【3】
ワタルとヒロキとユカはフィルーの不思議ないざないによって、フィリアムにあるフィルーの友達の家に辿り着いた。
フィルーはオレンジ色の幕屋の入り口の前で一度立ち止まり、振り返って言った。
「待ってて…」
フィルーは幕屋の中に入っていった。
三人はソワソワし、小声で話しはじめた。
「フィルーの友達ってどんな人かしら…」
「人じゃないかも知れないよ…。考えてみなよ!フィリアムには、見たこともない生き物や存在ばかりじゃん…」
「そうだよ!きっと、見たこともない不思議な存在に違いない。どうしよう…、実は怪物みたいな奴で、僕達を食べようとしたら…」
ヒロキは顔色が悪くなり、不安をこぼした。
すると、ワタルはため息をついて、話しだした。
「それは、ヒロキ…、考え過ぎだよ…。確かに、見たこともない不思議な生物かもしれないけど、フィルーの友達なんだよ!もっとフィルーを信じようよ!」
ユカもワタルに続けて言った。
「そうよ!ヒロキは少し考え過ぎだわ!」
ヒロキは再びため息をつきながら言った。
「だといいんだけど…」
三人がソワソワしているうちに、入り口の幕がだんだんと開いてきた。それからどこからともなく声が聴こえてきた。
「はじめまして」
「はじめまして…」
「さあ、中に入って。フィルーから話しは聞いているよ。僕はオランドレムから来たミッポ」
まず最初に三人の目に映ったのは、湖の風景画であった。魔法によって木々に鳥達が集まったり、羽ばたいたり、風により花々がゆりかごのように揺れていた。下方を見ると、羽がはえた色とりどりの小さな靴が置いてあり、亜麻色の絨毯が敷かれていた。
部屋の中はろうそくの火で照らされており、不可思議な装飾や雑貨でところせましと、溢れていた。
三人は好奇心で辺りを見渡していると、入り口のオレンジ色の幕は閉じた。すると、フィルーがやってきて、ミッポのところまで三人を案内した。
ところが、歩いても歩いてもなかなかミッポのところにたどり着かずに、不思議な品々に囲まれた空間が洞窟のように続いているばかりであった。
ヒロキは言った。
「フィルー、本当にこっちで大丈夫なの?さっきから歩いているけど、なかなかミッポのところに辿り着けないよ…。今からでも、遅くない…、戻ろう!」
ユカも不思議に思った。
「確かに、外から見るよりも中はとっても広いみたいね。一体どこまで広がってるの」
フィルーは、戸惑う三人を感じとり、三人に話しかけた。
「大丈夫…、あと5分もすればミッポと会えるから…」
フィルーからの励ましの声をかけられながら、半信半疑の三人はなんとか、歩みを続けた。すると、ぼんやりと奥から光が見えてきた。三人とフィルーはその光に向かって進み続けた。
その光の中に入っていくと、その光景に三人は驚いた。かつてみたこともない綺麗な花園が三人の前に広がっていた。三人は花園のあまりの美しさに、うっとりした。そこには、フィルーに似た妖精達もいた。
「なんて綺麗な園なの!まるでお伽噺話みたい」
「はははっ、凄いね!!本当だ」
さすがのヒロキも疑いの雲が晴れたようだった。
「綺麗だね…。本当に綺麗だ」
フィルーはそんな三人に言った。
「あそこの丘に一本の木があるでしょ…、あそこにミッポがいるよ…」
白い太陽に照らされた丘は、その幻想的な輝きをもって出迎えた。三人は楽しくなってきて、ミッポがいる木まで駆け出した。
そして、だんだんと木が大きくなるにつれて、その木の下にいる、ある存在に三人は気付いた。
「あれっ、本を読んでいる子供がいるよ」
「本当だ…、もしかして、あれがミッポ?」
「あの子が色々と私達に教えてくれるミッポなの?」
すると、木の下で紅茶のカップのようなものを右手に、左手に本を持ち、オレンジ色のとんがり帽子を被った、小さな小さな男の子がいた。
「はじめまして。僕はフィルーの友達のミッポ。さあ、そこに座って」
ミッポは小さな声で何かを唱えると、木の椅子が三人の前に現れて、三人はそこに腰を降ろした。
ミッポは小さな小さな男の子で声も可愛らしいが、語る内容は成熟していた。
「先ずは、この世界を紹介しないといけないね。君達は僕達と別の世界から来たアーネだからね」
「アーネって?」
「アーネとは、別の世界から来た人達を指す言葉だよ。それと、その赤いヴェール気になるでしょ」
「なんでしたっけ、あのよろず屋のおじさんが、確かスジーとか言っていたような…」
「そう。スジー。スジーはこのフィリアムのエネルギーに順応するために、アーネに授けられるものなんだ。いわば洗礼ってやつ」
「じゃあ…、スジーが無い人っていうのは、フィリアムのエネルギーに順応している人達っていうこと?」
「そういうこと。早くて3時間あればなくなる人もいるよ。つまり、フィリアムの土地が持っているエネルギーを自分のものに出来たのなら、スジーが体内に宿るってこと」
「へぇ~、じゃあこの赤いスジーは次期に僕のパワーになるってことなんだ」
「そう。そのスジーなんだけどね、この世界には7色のスジーがあるとされているんだ」
「7色もあるの?!」
「僕が実際に見聞きしているのは5色までなんだけどね…。僕はちなみに3色のスジーが宿っているよ。この赤いスジーの国、フィリアムと、僕が生まれたオレンジのスジーの国、オランドレム。それと黄色のスジーの国、ナシンジェームさ」
「凄いね!3色も修得したんだね」
「その力で僕の家も、手を加えさせてもらったんだ。なかなかここに到着出来なかったでしょ」
小さなミッポに向かって、ヒロキは深いため息をついて言った。
「そうだよ…。一時は本当にどうなるかと思ったんだから…」
すると、ミッポは申し訳なさそうに言った。
「ごめんごめん。家の次元や空間を変えることで、あらゆる危険から身を守っていることもあるんだ。それとフィルーからは聞いていたけれど、実際はどんな子達なのかさ、この目で確かめたくなって」
「入り口から見えていたの?私達のことを」
「うん、見えていたよ。これも3色のスジーのお陰だよ」
「ふ~ん…、それで…、さっきスジーは7色あるって言ったわよね…。スジーのこともっと教えてよ」
ミッポは紅茶のようなカップを小さな机に置いて、改めて話しはじめた。
「分かった。先ずこの世界について説明させて頂くよ。この世界はエルプロージェという世界なんだ。さっき言ったように、このエルプロージェには、7つの国と山がある。各国ごとに、ラビーシュという祈祷師がいて、この世界を、その祈りの力によって、支え合っているんだ。仮に、ラビーシュが祈りを止めてしまうと、この世界の均衡は大きく崩れてしまうだろうと、言われている。ラビーシュは百年に一度、交代するんだ」
「百年って、ずいぶん、長い間ね」
「この世界の平均寿命は1200歳だから、そんなに」
「1200歳?凄いね…、っていうことは、ミッポって何歳なの?」
「えっ、僕はまだ小さいから80歳」
「80年も生きてるんだ…」
「うん。それから、7つの山にはある秘宝が眠っているとされている。その秘宝を全て集めると、ある世界にいざなわれると、言い伝えられているんだ」
「7つの秘宝と、ある世界?」
「僕が生まれるもっともっと昔の話しによると、ある人物が7色のスジーを自分のものにし、7つの山の秘宝も見つけて、伝説とされている天空界のアスプロージェという場所を旅してきたという話しも、聞いたことがある」
「アスプロージェ?」
「アスプロージェ。なんでもその7つの秘宝は、アスプロージェから与えられたものだとも、言われているんだ」
ミッポがここまで話し終えると、突然フィルーは宙を一度くるりと回った。
「そう…、三人はアスプロージェ…、に行く…。あの方が呼んでいる…。だから…、今から赤い山に行く…。赤い山に行って…、秘宝を探しに…」
ワタルは不思議そうにミッポとフィルーに質問した。
「前から気になっていたんだけど…、あの方…って、どんな方?」
「うん…、それが…、フィルーが言っているあの方のことは…、僕達も知らないんだ」
「えっ!?どういうこと」
「簡単に説明すると、伝言ゲームのようなものさ」
「伝言ゲーム!?」
三人はきょとんとして、ミッポとフィルーを見つめた。
「さっき7つの国とアスプロージェの話しをしただろ?」
「うん」
「この国からは一番遠いけれど親睦が深い国があるんだ。それが紫色のスジーの国、レベヌ。そのレベヌは、アスプロージェに行く際に、橋渡しの国になると言われていて、レベヌのラビーシュは噂によると、アスプロージェとコンタクトをとっているとか、いないとか…。レベヌのラビーシュがこの国、フィリアムのラビーシュに魔法によって、内密な情報を伝えることが、よくあるんだそうだ。それで…、今回も何やらレベヌのラビーシュとフィリアムのラビーシュで交流があったらしく、その流れで、フィリアムのラビーシュ、アルレスが、フィルーの前にじきじきに現れて、君達をこのエルプロージェに連れてくるように、頼んだそうだ」
「そう…、アルレスが言った…、あの方がお呼びだと…。また、伝えてと言われた…、地上にいながら…、天上の安らぎをえるんだよ…と」
ユカはうなずきながら、話しだした。
「うんうん…、それで、ワタルの夢にフィルーが現れたのね…。だから、フィルーが私達に、伝えた言葉やこの導きの出所や源は、もしかしたらアスプロージェからのものかも知れないっていうことね…」
「だから伝言ゲームだと…」
「そういうこと!赤い山に行くまえに、一度、アルレスと会った方がいいよ。僕がアルレスのところまで案内するね。そこで、赤い山の秘宝についても教わるといい」