恋の色 弐
夢の中では、なんでも思い通りに行くって言ったのは誰?
私の夢は不幸なことばっか。卒業式に気持ちを伝えられない私とか、優奈がそんなことするわけないのに、私を裏切って悠里くんに告白する夢とか。
いっちばん最悪だったのは、悠里くんが死んでしまう夢。
それまでは告白出来て、オッケー貰って、有頂天っ!て感じだったのに、悠里くんが道路に誰かに押されて飛び出して、引かれる夢。
正夢?って言うんだっけ。そんなんだったら泣きそうだよ…
「夢…」
目がパチッと覚めて、もう今日は卒業式。卒業していく私は、部活に入っていないから、見送られる後輩もいない。悠里くんはサッカー、優奈は吹奏楽。私は帰宅。文武両道なんてあり得ないって決めつけた私は何にも入らず、ぼーっと毎日を過ごしていた。
「おはよ、お母さん…」
「おはよう、理夢!朝ごはん出来てるから顔洗ってきたら?」
「んー」
テトテト歩いて洗面所。鏡の私は魂が抜けたみたいな顔をしている。
「最悪…卒業式なのに…」
最後の日なのに、とポッと口から出た言葉に涙が溢れそうになり、思わず抑えて顔を洗う。
「シャキッとしなきゃ!」
無理矢理笑顔を作ると、よしっ!と声をあげてリビングへ歩く。お母さんの作ってくれた朝ごはんは、何時もより美味しく、決心した私の心を押したように思えた。
「理夢!優奈ちゃん来たわよ〜?」
「はーい!」
靴下を履いて、玄関へ向かう。お母さんがにこっと人懐こい笑みを浮かべて私に言う。
「私も後で行くから…ちゃんとするのよ?」
「…!はーいっ!行ってきます!」
やっぱりお母さんはなんでもお見通しだ。私はちょっと嬉しくなって、にこにこ笑いながら優奈の所に行くと、優奈が私の顔を見て、ぷっと吹き出すと一言。
「いい顔してんじゃん!」
「ふふっ。優奈こそ!」
トットッと軽い足取りで学校へ向かう。途中で鈴ちゃんを見たが、何時ものように男子に囲まれて笑っていた。
「飽きないねぇ、あの子。何時まであれしてるつもりかな?」
「知らないけど…あれが気持ちいいんじゃない?この前言われた。」
「ふはっ、マジで?やばっ、ちょっと笑えるわw」
お腹を押さえて笑い出した優奈を見て私もくすっと笑うと、バチリと鈴ちゃんと目があった。ニコッとアイドルスマイルを浮かべて手を振ってきた鈴ちゃんに、私もニコッと笑い返して手を振る。
「優奈!いくよー?」
「あー、待って待って!」
バッと視界に飛び込む桜。チラチラと花弁が舞って消えては現れを繰り返す。
「とうとう中学最後の日かー…」
「そうだね…」
「よ、しんみりしてんじゃんお二人さん。」
バッと振り向くと、いたのは悠里くん。優奈が、おー。と声をかけ、悠里くんがそれに何時ものように笑って返す。私も、勇気を振り絞っておはよっ!って声をかけたら、悠里くんは少しだけ驚いた顔をしておはよ、と言って私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「っ…」
「理夢ー?お顔真っ赤だねw」
「そっ、そんなことないしっ!!」
かっわいぃー、と優奈が私をからかうが、言葉とは反比例して私の心はきゅんきゅんと高鳴っていた。悠里くんに触られるなんてそれだけで嬉しいのに、頭をぽんぽんしてくれたんだ、嬉しいに決まってる!
「あ、みんな行ってる…行こう、優奈
。」
「いえっさー!」
卒業式は淡々と進む。涙をぽろぽろ零すお母さんを見て、少しじわりときたが、涙を流すなんて恥ずかしいと思った私はぐっと堪えて終わりを待った。
「終わった…」
「理夢、今日で終わり、チャンスも今日まで!…行ってきな?」
「…ありがとう、私、本当に、何回優奈に助けられた、もう、本当に、ありがとうっ…」
「…お礼の言葉、すっごく嬉しい!でも、理夢が恋を叶えてからそれを聞けたなら、二倍三倍で嬉しい!、だから、がんば!」
「うんっ!」
タッタッと駆ける。悠里くんには優奈が話をつけてくれていたのだ。急いで校舎裏へ行く。
「…あのね、こんなこというの、恥ずかしいんだけど…鈴ね、悠里くんのこと、スキなの。付き合ってくれない?」
耳に入り込んだ言葉に、体がバチリと動きを止める。口から乾いた声が出そうになり、バッと口を塞ぐと、目から暖かな涙が流れてきた。
「…お前、男がいるんじゃねぇのか?」
「やだなぁ、悠里くんみたいなイケメンに告白するんだよ?前に別れたんだよぉ〜」
「…あいつ、お前の事、大好きって言ってたんだぞ?」
「えぇ?鈴しらなぁい。だって、鈴はずぅーっと悠里くんがだぁい好きなんだもん!」
「…」
「ねぇ、悠里くんも勿論鈴が好きでしょお?だって、鈴は可愛いもん!あんな、理夢ちゃんみたいな子につきまとわれたって、迷惑でしょ?」
「…ああ、そうだな。」
ハッとした。悠里くんは迷惑なんだ、嫌いなんだ、私のこと。ウザい、ウザいって心で叫んでたんじゃないか?気づかない鈍感な私を鬱陶しく思ってたんじゃないのか?そう思うと、今までの行動がとても恥ずかしく、いてもたってもいられなくなった。
「俺はとっても迷惑だよ…俺の好きな奴のことそんな風に言う奴がな!」
「っっ!?は、はぁ!?私だよ!?クラスどころか、学校中が、ジジィ共だって私のことチヤホヤして好き好き言ってんだぞ!?付き合わねぇなんて可笑しいだろ!?」
「ほらな、それがお前の本性だろ?」
「は?…っ!!」
「お前が嫌いだよ、鈴。だってお前、女子の悪口言って、男子で遊びまくって、泣かせてんだろ?クラスで不登校になった、佐野夕加里って、お前が虐めたんだろ?」
「あれは、あいつがウザかったから…!」
「ほらな。そーゆうこといって直ぐ自分で責任負いたくないって言ってる。そんなお前…俺は、嫌いだから。」
私がそろりと壁から顔を覗かせると、悠里くんがハッと気づいて、顔を赤く染めた。それをみた鈴ちゃんは、泣きそうな顔をしながら、私を睨みつけて走り去って行った。
「あ…理夢。」
「ゆ、悠里くん、あの、伝えたいこと、が…」
「…俺も、あるんだ。」
「え!あ、じゃあ、悠里くんから…」
「んー…せーので言おうぜ、理夢。」
「う、うん。」
ドキドキ高鳴る胸を押さえて、せーのっと声をあげる。
「「俺と/私と、付き合ってほしい/くださいっ!」」
「…ええっ!?」
「…!うっわっ、ビックリした…なんだよ、俺ら、二人とも同じ思いだったんだな!」
「あ、え、ホント…?」
「マジに決まってんだろ?…入学してあった時からお前の事、好きになったんだ。優奈が俺の事好きなのはなんとなくわかってたけど、それでも、お前の事、忘れられなかった。」
「…私、私も。入学して、同じクラスで、初めてできた友達の優奈に教えてもらった時から、とってもカッコよくて、一目惚れだった。だから、今、とっても…嬉しい!」
笑いあう私は、気づいていなかった。私がいた壁から覗く、復讐の炎に。




