プロローグのようなもの
ひとつ、私は死んだらしい。
ただし、いつ、どこで、どういう風に死んだのかは覚えていない。
ひとつ、私は異世界へ転生させられるらしい。
今の知識を持ったまま。私が誰かという事だけは忘れたまま。最初から動けるように、人間以外の種族になって。
ひとつ、私には使命というものが特にないらしい。
地球から、地球ではない世界へと渡って生まれるだけの簡単な使命です。
地球での私が死んだ後、今の私が生まれる前。
陳腐な小説のように神様に会って、お決まりのように話をされて。
思う事は色々あったのだけれど、相手は神様だったから、ぐっと飲みこみ承諾した。
そのまま異世界”グラングラン”へと送られて。
私は今、狭い空間からなんとか抜け出そうと、もがいている。
私の身体にピッタリとフィットした、妙に硬い壁。
けれど硬さの割に、壁の向こう側の明るい光が見えている。
ひょっとしなくても、卵の中だったりするのかなぁ。
人間以外とは聞いていたけれど、卵生の生物とは聞いていなかった。
魚や鳥ならいいなと思い、虫だったら嫌だなと思う。
けれど自分自身を見る為には空間が狭い。
卵の殻はとても硬いけれど、もがいてもがいて、兎にも角にもまずは生れ出ねばならない。
自由にならない手足をバタバタと動かし、頭も使ってガツガツと殻を叩く。
ガツガツガツ
ゴツゴツゴツ
どのくらいもがき続けていたのかはわからないけれど、殻のどこかにヒビが入ったような音が聞こえた。
頭のすぐ側だったらしく、少し冷たい風が、外から中へと入ってくる。
冷たいけれど、凍えるほどじゃない。
ヒビが入ったのなら、もう少し。もう少しで、私は生まれる事ができる。
一生懸命にもがいてもがいて、もがき続ける。
卵全体にヒビがまわり、ひときわ大きく手足を伸ばし、頭を振りかぶった時。
見た事のないくらいに綺麗な青色を見た。
どこまでも澄んだ、青く、蒼く、碧い、大きな空。
その空の青さを、私は一目で好きになった。
その空の大きさに、私は生まれた事を実感した。
私はこうして、地球から異世界”グラングラン”へ、人間からドラゴンへ、転生を果たした。