一章〈死神は世界を憎む〉
周りに漂う、濃密な血の匂い。地面に転がる、人と思しき残骸。その中で、静かに佇む一人の男がいた。返り血を浴びた服。その片目は真っ赤に輝き、まるで獣の瞳のようだ。
「やれやれ、また派手に暴れたのう。」
そこに近付く、少女のような姿の女。男は女を一瞥したが、すぐに視線を逸らす。
「そんなに暴れていると《破竜》待ったなし、じゃよ?」
「今更、竜になろうがなるまいが、関係ないだろう。」
男は、吐き捨てるように言う。
「お主、それ程までにこの〈世界〉が憎いか。」
「当然だ。妹を殺した〈世界〉を許せる訳がない。」
男の顔が、憎悪に歪む。女は冷笑した。
「だからといって、人間好きのお主が殺人魔になるとはな。さぞ、心が痛むじゃろうて。それとも、自分で自分の首を絞めて喜ぶマゾヒストかえ?」
「巫山戯るのも大概にしろ、ルルーア。」
ルルーアは、戯けたように肩を竦め、タロットカードを手の中で弄び始める。
「妾は大真面目に話しておるのに〜、心外じゃわい。」
男は、面倒だというように溜息を吐く。
「すっかり有名人じゃぞ。死神というステキな称号付きで、のう?」
ルルーアはタロットを一枚抜き出し、男に見せる。マントを着た、鎌を手に持つ骸骨のカード。
「死神ヴェルドと聞けば、皆震え上がるそうじゃ。」
「そうか。」
ヴェルドは、それだけ言うと空を見上げた。暗い雲が立ち込めた空は太陽を隠し、不吉な雷の音が聞こえる。ヴェルドには、この〈世界〉の行く末を表してるように感じられた。
「これは、一雨来そうじゃのう。」
ルルーアも同様に空を見上げ、呟いた。