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p.8[脱着衣]

オースティンさんとの睨み合いをどうにか潜り抜けた俺は部屋に戻って来た。


 「なんなんだ、あのオッサンは。厄介過ぎるぞ」

 「結婚してしまえば後ろ盾が出来るので選択としてはいいのでは?」


 人間態になったカゼノさんまでそんな事を言ってくる始末だ。俺にどうしろと。


 「確かに後ろ盾が出来るのは嬉しいが、今のままでもやっていける。王都に連絡が行けば兵を送ってくれるだろ。それにアリシアさんはそういうのはそんなに関心ないみたいだし無理矢理てのはなー」

 「すいませーん、童貞が何か言ってるんですけどー」

 「・・・頼むから心を抉らないでくれ」


 カゼノさんてこんなにキツイ性格してたか?ドラゴンの前に俺の心が死ぬぞ。


 コンコンコン


 「メイドさんか?何の用だろ」


 カゼノさんが魔導書に戻ったのを確認してドアを開けるとそこにはメイドさんではなくアリシアさんとおそらく彼女の従者が立っていた。従者は湯気の立っている大きめのタライとタオルを持ってきていた。


 「アリシアさん?どうしてここに、部屋間違えていませんか?」

 「そんな事はありませんタチバナ様。お父様がタチバナ様の元へと行くよう仰られたので伺った次第です。お時間よろしいでしょうか」

 「別に問題無いですが何をするんですか」


 お湯の入ったタライとタオルを持った従者がいるから何となく予想できるが、そんな訳がないだろう。


 「お背中を流して差し上げましょうかと思いまして」

 「無礼を承知で申し上げますが、アリシアさん。頭大丈夫ですか?どこかぶつけましたか?」

 「私はいたって正常ですわ」


 これで体洗ってくださいねという予想だったがそれより酷いとは。

 コレはまずい。背中を洗うという事は服を脱ぐという事で、それすなわち紋章が見えるという事だよな?それだけはマズイ。出来るだけ彼女には知らないでもらいたいし、周りが気を付けていれば回避できる危険をわざわざ知る必要はないだろう。


 「自分一人で出来ますので、勘弁してもらえないですかね」

 「嫌です。タチバナ様はお父上の命の恩人これぐらいさせて下さいませ」


 抜け出せそうにないぞ・・・、今日はこういうのばっかだな。


 「・・・分かりました。それでは背中だけと約束していただけるならお願いします」

 「ありがとうございます!」


 背中だけだしバレないんじゃないだろうか。それにしてもオースティンさんは何考えてるんだ。結婚前の女性に男の背中を洗わせるとか普通ありえないだろ。


 「いいですか?私の胸部だけは決して見ないで下さい」

 「分かりました。何か理由があるのでしょう」

 「では私はどうしたらいいでしょうか」

 「上の服を御脱ぎになって椅子の背もたれを使わないように座っていただければ後はこちらでやります」


 言われたと通りにアリシアさん達を背に紋章が見えないように服を脱ぎ、背もたれの部分が左腕に当たるように座る。


 「コレでいいですか?」

 「はい。大丈夫です」


 アリシアさんがそう言うと俺の背後で水に何かを浸ける音が聞こえてきた。タオルだろうか。


 「では失礼しますね」


 言い終わると同時に背中にあったかい何かが当たる感触。少し肌に引っかかる感触もまた心地いい。


 「タチバナ様、どうでしょうか?何分こういうことは初めてなもので」

 「十分気持ちいいですよ」


 心なしかタオルが行き来するスピードが上がっていく気がする。


 ゴシゴシゴシ、ゴシゴシゴシ。ゴシゴシゴシ


 「アリシアさん?もう大丈夫ですよ」

 「そんな事はありません。念入りに洗わなければ」


 だんだんと痛くなってきたのでアリシアさんを止めようとするが彼女はお構いなく背中を擦っていく。そんなに汚いか?

 そんな痛みに耐えていると洗い終わって満足したのか一旦手が止まる。


 「もう大丈夫ですか?」

 「背中はいいですよ。・・・タチバナ様」

 「何ですか」

 「胸元は決して見ないのでお体の方も洗わせて欲しいのですが・・・」

 「ダメです。約束が違いますよね」

 「そこをどうにか出来ないでしょうか!お願いします」


 どうしてそこまで洗うことに固執するんだろうか?潔癖症か?

 もしかして紋章の事を知っていて消えるかどうかを確認したいとか?鎌掛けとくか。


 「アリシアさん一つ確認ですが、オースティン様から何か聞きましたか?」

 「何の事ですか?」


 俺からはアリシアさんは見えないし気配を読むなんてことも俺には出来ないので悪いが返答は無視して勝手に進ませてもらう。


 「聞かされたのはアネモイ様が関係していますか?」

 「だから、何のお話しでしょうか」


 速くなった。僅かだが答えた時のテンポが速くなった気がする。

 服を着てアリシアさんへ向き直る。


 「例えばそうですね・・・アネモイ様の使徒を名乗るどこの馬の骨とも知れない奴が急に現れた。とか?」

 「意味が分かりませんわ!」


 急に口調は強くなったし、黒かな?

 てことはブレンダンも何処かに隠れているんじゃないだろうか。流石に女性二人がのこのことやってくることは無いだろう。


 「ブレンダン!どうせいるんだろう。出て来いよ」

 「ったく、三回目だぜ?なんで分かっちまうかねぇ」


 はっきり言って運任せだったが無事居たようだ。

 普通にドアから入って来る辺り優秀なのは間違いないんだろう。


 「どういう事か説明してほしいな」

 「いきなり担当直入に言わせてもらうが、その紋章は本物か?簡単にはそれだけだ。それがクリアできれば他の問題も解決する」

 「そういう事か」


 要するにオースティンさんが襲われたのは俺の自作自演だと思われてるんじゃないだろうか。盗賊から助けてもらった相手がアネモイ様の使徒でドラゴンが来ると言う予言をした。

 もしこの国が戦争中だったとしたら兵を分断させるための作戦と思われてもおかしくないんじゃないだろうか。


 「アリシアさんすいませんがタオルを貸してください」

 「ここはオレが」


 アリシアさんが持っていたタオルをブレンダンが受け取り俺に渡す。


 「よく見ててくださいよ」


 俺は服を脱ぎ紋章が皆に見えるようにし、タオルで思いっきり胸をこすり始めた。しばらくすると皮膚は赤くなっていくが紋章が消える気配は一向に無く、紋章は相変わらず薄っすらと光っているだけだった。


 「こんなもんですか?こんなので信じてもらえますか?どうなんですかね」

 「分かった、皮膚に塗ったものでは無いようだな」

 「そもそもが薄っすらと光っているのにどうやって塗るんですか」

 「光っている?どういう事だ。オレには光っているようには見えないぞ」


 どうなってんだよ全く。

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