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俺たちの青春に【魔王】と【勇者】はいらない。  作者: 綟摺けんご
魔王と勇者、購買戦争をする。
27/55

勇者、魔王と購買デートをする。

 

「あ、起きたか愚妹よ」

「……なんで私、起きた瞬間に兄ぃに罵られているのかな?」


 忘れてるんじゃねぇよ、馬鹿。

 無傷な状態で彼方が目を覚ましたのを確認した俺は椅子に座り覗き込んでいた。

 そしてつま先で彼方の頭をコツンと小突いた。

 ちなみにフローリングで寝転がっていた彼方の周りには小鬼達が捌いていた食料の骨などが囲んでいた。

 小鬼達が勇者が死んだと思って供養という意味でおいたのだ。みてるこっちは悪戯に近いものを感じた。

 年頃の女の子の周りに骨とか置いたらそれはびっくりするだろう?

 しかし彼方は起き上がると周りを囲んでいた骨を見るが驚きもしなかった。見慣れているのだろうか? 人の死を。


小鬼(あのこ)達が置いていったの?」

「勇者が死んだ! とか叫んでいた」


 小鬼の真似をすると彼方は頬を膨らませた。


「失敬な! 勝手に勇者を殺してどうするのだ!」


 気を失っていた身で何をいう。と突っ込むと彼方は眉間にシワを寄せてうーんと唸る。

 外を見る。太陽はそろそろ地平線にある山に吸い込まれようとしていた。


「あれ、今何時?」

「十七時。あ、舞麻からは一通り話は聞いたから」

「そっかー。私いらなかった感じかな」


 寂しそうに彼方は呟き、肩や背中に着いた埃を手で払った。その背中は寂しそうだ。

 その姿に俺は彼方の頭を優しく撫でる。


「必要だよ。ただ、舞麻に加担しすぎだと思う」

「えぇー……」


 嫌そうな顔をし、頭を撫でていた手を払われる。

 頭を撫でるの嫌だったかな。


「彼方……起きた?」

「あ、魔王ちゃんおはよー、相変わらずいいおっぱいだねー。揉ませて?」


 アクロバティックに起き上がり、両手を前に突き出して走り出す彼方。

 それを反射的に後頭部を掴み阻止した。


「エロじじい。帰るぞ」

「あぁ! 嘘です嘘です! 恥ずかしがる魔王ちゃん見たくなっただけだから!」


 その舞麻が、胸を両手で抱き身をよじらせてるんだから嫌がってるんだよ。やめて差し上げろ我が妹よ。


「えー、でも甘ーい声を漏らしながら顔を真っ赤に染めてる魔王ちゃんとか見たい……みたくない!?」

「実兄の目の前で鼻息を荒くして他人にセクハラをしてる妹は如何なものかと思いますが!?」


 いーやーだー! と叫び散らしながら全力で対抗する彼方の首根っこを掴み引き摺る。


「じゃっ、俺たちこれで!」


 これ以上舞麻達に迷惑はかけれない。


「えー、つむぐかえるのー?」

「もっとここにいてー」

「ご飯食べていけばいいじゃないのー」


 小鬼トリオが行く手を阻む。しかしな小鬼トリオよ。危険な人物置いて行くより持ち帰った方が得策だと思わないのかね。


「あ、紡さ……」

「じゃあ! 俺たちこれで失礼するから! また明日な!」


 そう言って俺たちは舞麻の家を後にした。




 ◇




 翌日。


「兄ぃ! 購買に行こうよ!」

「はぁ?」


 午前中の講義が終わり、ひと段落したーと体の力を抜いていた時に教室の扉が勢いよく開きそこから彼方が飛び出てきた。いや、進撃してきた。

 そして大きな口を開きながら俺に言ったのは購買に行こうよ! だ。

 なにを突然という表情を見せると彼方はウキウキとした顔を返してくる。


「今日は購買の弁当を食べたい気分なの! ねーねー、たまにはいいでしょー?」

「……」


 ちらりと舞麻を見ると、彼女は特に反応を見せなかった。


「別にいいけど……」

「よしっ! じゃあ魔王ちゃんもいこうよ!」

「えっ」


 突然の振り方に流石の魔王様でも驚いたのだろう。キョトンとした顔をしていた……目は隠れていたけど。


「今日は購買デートだー!」

「いや、なんでデートなんだよ」


 まー、そう言わずにー! と彼方は俺と舞麻の腕を掴み購買に連れていかれた。


 相変わらず購買は生徒と教師が順番に待つ長蛇の列がある。


「おい、彼方俺今日弁当持ってきてるんだけど! というかお前も弁当持ってきてたよな!」

「弁当は別腹だよ!」

「お前食いすぎだろ!?」

「か、彼方……私も今日、弁当を持ってきていて……」


 おどおどとしている舞麻。まぁ、ここは購買で人目が多い場所だしなぁ。

 視線恐怖症とか、対人恐怖症とかふつふつと出てるのだろう。

 しかしその勇者は御構い無しに天真爛漫な笑顔を振りまく。


「いーのいーの! 魔王ちゃんはどれだけ食べてもおっぱいにしかいかないじゃん!」

「お前それ失礼だぞ!?」


 というか一番困るの俺なんだからな!?

 え、なんでかって?

 この世の中で一番綺麗だと思うような女性と、胸以外は可愛い妹が俺を挟んでいるんだからな!?


「兄ぃ、今何か考えたでしょ?」


 ドスの聞いた声が聞こえた。

 ……妹よ、ハイライトがない目を俺に向けるのはやめていただけないでしょうか!?


「気のせいだよ、気のせい」

「胸以外って思ったでしょ?」

「思ってない思ってない」


 あぁ、両手に花とはこういうことなのだろうか……。片一方は毒があるし、もう片方は異世界産だけど……。

 この妹どこの子ですかー!?

 そして周りの視線が痛い。主に男子! 見せもんじゃねぇぞ!


「ささ! 順番が来たよ! 兄ぃ!」

「だから俺は弁当を持って来たって言っただろ!」

「そっか! じゃあ、私はカレーライスとー月見うどんとー」

「どんだけ買うんだよ!?」


 そのツッコミに彼方はドヤ顔ダブルピースをしてきた。


「購買の料理を制覇するためだよ!? 兄ぃも魔王ちゃんの料理を食べて胃袋ぎゅっと掴まれないとだめだよ!」

「……彼方!」


 舞麻がなぜか顔を赤くしてる。口を開閉してあわわわと慌てている様子だった。

 だめだこりゃ、この妹を異世界に返品したいっ!


 俺の妹だけどね!

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