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血色の黙示録  作者: 翡翠蝶
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三章〈彼女は一人の女から名を貰う〉

歩き続けて、辿り着いたのは廃墟のような寂れた街。灰色の汚れた壁とまともに舗装もされていない道。路地に転がる生きているか死んでいるかも解らない人達。街の上に重く垂れ込めた黒雲がこの廃墟を一層、際立たせる。街の中を歩き続けると大きな広場に出た。おそらく此処が街の中心だろう。煉瓦で舗装されてはいるが、ぼこぼこに歪んだ地面を歩きながら、辺りを観察し、彼女は小さく首を傾げた。

おかしい。廃墟の筈なのにやたらと人が多い。それに、皆自分を見ている気がする。

広場は様々な人が行き交い、ある程度の活気を見せている。奇妙なのは行き交う人が皆、こちらを舐め回すように見ることだ。何だか、落ち着かない。

彼女が、訝しげに眉を寄せた時。

「もし。其処のお嬢さん。」

突然、声を掛けられ彼女は驚き、一、二歩後ろに下がった。

話し掛けてきたのはボロボロのローブを着た老婆だった。ローブから覗く皺だらけの顔と笑った時に黄色く変色した歯が見える。

「・・・・・・・何か?」

彼女は、やっと声を発した。

「いえね、お嬢さんが一人で立ってるものだから迷子かと思ってね。」

老婆は、嗄れた声で言う。

「迷子なら儂がいい所に連れてってやろう。お腹も空いているだろう、美味しいものがたらふく食えるよ。」

「いえ・・・・結構です」

「そう言わず、さあおいで!」

老婆が、彼女の腕を掴む。尖った爪が食い込み彼女は顔を顰めた。

「─────────あんたを喰ってやろうか、婆さん。」

気配もなく、老婆の背後に現れた黒い影。

老婆が凍りついたように動かなくなる。その首元に突きつけられた鋭い刃。

彼女は、小さく息を呑んだ。

黒い影の持つ冷たく誰も寄せ付けないオーラ。それは不思議と存在感があった。声からして女だろうか?

老婆は歯をカタカタいわせながら言った。

「な、何もせんよ。ただこのお嬢さんが困っていたようだから心配になっただけで・・・・」

「ふーん・・・・・・心配、ね。あたしには、嫌がるこの子を無理矢理どっかに連れて行こうとしているように見えたけど?」

「勘違いじゃよ」

「あっそ。じゃ、さっさと消えてくれる?あんたの汚いローブ見てると吐き気がするから。」

女の言葉に老婆はもつれそうになりながらも、そそくさと雑踏の中に消えていった。

呆然とする彼女に、女は初めて視線を向けた。

「あんた、迷子?」

「・・迷子といえば、迷子だし・・・・迷子じゃないといえば迷子じゃないような・・・・わかりません。」

「何で、自分が迷子かもわかんないのよ。」

面倒だといわんばかりに溜息を吐き、女は考え込む素振りをした後、腰まである豊かな黒髪を翻した。

「此処で、ほっとくのも後味悪いから裏都市の外れまで送ってあげる。」

「裏都市・・・・??」

聞いたことのない単語に戸惑う彼女を一瞥し、女は怪訝げな顔をした。

「はあ?あんた、此処が裏都市とも知らずに来たわけ?」

「廃墟の街だと思ってました。」

「心底わけわかんないヤツだね、とにかく付いてきな。」

それだけ言うと、女は歩き出した。彼女も慌てて女の後を付いて行く。

「あんた名前は?」

女はこちらを振り返らず尋ねた。

「名前、ないの。」

女は振り返った。その瞳は驚きと哀しみがあった。

「名前ないまま生きてきたの?」

「うん、好きに呼んでいいよ。」

「突然そんなこと言われてもね・・・なら、シャルロット。あんたはシャルロットよ。」

「シャルロット・・・・・私の名前・・・・」

彼女は、嚙み締めるように呟いた。そして、女の顔を見上げ小さく微笑んだ。

「───────ありがとう。名前を、くれて。」

「別に。ないと色々不便でしょ。」

女は、それだけ言うとまた歩き出した。

「あなたの名前は?」

今度は、シャルロットが尋ねる。女は躊躇うように名を口にした。

「あたしは───────あたしは、フレイヤ。」


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