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勇者、魔王の存在を黙認する。

 

「兄ぃ! きたよ! ご飯たーべよ!」


 昼放課。教室の扉をバーン! と思い切り開いてきた妹に俺は頭を抱えた。その反面安心した顔をしてしまった。異世界にまた行ったとかそんな話が来なかったからとか、ちゃんと約束通りに来たとか心情は複雑ではあるが……。


 とにかく隣にいた自称魔王が恐ろしかった。


 妹はニコニコと笑いながら、左手には大きな布で包んである弁当を提げていた。明らかに僕より大きな弁当箱。そんなのどこにあった? 重箱みたいな大きさだし。

 もちろんクラスメイトはいつもの事だと言わんばかりにこちらを見てくる。全然違和感ありまくりなんだけど。

 その光景に空間にいてもいられないこの状態に俺は、「こっちに来い」と言って廊下に連れ出した。

 後ろで「あ、ちょ」と弱い声が聞こえたが無視だ無視! いまはそれよりもやらなきゃいけないことがあるんだよ!


「え、兄ぃ、私と愛の契りでもするの!? ダメだよ! 私と兄ぃは血が繋がった兄妹なんだよ!」


 手を繋いでいたその右手に「きゃー!」と歓声を上げている妹にイライラしてくる。くねくねと体を身悶えさせながら次々とピンク色の発言ばかりしていた。


「それより兄ぃ、学校であんなことやこんなことするのはどうかと思うの! ちゃんと家に帰ってからやろう? 大丈夫! 私はどこにも逃げないから! するなら家で! あ、でも別にトイレでも構わなへぶぅ!」


 思いっきり脳天に空手チョップを繰り出す。ゴッスン! と鈍いが響いた。地味に繰り出した手の方が痛い! ジンジンする!


「……いってぇ……!」

「何するのさ兄ぃ! 頭の中身漏れそうじゃない!」


 涙目でこちらを見てくる。


「お前のそのピンク色の頭かち割って少し真面目な脳みそ詰め込んでやる!」


 そしてピンク色の脳みそを焼却処分だ。この野郎!

 脳天の部分をさすりながら彼方は反論する。


「兄ぃ、人間の脳みそは若干肌色な感じだよ!」

「そんなのきいてねぇよ! ……って、脳みそ見たことあるの?」


 うん。と頷く我が妹。


「……」


 アイデアロール振られたような状態だった。なんていうか、こう、脳みその話をされて、自分の頭にも脳みそがあって、その脳みその色が肌色気味でと連想していく。そしてそれを妹が見ている……。連鎖的な思考から生み出される結末は恐怖だった。

 おうふ、お兄ちゃん超ショック。聞きたくないこと言われちゃったよ。死恐怖症(タナトフォビア)発症しそうだよ。


 ◇


 人気のない階段を見つけた直後に、俺は教室から弁当を持ってくることを忘れたことに気づくが、まぁこの際どうでもいい。今は俺の教室に現れた自称魔王の話をしなければならないし、そもそもあの魔王の隣で悠長に話していたら襲われそうで怖い。

 とりあえず深呼吸をして落ち着こう。ひっひっふー。ひっひっふー。ちげぇし! 自問自答とノリツッコミの一部始終をじっと見ていた妹はただ俺を見てるだけだった。

 気を取り直して深呼吸をしよう。すーはー……。


「なぁ! 俺のクラスに魔王が来たんだけど!」


 あ、無理でした。

 きょとんとした顔をする妹。あたふたしている俺をじっと見ているだけだった。むしろ頭頂部にクエスチョンマークが三つ生えてるように見えた。


「なぁ! 俺のクラスに魔王がいるんだけど!?」

「うん。しってるよ」

「そうだろ!? いやほんとびっくりなんだけどお前勇者なんだ……え、しってるの?」

「うん。しってるよ」


 意外とあっさりだった。たか知ってるって何? なんで知ってるの?

 ぷっと息を吐き出した妹に俺の癪に障り、ムキになった。


「いや、お前の宿敵がいるよ? お前が倒さなきゃいけない存在だろう? なんでしってるよで済むんだよ」


 手を振り、冗談よしてよ。というジェスチャーをする。


「いやいや兄ぃ。頭が固すぎるよ、兄ぃの頭はダイヤモンドみたいにカッチカチだね」

「……」


 とりあえずげんこつを食らわせた。もちろん痛いのは俺である。


「いったいじゃない!」

「お前がムカつく。だから気がすむまで殴っていいか?」


 今俺はものすごい機嫌が悪いんだ。たった一日でいろんなことがありすぎて頭が回らない。

 妹が帰ってきて、妹が同じ学校で、そして魔王(自称)がやってくる? 一般人なら全く理解できない域だ。

 つまり俺は今正気ではない。仕方ないね!


「あぁ! ごめんなさい! ちゃんと説明するから! 許して!」


 全力で謝る妹。だいたい三年ぶりか……。懐かしいなこの感覚、だが弁明の余地なしの判断をし、握りこぶしをつくった。いつもより固めに。


「お兄ちゃん、その拳は……!」

「この拳がわかるとは……これはお前の根性を叩き直すための拳だ……ッ!」

「……だ、め!」


 振り上げた拳を言葉と共に阻止された。袖をぎゅっと握りしめられている。

 後ろからだ。俺と妹以外に誰かがいた。


「魔王ちゃん!」


 なんですって? 恐る恐る後ろを見る。しかしあの時の魔王とは全然違うやつだった。ビクビクと子鹿みたいな震えをしている。


「それに、ついては……私が、言う……から」

「魔王ちゃん、これは私と兄ぃの問題だから……気にしないで!」


 両手を広げて「さぁ、どこからでもかかって来なさい!」と大声でガンジー戦法を繰り出す勇者。無視だ。

 とにかく後ろに魔王がいた。というか、いたのですか? あの前髪あげた状態じゃなくて、その前の前髪で目を隠したような状態だった。もちろんびっくりした。

 そんな俺の視線を受けている魔王はビクビクとしながらボソボソと喋り出す。


「兄妹で……喧嘩は、良くない……です。ちゃんと話し、あいを」


 魔王らしからぬ口調だ。本当に魔王なのか? そんな視線を彼方に向けると首を縦に何度も振る。


「……はぁ、わかった。とりあえず手を離してくれないかな?」


 そういうと、魔王の手が離れた。多分、俺を呼び止めようとした声はこの子だったのだろう。アホ毛がぴょんぴょんと嬉しそうにはねていた。


「ところでいつからいたの?」

「彼方と……一緒に教室を、出た……あたりか……ら?」


 最初からじゃねぇかよ。

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