二章〈魔女は一人、世界を憂う〉
“〈世界〉を壊したい”
それがヴェルドの願いだった。妹を殺した〈世界〉が憎くて仕方ない。だから復讐すると決意したのだ。何処ぞの魔女は「復讐が〈世界〉を壊滅させること、とは。怖いの〜。」と笑っていたが。
具体的にどうすれば〈世界〉を壊せるのかは、解らない。けれど、この〈世界〉を腐らせた元凶を取り払うことは出来る。《聖騎士団》。そう呼ばれる【正義】を掲げる人間達の希望。そして〈世界〉を腐らせる根源だ。自分の出来ることは《聖騎士団》を根絶やしにすること。
ヴェルドは、聖騎士をひたすらに殺戮していた。聖騎士を殺しては次の街へと移る生活。そんな中、昔からの腐れ縁である魔女ルルーアと再会したのだ。ルルーアは〈世界〉を旅する最中で、血塗れの死神のようになったヴェルドを見て僅かに驚きを示し、「いずれはこうなると解っておったのにのう・・・・・」と寂しげに呟いていた。それから、 何故だかルルーアも旅を共にするようになり今に至る。
ルルーアの望みは知らない。けれどこの〈世界〉を救いたいと思っているように感じられた。本心はルルーア自身にしか解らないだろうが。
「ルルーア」
「ん?何かえ?」
「お前は、これからどうしたいんだ。」
ヴェルドの質問にルルーアは本心を読ませぬ道化のような笑顔で、
「さあ?どうしたいのかのう?」
と嘯いた。
「自分に掛かった呪いを解く方法を探しているんじゃないのか。」
「今更、呪いをどうこうしたいとは思っとらん。何千年と生きていると呪いなぞ、どーでも良くなってしまうものじゃて。それに────────お主と時を共にするのも悪くないしのう。」
「俺と一緒にいるとお前もいつか報いを受けるぞ。」
「構わん。どうせ、とうの昔に朽ち果てとる身じゃ。」
ルルーアは、そこで静かにヴェルドを見据えた。
「〈世界〉は変わらぬ。人は過ちに気付くことはない。人にとって【正義】という都合のいい看板が存在しておる限りな。ヴェルド、お主が願い、成し遂げようとしておることは余りにも遠く─────そして愚か極まりないものじゃぞ。それでも進むかえ?この血塗れのイバラの道を。」
「聞くまでもない。」
ルルーアの真剣な眼差しにヴェルドはそう返した。ルルーアは、何か確かめるようにじっとヴェルドを見つめていたがやがてニンマリと笑った。
「そう言うと思っとったよ。そんなら、行こうかのう?」
「ああ。」
「次の街は戦闘狂の彼奴の根城となる街じゃ。一戦交えることになるかもしれんぞ。」
「アイツとの勝負は悪くない。むしろ、楽しみだ。」
ヴェルドの自信に満ち溢れた返答に魔女は笑んだ。
〈世界〉は変わらない
魔女は一人、セカイを憂い、涙を流した