきっとあたしは…………」
「だからなんでそういう風に考えるんだよ! 幸せが欲しいんだろ? 人生を楽しみたいんだろ? だったら思ったことを、感じたことを、好きなことを自由にやればいいじゃねえか! 人の意見に流されてんじゃねえよ! 人のために、他人のために生きるな!」
「で……でも─────」
「でもじゃねえ! 今回お前は人間の幸せのために魔王を倒しに来たんだ。その途中に出会った特別強いスライムに負けた。今はそうなんだ! だから今度は負けないように仲間を引き連れてでも、強くなってからでも、何をしてでも俺を殺しにくればいい。俺はずっとここにいるんだから」
人間ならばのどが張り裂けるばかりの声で叫んだ
────おかしい。
────こんなに叫ぶことなんてなかったのに。
────なんだこの違和感は。
……………………
────そうか。
────きっとうれしいんだ。
────今までこんなに真剣になったことなんてないから。
────自分の思いを誰かに話したことなんてなかったから。
────…………だから
「そっか…………そうだよな。なんで意地張ってんだろうなあたし」
「ああ、なんでだろうな」
「…………好きなように、かぁ。…………だったらさ、今はあんたを倒す。これが今のあたしがしたいことなんだけど…………いいかな?」
「それが本当にしたいことならいいと思うぞ」
「…………ありがと。それじゃあ…………」
立ち上がり剣を構え、絶叫しながら突撃してくる。
分身体を戻し、スライムも剣を構えた。
二人とも笑顔で。
ボロボロの少女と少年の姿をしたスライム。
戦っているときも二人は笑っていた。
この時この瞬間、不安も、心配も、恐怖も、苦悩も、退屈も、後悔も、全部忘れて。
────心の底から笑っていた。
「なあ、どうだった」
ただでさえ疲労している身体をフルに動かし、腕を上げることすらほど難しい。
そんな状態のサーシャの横に無防備に座り少年のスライムが問う。
「…………楽しかった」
「…………そっか。俺も楽しかっ────」
スライムも『楽しかった』と彼女に告げる前に彼女はもう寝入ってしまった。
「……ほんと…………自分勝手だな」
本能や情に流されることなく理性で動いた少女。
自分の言葉で何かが変わった少女。
そんな少女の方を見て
「ありがとう」
その言葉が口から出た。
何がありがとうなのか、なぜありがとうなのか分からない。
だがきっとこのスライムは変わったのだ。
今までにない出会いをし、刺激を与えてくれて。
つまらない生き方をしていた自分を変えてくれた彼女にもう一度
「ありがとう」
と今度は理由をもって。
「さてと」
何もない空間に手をかざした。
するとその場にギルダが現れた。
「……は、え、こ、ここは」
「おい」
急にテレポートさせられ状況把握できないギルダに声をかけ
「こいつを連れて帰ってくれ」
「お、お前は…………さっきの…………」
「俺のこととかどうでもいいからこいつを…………」
「し……死んでるのか……?」
「死んでねえよ。ちゃんと生きてるさ」
「そ、そうかわかった」
なぜこんなにもあっさりと言うことを聞いてくれるのかわからなかったが、聞き分けがいいということで納得した。
ギルダはサーシャを背負いアストラへと向かおうとしたとき
「あ、待て!」
「は、はい」
「そいつが起きた時に『またこいよ』って伝えてくれないか」
「わ、わかりました!」
そう伝言を頼みギルダたちを見送。
そろそろ街についただろうという頃。
また青空を見上げていた。
今度は退屈となんて思わなかった。
その代わり
「次に会ったときは名前でも付けてもらおうかな、なんて」
欲しがりなスライムは笑顔で幸せを感じていた。