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魔王、過去の話をする?

 



 物語は語られる……

 ーーー勇者が魔王を倒す物語を……。




「私がいた、世界は……戦争(あらそい)で、絶えなかった。人類は生き残る……ために、争って、女を奪い……子を殺した」


 口を開いた。魔王が。

 人気のいない階段で俺と妹と、魔王が座っている。妹は弁当を口に運びながら魔王の話を聞いている、態度の悪いやつだ。

「なんともひどい世界だな」と感想を述べた。


「ええ。……繰り返す世界に、憂いた私……は、ずっと……考えていた。みんなが、魔物も……人類も幸せでいられる、幸せな世界がどうやって作れるか……」


 魔王は前髪から見える青紫色の瞳が僕を見つめてきた。ドキッとした。そして視線があったと同時に恥ずかしくなったのか魔王はすぐに視線を切るように前髪で目を隠した。


「その結果が……支配だった」


 支配……。統治とかか。

 魔王は右手で前髪をくしゃっとした。


「私、は魔王として……立ち上がり、世界を支配をしようと……した。争いもなく、平和な世界を……目指そうとした。だけど、魔王(わたし)とは悪の……権化であり、いつしか魔王は……人類の、共通の敵となった。そして人類は……結託し私へと、向かって来た」

「まぁ、世界を平和にしようとする者が魔王であれば人類は異議申し立てるだろうな」


 まったくもって自然な出来事だ。独裁者が現れればそれに反感を持ちクーデターなりなんなりおきるのが当たり前だ。どこかのドイツ人みたいな事にもなるし、結果的にあのドイツ人って自殺だったっけ。


先代の魔王(おとうさま)達も、これまで……支配をしようと、躍起になり……その事ある、ごとに勇者によって……野望を潰されてきた」


 そして私の野望も魔王であるが故に潰されたというわけかと解釈した。

 しかしその彼女の顔は悔しそうな顔をしていなかった。むしろ満足したような顔をしているような気もしていたのは俺の見間違えではないだろう。

 そして魔王は微笑む。満足げな、まるで見知らぬ野原に咲く小さなスミレのような笑顔だ。


「私は、それを受け……入れた。悪の権化と、言うならば私は……悪の権化らしく、振る舞い続け……邁進した。そして、魔王は……先代の魔王達と同じように、打ち滅ぼされ……勇者は、正義を掲げ……勝利し……平和となるはずだった」


 世界平和を祈ったとしても、悪というならば、それを間違っているというならば、それを絶対悪として打ち滅ぼされ、世界が平和となる。彼女はそれを願ったんだ。

 ひどい手の込んだ自殺だ。


「だけど彼方は、魔王(わたし)を倒そうとは……しなかった」


 魔王は俺の隣で弁当を食べ終わり爪楊枝で歯の間に挟まった葉物を取っている妹を見ていた。胡座で座っていて本当妹なのかと目を細めてしまった。


「彼方は、私を倒すことをせず……私を救い出し、さらに彼方が住む世界(こっち)に連れて……来てくれた」

「えっと、つまり」


 そこで満を持して! と言わんばかりに話に割って入る妹。爪楊枝を咥えながら。酔ったおっさんかお前は。


「つまり、こんな美女を私は見逃すわけにはいかなかったのよ!」


 理由がめちゃくちゃだー。いや、全然理由になってねぇー! と心の中で棒読みに言った。ない胸を張り、ガッツポーズを取る。無意味に。対する魔王は顔を真っ赤にして俯く。おそらくこんな美人という部分に反応したのだろう。


「私は彼女を連れ出し、異世界の人達に魔王は倒した! もう平和である! と宣言して、魔王と一緒にこっちに来たのよ! まるで駆け落ちみたいだね!」


 そして悪戯っぽい笑みを浮かべながら言う姿に俺は絶句した。

 だって魔王を倒さず、その魔王を逃す手助けをして? さらにその貧乏くじを引いたのが俺が住んでいるこの世界で? しかも俺の高校? しかもよりによって魔王。大事な事だから二回言わしてもらったよ。


「なるほどねー……すげぇな。我が妹よ。ってそう簡単に納得するかよ! 言っとくけどまず異世界ってことを俺は信じてないからな!」

「これだからダイヤモンド級に頭が硬いんだか痛い痛い痛い痛い痛い! ごめんなさいごめんなさい! お願いだからその硬く握り締めた拳を作るのやめてー!」

「さっきからムカつく! 鉄拳制裁!」


 頭を拳骨で打ち付けようと構えると、まだ殴ってないにしても痛いと訴え謝罪をする妹。

 これ以上茶化しても話が進まないと思い拳を解いた。それを確認した彼方は口早にいう。


「それより、魔王を倒した証拠に首を持って来いと言った国王がいたのよ」

「ほう」

「魔王の首と引き換えに転移魔法と財産の半分をくれてやろうっていう金品でモノ言わせる人でね、まぁ私は大っ嫌いだったよ」


 でもまぁ、そりゃ戦利品もない状態で魔王を倒したよなんて言っても証拠がないわけで信じてない奴がいるに決まっている。


「その国王はどうしたんだ?」

「顔面に一発、拳を放ってあげた」


 ……おう、我が妹すげぇ。

 一国の王ですら拳一発で黙らせたのか。まぁ、そりゃ魔王も倒すくらいだし、人類の耐久度がどれくらいなのかは知らないけど多分とんでもない痛みだったんだろうな。


「そしてこう言ってあげたのよ! そんなに信じられないなら自分の目で確認しろってね! 魔王の城は動かないからってね、それにこの拳は序の口のまた序の口だよ? 本気で殴ったらこの国滅ぶかもしれないけどそれでもいいの? って聞いてあげた!」


 しかも煽ってきた……!?

 国滅ぼす宣言もしちゃってる!? なにやってんだこの妹……!

 あははは、と軽い感じに笑っているけど状況は最悪じゃないのか!?


「そしたらその王様顔面真っ赤にしながら黙っちゃったよ! あはは、あれは滑稽だったなーって思うよ」

「彼方……あれはやりすぎ、だと思う」


 魔王もその場にいたのかよ。


「別にもうあの世界には(ゆうしゃ)を必要としていないしそれに救うべきものを救ったし、あれ以上助けたらあの世界は平和を通り越して魔王ちゃんが望まない結末を迎えちゃうよ?」

「……それは、困る」

「いやいやいや、それよりももっと重大な話があるんじゃない? なにしちゃってるの!? この馬鹿妹!」

「え? なんで?」


 おい。


「なんでじゃないだろ!? お前一国の王に喧嘩売ってそのままこっちに帰ってきたんだろ!? 全然良くないじゃん! こっちに攻めてきたらどうするんだよ!」


 そう、現実世界に軍勢と襲いかかってきたらどうするんだよ。それこそこの世界はパニックになるだろう!

 それに対してきょとんとした顔をして俺を見てくる妹。あれ、俺変なこと言ってたの? 変なこと言ってるなら早く言って!


「あぁ、それは気にしなくていいよ。異世界(あっち)現実世界(こっち)のこと知らないから。未知の領域には踏み出してこないと思う」

「そんな簡単なことなのかよ……!?」


 そんな俺達を見ていた魔王はくすくすと笑っていた。

 その彼女を見ていた俺に気づいた魔王はあ、えっと。とすぐに緊張した顔をした。


「彼方は……悪くない。彼女は、私の……私が死ぬ運命を、変えようと……頑張ってくれた。それに、私はもう……あそこに帰れない……」


 両手で胸をおさえる。妹とは違うものがあるなぁ。お淑やかさとか胸の大きさとか。


「だから、信じて……欲しい。彼方のこと、……私の事を」

「……」


 そんな必至に言われてしまっては俺はどう言えばいいんだよ。彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。

 信じないなんて言ったら……。

 そんなことあるか。と俺がいったら……。


「比良坂さん。でいいかな」

「はい」

「信じるよ。こんな妹だけど仲良くしてやってくれ」

「……! ……はい」


 満面の笑みを向けてきた。前髪でよく見えなかったが青紫の両目が嬉しそうだった。

 あ、やばい。すっごい可愛いって思ってしまった。

 それを見ていた妹はむふふふ。と鬱陶しそうに笑い、俺の背中を叩いてきた。無駄に痛いし!


「あーららー? 兄ぃ顔が真っ赤っかよ?」

「う、うっせ!」


 恥ずかしくなり立ち上がり魔王と妹を置いて階段を降りていく。

 とりあえず、魔王のくせに魔王じゃない変なやつだと思った。

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