始まりの詩
「ここどこだ?」
酔い潰れて寝ていた、浅海丈は上半身だけ起こし辺りを見回した。朝なのか?日差しが目にしみる。
見慣れない風景が広がっている、見たことない建物ばかりだ…
例えるならRPGの世界?ドラクエのような…
「俺家で酒飲んでたよな…」
確かに俺の手には焼酎の一升瓶が握られていた。
まだ少し入っている、俺はそれを飲み干した。
はっきりと焼酎の苦味と旨味が感じられる。夢じゃないのか…?
「おいお前!何してる!?」
顔をあげると珍妙な格好をした男がいた。
いや珍妙ではない、この世界に合っていないのだ。
その男のファッションはあまりにも俺たちが着ている服と似通っている。動物のイラストがはいってるTシャツと紫色のコットンパンツを履いている。センスはどうあれこの世界には合わないな
俺は未だ夢うつつの中、ぼーっと考えた。
「この真っ昼間からパンツ一丁で!公然わいせつだぞ!」
男は憤慨している。周りの人間も好奇の目で見ている。
「パンツ一丁だと?何いってんだてめー!」
俺も憤慨した。
「テメーみたいなダセェ格好のやつにそんなこと言われたくねーんだよ!!だいたい俺がパンツ一丁なわけ…」
俺の体が固まった。よく見るとパンツ一丁だ…毛深い俺の脛毛や腹毛、胸毛も鮮明に見える。
「俺は決してださくない!!さっき警察を呼んだ、さっさと捕まるんだな変態やろう」
明らかに嘲笑がまじった言い方だった。周りの野次馬も増えて俺を笑っている。
「なんだテメーら!!俺が可笑しいか!!」
いつもの病気だ。俺はコットンパンツやろうに殴りかかっていた。
「ふざけんじゃねーぞぉ!!」
俺は留置場の中で暴れまわっていた。
コットンパンツやろうに殴りかかった後、ほかの野次馬も相手にしてたら警察に取り押さえられたのだ。
それにしてもここはなんだ?留置場もドラクエに出てくるような檻だ。それにここに連れてこられるときもパトカーではなく、馬車だ。だいたい電子機器というのをこの世界に来て見ていない、全て鉄や木材で形成されている。
「公然わいせつに暴行罪か…バカだなぁお前」
刑務官っぽいのが鼻で笑った
「だから何回もいってんだろ!!気づいたらここにいたんだよ!!てかここどこだよてめー!!つか何笑ってんだよ!」
「わかったわかった、変態くんはみんなそう言うんだよね」
殴りたかったが手錠をかけられては流石の俺でも抵抗できない。
なすすべなく檻にいれられたのだ。
なんなんだこの状況は!どこかわからない場所にパンツ一丁でほうりだされて、変態扱いされ檻にぶちこまれる…
俺の頭は状況についていってなかった、なにをしたらいいのか分からないのだ。
「おい!出せよ!話を聞け!」
俺は愚直にも叫んで暴れまわっていた。話だけでも真剣に聞いてほしかったのだ。
「何見てんだてめー!」
向かいの独房のやつがチラチラ見てたので八つ当たりした。
そいつはすぐに目をそらした。貧弱でおどおどしたやつだ。
「うるせーぞ!ぶち殺されてぇのか!」
俺の隣の独房のやつだ。隣のなので姿は見えない。
俺の気も知らないで…
「てめぇこそぶち殺されてぇのか!黙ってろボケ!」
「んだとコラ!ぶっ殺すぞ!」
「うるさい!静かにせんか!」
刑務官っぽいやつだ。
「それに公然わいせつで捕まったからってそんなに落ち込むなよ」
刑務官っぽいやつはニヤニヤしている。
「お前公然わいせつなのか?ダサ!」
隣のやつはケタケタ笑っている。
「笑ってんじゃーねー!ぶっ殺されてーか!てめー!」
「やってみろよ公然わいせつやろう!バカなのか?」
「うるせー!!」
俺は叫ぶことしかできなかった。
もう泣きそうだ。泣き叫びたい…
何を言っても話すら聞いてもらえない…
心が折れそうだ。
俺は今まで多くの人間を傷つけてきた。
そしてそのたびに自分も傷つけた…体よりも心を。
昔から怒りが抑えられなかった。
そして周りの人間を傷つけ、傷つけられ、罵り、罵られ…
そんな生き方をしてると当然だが周りの人間は離れていく、友も、女も、家族も…
高校二年のときにムカついたやつらをぶちのめし退学。
それからはバイトをいくつかしたが行く先々でトラブルを起こした。
何一つ続かない、何一つ認められない…
精神科にも通った、躁鬱病だのなんだのほざいてやがった。
うるせーよ、何がわかんだ俺の、何が…
だが思えば罰なのかもしれない。今までやってきた咎の罰…
人を傷つけてきた罰…
だが聞いてくれよ、俺だって好きで傷つけてるんじゃない、頭では分かってるんだ、でも心と体が抑えられない…
「おい!面会だ!顔をあげろわいせつやろう」
「あ?俺に面会?」
もちろんこの世界に俺の知り合いなどいない、間違いじゃないのか?
「浅海丈さんっすね?」
そいつは俺の独房の前にかがみそう言った。
赤のパーカーにジーンズでニヤケ面の男だ。見たこともない。
「なんで俺の名前を?それにお前は誰だ」
「うーん、何て言うかあなたをこの世界に連れ込んだ人間って感じすかね?」
そいつはニヤケ面をよりニヤニヤさせてそう言った。