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俺たちの青春に【魔王】と【勇者】はいらない。  作者: 綟摺けんご
魔王と勇者、購買戦争をする。
13/55

魔王、俺とデート(?)をする。

 到着した場所は通学用に使っている駅だ。息を上げ、全速力で走ったから口も乾いている。その上梅雨の時期だから湿った肌に張り付く服が気持ち悪い。

 前は辺境の地に連れて行く電車とはいったが、実は俺と妹が使用する駅は本線の駅と同じでしかもそれなりに都会な駅へと行ける線路が2つある。まぁ、簡単に言えばローカル線ではなく、本線から別れる枝みたいな線路だ。説明しづらいから理解してくれ。


「いるかな……というかどこにいるんだろう」


 その駅には待ち合わせに適した場所がない。だから探すのに時間がかかるだろう。事前に待ち合わせの場所を指定しておけばよかった。

 例えば喫茶店とか、本屋とか。考えれば考える分だけ後悔が増えていく。

 そしてそいつの知ってる服装。俺が制服くらいで、休日や学校を終えた後、どんな私服を着ているのか想像なんてしたことがない……おそらく黒い服がとても似合うから黒い服を着ているのだろう。

 どんな服をきているのか予想しながら人混みを逆らいながら進んでいくと、その目的の人は割とすぐに見つかった。

 人混みの中で一つだけ咲き誇るように凛と立つ姿に俺は息を飲み込む。周りはざわざわとしながらそいつの周りだけ入り込まないようにポッカリと空いていた。

 比良坂舞麻、少し前にやってきた別世界の魔王。

 裾の丈が前は短く後ろが長い黒のワンピースに赤と白のチェックのミニスカート、そしておそらく素肌を見せることに抵抗があったのかストッキングを履いて、ふくらはぎ辺りまでの茶色のブーツを履いている。蒸れないのだろうか。

 おとなしい中にある色気とかその他諸々がとりあえず俺や俺と同種である奴らにとっては毒でしかなかった。しかしこの毒は甘く相手を誘惑する食虫植物のようなものだと客観的に見る。

 そしてこの魔王、視線が突き刺さるのかとても死後硬直の如く固まっていた。視線だけぎょろぎょろとしている。とても怖い。


 とりあえずポッカリと空いた場所に入ると舞麻と目があった。


 助けて。という視線がものすごい突き刺さるんですけどなんなんですがね。これ、一応彼女異世界で魔王だった人なんですよ?

 一つ咳払いしながら近寄っていく。あぁ、視線が痛いなぁ……主に男性の視線が。狙っていたのだろうか?


「わるい……待ったか?」

「い、いえ……私も今来た、ばかりです」


 嘘をつけ、絶対ずっといただろう。体と声震えているし、あと半分泣きかけているぞ。

 生まれたての子鹿のように震えていて見るに堪えない。


「とりあえず場所を移動するか」


 ここじゃ話にもならない。俺はえっとー……と、少し考えたあと右手を差し出した。魔王である舞麻はどんな反応をするのだろうかと思ったし、かなり恥ずかしかったからだ。

 なんせ女性と手を繋いだことは妹と母さん以外にいない。

 そう思うとぼっと顔から火が出るような恥ずかしさに襲われる。


「……」


 何も考えず手を握ろうとした彼女の手は一度止まると、ちょっとだけ手を開いたり閉じたりしたあと袖口をつかもうとするが、残念だ魔王よ。俺は半袖だから手首には袖がないのだよ。

 さて、どう出るのか。と見ているともわっと頭から湯気を出す。


「さ、触らないでくださる?」


 ……やや魔王モードっ!

 手をパシッと軽く叩くように払いのけると彼女は隣をすれ違う。しかも軽く鼻で笑われた気がした。


「……あぁ、わかりましたよ。魔王様」


 ははは、と乾いた笑いが込み上がる。差し出した手をしまうと俺は舞麻の後ろを歩いた。



 ◇



 駅の中にあるコーヒー店に入った俺達はコーヒーをそれぞれ頼み、空いてる席に座った。店内はコーヒー豆を挽く音とその引いたことによって生じたふんわりとしたコーヒーの匂いがしている。しかしそれらは店そのものを作り出していていい雰囲気を持っていた。


「ところで、その服はどこで買った?」


 何気なく聞いてみると非魔王モードの比良坂は人差し指で頬を一度引っ掻いた後、


「家の……近くにあった、アパレルに……行って、アンサンブルで売られて……いた物を、そのまま……購入して来まし、た」


 と舞麻が答える。相変わらずしどろもどろで聞き取りづらいなぁ。もう少し流暢に話せるようになったらいいんだけど……。


「よく、できたな」

「えへへ」


 彼女自身が視線恐怖症や対人恐怖症でありながら、誰もが振り返る美しさという矛盾を持っているのにもかかわらず、わざわざアパレルに行って服を買うなんて大変だっただろう。

 その質問に返事をしていた非魔王モードの彼女はコーヒーを一口した後、苦かったのか角砂糖を一個また一個と入れていく。


「見下した……気持ちで、いればなぜか……落ち着いたので」


 ぽとっ、ぽとっ、と音を鳴らして入れた角砂糖の数は七つ。入れすぎじゃないか?

 マドラーを手にするとくるくると四回ほど回した後また口にすると「はふー」と頬が柔らかくなるような落ち着いた顔をした。


「コミュ障だわ。これは」


 ムッとした顔をする舞麻に俺はすまん。とすぐに謝罪をした。


「で、今日はなぜ俺をここに呼んだの?」


 ここに待ち合わせをすると言ったのは俺ではあるが、実は誘って来たのは彼女の方だ。

 その本人はえっへんと自信有り気に胸を張る。ただでさえ大きい胸が強調されて目のやり場に困った。


「敵情視察です」


 ……はい?

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