恋の色 肆
やってやった。
やった、やった!ざまぁみろ!
幸せになるなんて許せない。
私を一人にするやつなんて消えちまえ!
悠里も!理夢も!優奈も!ママもパパもおじいちゃんもおばあちゃんも!私を奉る男共も!
全部、ぜーんぶ。私を愛してくれないんだったら、
私の前から消え去ってよ…
ブラックアウトした意識に、ぼんやりと微かな光と声が聞こえる。
「あの、○×*号室の星野さんに会いたいんですが…」
「すみません、面会は家族の方以外は病院側としても拒否しておりまして…」
「ぁ…そ、そうですか、すみませんでした…」
ぼんやりとした何かが離れていくような気がする。
「あら、悠里くん?」
「あれ、悠里!」
「?…あ、理夢のお母さんと優奈!」
「久しぶりね。随分と大きくなって!」
「あ、理夢に会いに来て追い返されたんだぁ〜?はっずかしい!彼氏の癖にぃー!」
「うるせぇ…意外と恥ずかしいんだよもうちょい優しく言えよ!」
「幼馴染に遠慮はいらないんです〜!」
「そんなん聞いたことねぇよ!」
「あら、悠里くんいつの間に理夢の彼氏になったの?」
「「へ?…あ!」」
「えっと、あの、それに対してはあの…」
「こいつの恋なんで、お願いします、理夢ママ!」
あったかい…何でだろう、光がちょっとだけ強くなった。声も明るくなったし、忘れちゃいけない何かがあるのかもしれない、な…
「全然良いのよー?理夢に彼氏ができるなんて嬉しいわ〜!」
「え、あ、ありがとうございます?」
「じゃあ理夢ママ、悠里!行きましょー!」
「そうね、悠里くんも行きましょ?」
「あ、ありがとうございます。」
あぁ、起きたい。きっと光が私の元に来ているのに。瞼は動かず、なにも感じられない。
「理夢ー?入るわね〜。」
「理夢、お邪魔しまーす!」
「お邪魔します…」
「よく寝てるわ…どんな夢を見てるのかしら。」
「…そうですね。そう言えば理夢ママは、理夢の名前はどうやってつけたんですか?」
「あ、それちょっと俺も気になります。」
「あら、気になっちゃう?そうね、理夢の名前の理由は…ぽかぽかしてる春に生まれたこの子が、ピシリとしているけど、人に愛される、みんなに愛されるとっても可愛いくて、もうどうしようも出来ない愛らしさをもった子にしたくて、理夢って名前にしたの。」
「そっか。理夢の誕生日4月ですもんね。」
「愛される…」
「…じゃあそろそろ悠里くんも理夢に自由に会いたいだろうし、家族なしでも会いに来れるように病院の人に伝えとくわね?」
「そ、それはっ!?…ぁ、ありがたいですけど…」
「よかったじゃん悠里ー?」
「うふふ、本当に二人は仲良しねぇ…二人ともうちで何か食べていく?」
「え!ほんとですか?行きまーす!」
「え、じゃあ俺も!」
「じゃあ、またくるからね、理夢。それじゃあ行きましょう?」
光が離れる。暖かさを一度知ってしまった私は、この冷たさを体に感じて、じゃあ暖かさを感じなければ良かったと一瞬思う。でも、暖かさを感じたからこんなに頭が働くのかな?とも思って、少し頭がぐるぐるする。行って欲しくない。行かないで。誰だかは分からないけど、私の大切な人…
「あの、理夢のお母さん。」
「あら、どうしたの?」
「おっそいぞ悠里!」
「俺、やっぱここに残ってていいですか?」
「…全然いいわよ。理夢をよろしくね?」
「はい、ありがとうございます。」
「…理夢は今眠ってるんだからね。変なことすんなよ?」
「するわけねぇだろ?…じゃな、優奈。」
「…またね。」
「またね、悠里くん。」
あったかい…ぽかぽかしてほんわかしてて、まるで天国みたい。でも、周りがわからない。目も見えなくて。
『ねぇ、貴女は楽しいの?』
誰?私、今、どこにいるのか分からないけど、あなたは誰なの?
『私は貴女なの。』
へぇ、そうなんだ。私にはもう一人がいたのね。ねぇ、あなたは私が今分かりたいことが分かるの?
『分かるわ。貴女が分からないことは私が分かるもの。』
じゃあ、私が知っていることをあなたは知らないの?
『そうね。そうなるわ。』
じゃああなたは少しだけしか物事を知らないんだよね?そういうことでしょ?
『馬鹿ね。貴女が知らないことを知っていると言ったでしょう?貴女が知らないことをどれだけ私が分かると思うのよ。本当に頭の回らない子。』
…そんなに攻めなくたって良いじゃないの!私だって天才じゃないんだから…
『あら、そうだったわね。…あぁ、貴女と私が反対だったら良かったのに。そう私は思うのよ。それも毎日。』
どういう事?
『貴女と私が交換すれば、天才の私が表で、馬鹿な貴女が裏よ?ふふっ、面白いわねぇ。』
面白くなんかない!私は私なのっ!心の中のあなたになんか渡さないんだからっ!もうどこか行ってよ!こんな、こんな事を話すためだけに私の近くに来たっていうの!?
『あらあら。そういうところが馬鹿だと言っているのよ。ふん、それじゃあね、表の私。』
さようなら。二度と来ないで!
「理夢…俺のせいだ、ほんとにごめん…」
誰?あなたが知りたいのに…本当に大切なあなた。誰なの?教えてよ。
「俺が恨まれるような事しなきゃな、良かったのに…理夢にも飛び火して、ほんとに、俺って馬鹿なやつだよ…」
私は全然苦しくないよ、辛くないから…泣かないでよ、大切な人。
「ごめんな、ごめんな理夢。もしもこの思いが届くんだったら…俺は死んだって良いから…」
そんな事言わないでっ!!ねぇ、大切なの!あなたのために、そう、ためだけに!私が覚悟を決めたの、に…
「理夢…お前が好きだよ。校舎裏で、行ったけど…今日、お前のお母さんから名前の由来を聞いたんだ。それで…恥ずかしいけど、よりお前が好きになったんだよ。」
あぁ、これって。嬉しいんだ。私、嬉しくてたまらなくて、こんなに顔が笑ってる。…悠里くんだ。この名前だ。忘れたくない人。忘れられたくない人。
「だから、理夢…?っ!理夢っ!?」
「ぁ…悠里くん。ひ、さしぶり…」
「理夢!理夢…お前、あっ、待ってろ、今すぐ理夢のお母さんと優奈を呼ぶから…あぁ、その前に看護婦さん…」
「待って、呼ばなくて良いから…」
「なんで、だよ…」
「私、死ぬから…分かるんだよ、何でかわかんないけど。だから最後に…悠里くんに伝えさせて。」
「…っ、おう…」
「大好き…悠里くんしか見えないくらい…次の人生も、悠里くんと恋をできたら、良いなぁ…」
「俺も、大好き、だから…お前、死ぬなよっ…愛しいんだよ、お前が…」
「ごめんね、バイバイ…悠里くん。あの子…わかったの、一番傷ついて、悲しんでる子…」
「誰なんだよ、その子って…」
「鈴ちゃん…」
「それって、俺を押して、お前が死にかけた、元になった奴だろ?なんで、そんな奴の事…」
「それは、会ってみてよ、鈴ちゃんに…優奈と、一緒にね…」
パタンと倒れた。手の暖かさが消えて、顔が白くなった。
悠里くん、またね。




