【2】
三人を吹き抜けていく風は心地よく、星々が落ちてくるように草原は煌めいて、あたかも新たな歌やメロディーを運んでくれるようだった。
「思ったんだけどさ、あの赤い妖精に名前ってあるのかな?」
「どうだろうねっ!聞いてみればいいんじゃないの?」
「ちょっと、聞いてみよっかっ」
触れたらすぐに消えてしまいそうな、赤い妖精を追いかけながらワタルは言った。
「ねぇ、赤い妖精さん!名前を教えてもらってもいいですか?」
すると、赤い妖精は一度先に進むことをやめて、三人の前に現れて、言った。
「ぼくの…なまえは…、フィルー…、フィルー」
「フィルー…!フィルーっていうんだね!」
「改めて宜しくね!フィルー!」
フィルーは一度宙をくるりと回ったあと、三人にお辞儀をした。
「名前は…、とっても大事…。その存在をあらわす…。大事なときは、名前を呼んだり、思い出すといい…。そうすると…、その名前のパワーが湧いてくる…。さあ…、あの方の元へ…。もうすぐであの山の麓に…」
それからしばらく飛んでいくと、赤い山や街が三人の前に、見えてきた。
「あそこに行くんだね!フィルー!」
「そう…。僕が住んでいる場所…フィリアム…」
「フィリアム…、どんな場所なのかしら…、想像もつかないわ」
「きっと、フィルーみたいな妖精が暮らしているところなんだろうね!」
「いや、いや、赤い妖精はフィルーだけなんじゃないかな」
「まぁ、こればっかりは、行ってみないと、分からないことだわ。何もかもが、想像を超えているんだもの」
赤い山とフィリアムにだんだんと近づくにつれ、ハーブのようなものを奏でられた、美しい旋律が聴こえてきた。次第に三人はこの旋律の虜になっていった。そしてあることに気付いた。明らかに変化が起き始めていた。
「おい、ワタル!なんかお前のまわりに赤い輪っかみたいなものが出来ているぞ!」
「ヒロキもよ!そしてあたしも…。なんなんでしょうこのヴェールのようなものは…。それにしても美しいメロディーね。こんなに美しいメロディーは聴いたことがないわ」
「フィルー!これはどういうことなの?僕達に何が起きているの?」
「今は…、それでいい…。あの場所に行けばそれが分かる…。さあ…、信じてついてきて…」
全身を覆う赤いヴェールに包まれた三人は遂に、赤い山の麓の街にたどり着いた。入り口には見たことがない、魔法のような文字で何か書かれていた。
「フィルー!これはなんて読むの?」
「フィリアムにようこそ…って書いてある…。まずは僕のともだちに…、会いにいく…。その友達から…、フィリアムについて…、赤い山について…、あの方について…、聴くといい…」
街の入り口から見えたのは見なれない生き物達と共に過ごしている人々とその営みだった。
「ここからは…、歩いて…」
活気が溢れていた。見なれないお店が軒を連ねて営んでおり、多くの人々や生き物達で道はごった返していた。
「お~い、そこの旅人さん!どうだい、うち のお店で旅の道具を揃えてみないかい?」
かき分けて歩いているうちに、あるよろず屋から声がかかり、三人は歩みを止めた。
「なんで、旅人なの?」
「その見なれない格好と、ほらっ、スジーがついてる」
「スジー?」
「その赤いヴェールのことだよっ、旅人さん!」
見なれない雑貨や不思議な魔法で織られた服、色が変わる神秘的な石など、どれもこれも独特なものばかり並べてあった。ワタルは興奮して、いろんなものを手当たり次第、触れてみた。
「ヒロキ!見ろよこれ!こんな鏡見たことある?ははっ!ほらっ、自分の顔がみるみるうちに変わっていくよ!」
「おっ、お客さん!その鏡は30年後までの自分の顔を見れる鏡なんですよ」
ワタルはだんだんと自身の顔が少年から青年、壮年になり、精悍になっていく自分を見つめて、なんだか照れくさくなった。あるところで、覗くのをやめて、ヒロキに渡した。
「ほらっ!ヒロキも鏡を覗いてみなよ」
ヒロキは怖かった。30年後の自身の顔を見るなんて。いや、一年後だって、3ヶ月後だって、10分後だって嫌だ。ヒロキは鏡を一度も覗くことなく、ユカに渡した。
ユカは鏡を手にもつなり、興奮するワタルに告げた。
「ほらっ!ワタル!フィルーがさっきから困ってるじゃないの!先に進むわよ」
「せっかくだからいいじゃんか…、まぁ…、また今度…。それにしても楽しいなっ、この世界!」
「さぁ…、いこう…、ともだちのところへ…」
三人は再び、フィルーのあとを追った。
また、しばらく歩いていくと、大きな噴水が見えてきた。フィルーは三人に言った。
「あの大きな噴水が見えてきた…、もう少し…」
大きな噴水を左に曲がり、歩いていくと、だんだんと混雑がおさまり、ある集落が見えてきた。集落は色彩豊かな幕屋がいくつか並んであった。
「あそこが…、ともだちの家」
三人はフィルーの友達の家に到着した。友達の家の幕屋はオレンジ色であった。