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アミューと七色の山  作者: アミュースケール
序章 現代
5/22

【4】

ワタルは自宅で晩御飯を食べ終えて、いつものように夢の解明に繋がる本を探し求め、自身の部屋でベッドに横たわりながら、本を読んでいた。今日、ユカやヒロキ達と一緒に話していたことを改めて噛みしめる為にも、話題に出た、仏教について読みはじめようと思った。誰かや私の大切なこと、を、掘り下げていけば、大切なこと、を、きっと発見出来るはずだ。大切、大切、あなたにとって、大切とは、なんですか?


今回ワタルが読んでいったのは、維摩経という大乗仏教経典であった。この維摩経の特徴の一つは、出家をせずに、世俗に関わり、家庭生活を営みながら、仏道を志す「在家」という在り方から、「空」について、書かれていることである。14歳のワタルにとっては、内容もそうだが、この「在家 」というワードが何よりも大きなインパクトをもたらした。


ワタルは気付いた…。

じゃあ、今から仏道を志します、って、心に決めたのなら、その時から、僕は、密かな仏教徒であるではないか、と…。


また、維摩経の一節によれば


「人として、やるべきことを行うことが、座る、ということ」


ワタルはこの一節に、不可思議な高揚感を覚えた。僕は形態やジャンルばかりに囚われていたかも知れない、と、自身を振り返った。なにを行っているのか、ではなくて、なにをしようと、心がけて、なにを繋げたのか…。


今日、ヒロキが言ってくれた「命を大切にする」っていうことは、とっても大きく、自由で発展的なことのように改めて思えた。自身の命も、他者の命も、また、人間だけに留まらず、自然の命や目に見えない命、知られざる命や、神様や仏様の命も…。その命やエネルギーには時間軸が無いことにも、気づいた。前世や遠い未来まで。


これらのことをさらに助長させる本に出会った。


親鸞(しんらん)という、鎌倉時代の僧侶について書かれていた本があった。 読んでみるなり、無我夢中になっていった。


「出家」の在り方から「在家」の在り方に、推移した僧侶だったからだ。


彼が言っていることや、やったことは当時の社会情勢からしてみれば、奇想天外であった。本当に誰もが救われる道、を、志していった結果、比叡山という出家者が集まっていた山を下山することを選び、戒律で禁じられていた肉食妻帯をするようになった。その為、当時は「破戒僧」と呼ばれるほどであった。それから親鸞という人物は、ある境地にたどり着き、阿弥陀如来の他力、不可思議光、無量光の力で、誰もがみな救いとられると、説いていった。十悪五逆を犯し、当時の人々から大罪人と見られていた人々でさえ「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」の一度の念仏によって、現生正定聚(げんしょうしょうじょうじゅ)に到る、つまり、救いとられると。


念仏を唱えられるということは、すでに、阿弥陀様の大きな御手の中にいる、と。


また「南無阿弥陀仏」と唱えることが、何よりも最高の行であると、まで、説いていた。


そして「非僧非俗」という「在家」の在り方を、千年後の一人の少年に残していった…。


赤い妖精が言ったことは、この時代の言い方をすれば、極楽浄土の安らぎを、この娑婆世界で生きながら修得する、ということであった。


心はいつでも、どんな場所にいても、極楽浄土にいる?親鸞の説いていた、阿弥陀様の他力に乗ること、赤い妖精が僕にもたらした他力…。


この3ヶ月経った、今、探求も、より具体的になっていることに、気付いた。


気付けば、虹色の山と赤い妖精の他力に乗っかていた…。


ワタルは部屋で一人呟(つぶや)いた。


「在家…、在家、在家かぁ」


赤い妖精が言った、地上にいながら、天上の安らぎをえる、道…?


在家?自身が志す、志さない、は、ともかくとして、千年前の日本に、在家者のモデルがいた…。


しかも、驚くべきことに、この親鸞は聖徳太子からの「夢告」によって、法然という決定的な師匠に巡り逢えて、運命が開かれていった…。


他力、夢、在家…。


少年は運命の車輪のようなものがグルグルと回り始めているのを感じざるおえなかった…。


少年は続けて湧いてきた。僕と親鸞は、きっと、似たような、なにか大きな存在の力によって導かれているんだ…、と。


鎌倉時代に生きた親鸞はその力を他力と呼び、阿弥陀様として捉えている…、


じゃあ、現代を生きる僕は、この他力や大いなる存在を、なんと、捉えれば、いいのだろう…。


う~ん…、うん。


とにかく、今の僕には、まだ色々と心積もりも出来ていないし、時期尚早、段階が早過ぎるから…


「虹色の山の神様」


と呼ばせて頂こう!


この呼び方や呼び名云々については、焦って決める必要もないだろう。また、生きていくうえで、決めていけばいい。その時、その時に似合ったものが、必ず、あるはずだ…。


ワタルは、一人静かに、そう思った。


そして本を置いて、立ち上がり、合掌(がっしょう)して、一度、唱えてみた。


「南無阿弥陀仏」


もう、一回。


「南無阿弥陀仏」


あと、一回。


「南無阿弥陀仏…」


14歳のワタルは不思議な感覚になった。千年前の親鸞と、同胞になったような気持ちになり、嬉しかった。


それから中学校に入学するときに購入した、机に向かい、今日1日の出来事や発見をノートに綴った。夜中の2時を過ぎていた。ワタルはふらふらとベッドにたどり着き、群青色の枕に頭を委ねて、リモコンを手に取り、部屋の照明を暗くした。そして、暗闇のなか、一人もごもごと呟いた。


「虹色の山の神様、赤い妖精さん、今日も1日ありがとうございました…、おやすみなさい」

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