p.44[一陣の風となれ]
「おお、凄いな...」
岩の様な大きさの甲殻を撫でる。
ヒンヤリ、スベスベした触り心地だ。甲殻と甲殻の継ぎ目には棘の様な体毛がビッシリと覆っていた。体毛の一本一本はしっかりとした硬さで、細い木の枝位の太さ、大きさだ。
ジズは今、本来の姿であるドラゴン形態だ。
『ふふん。どうだい?何か分かったかい?』
「甲殻も分厚いんだな。ジズはスピードタイプなんだろ?重そうなんだが大丈夫か?」
はるか頭上でジズの声が返って来る。
彼を見上げると頭で月が隠れてしまっていた。ほぼ真上にある月が見えなくなるほど、ジズは大きかった。
甲殻は五センチ程の分厚さかな?
ジズは声帯が人間の物とは違うので念話で会話をしている。感覚としては電話をしているような感じだ。
『まあ、見ててよ...『我は風の化身』!!』
彼が呪文を唱えると彼の全身が光り出した。
甲殻には魔力線の様な光る線が幾本も走り、体毛は毛の先まで淡く光る。
改めて甲殻を触ると先ほどとは触り心地が変わっていた。ヒンヤリ、スベスベだったのだが、薄いバリアが張られているようで滑りにくくなっていた。少しばかり熱も持っているようだ。
『身体強化。軽量化。魔力障壁。風魔法親和性増加。簡単に言うとこんなもんかな』
「複合か...俺もやってみたいなー」
「『我は神の御使い』で複合魔法使ってたじゃないですか...」
複合魔法。素晴らしい響きだ。
と、思ったら俺も使ってたみたいだ。
『我は神の御使い』も複合魔法だったのか。
『ツバサも複合魔法が使えるのかい?よかったら見せてよ』
「ん?別にいいぞ。...『我は神の御使い』!」
足元には魔法陣が組みあがる。俺を中心にひし形が組まれ、それを挟む一対の翼。アネモイ様の紋章だ。
俺の周囲を様々な風が駆け巡る。
自然と体に力が入り、胸が熱くなる。
『これは...素晴らしい!!私の魔法にも取り入れたい要素が沢山ある!魔力の供給元は!?自身の魔力と精霊。後これは、神の魔力も微量だが混ざってる!ブレンドして相乗効果を得ているのか!その様子を見るに...』
「おーい!ジズー?帰ってこーい」
『ブツブツ......ハッ!すまない、すまない。つい興奮してしまったよ』
自分の世界にトリップしてしまったジズを連れ戻す。
異世界関係の話しでは魔法キチの魔法使いというのは一人は居るものだがまさかジズがそうだとは思わなかった。
ていうか精霊の魔力も混ざってるのか?最初にこの魔法を使った時に長ったらしい詠唱したおかげか。
『その魔法を私にも教えてくれないかい?もちろん私が使った魔法も教える。君なら複合魔法を同時展開も出来ると思うから損にはならない筈だ』
「願ったりかなったりだ。こちらからお願いしたいぐらいだよ」
魔法をどうやって教えるのかと思ったが、魔導書に方陣を描くだけだそうだ。
禁書室にあった本のように、魔法陣を残すことで後世の魔法使いに自分の魔法を伝えられるようだ。
ジズの甲殻を真顔で撫で続けるカゼノさんに頼んで方陣の交換をしてもらう。
交換が終わったようで、視界の端にジズが使って居た魔法の方陣が浮かび上がり、しばらくした後に消えた。
「ありがとう、ジズ」
『こちらこそ、ありがとうね。...そろそろ帰る時間じゃないかい?』
「もうそんなに遅いのか?...うわっもう三時じゃん!カゼノさん帰るよー」
随分と長く話し込んでいたようだ。俺以外で魔法使いを初めて見たから嬉しかったのもあったんだろう。
未だに甲殻を撫でまわすカゼノさんの服の襟を掴んで、引きずる様に引きはがす。
カゼノさんに睨まれるが、諦めたようで自分の足で歩き出した。
「また明日な」
「ジズ、また来ます」
『待ってるよ。この辺りに来てくれたら迎えに行くから』
ジズに手を振り『飛行』で飛び立つ。
楽しかったけどカゼノさんのダメな部分が目立ったな...。
俺の部屋に戻り窓を閉める。帰って来た時には日がすでに顔を出していて、青白い街並みが広がっていた。
結構ギリギリだったか?間に合ったからいいか。
少ししたらメイドが部屋に訪れた。
俺が起きないときはカゼノさんが起こしてくれるので、メイドが部屋に来ても朝の挨拶をして終わるのだが今日は挨拶だけでは終わらなかった。
「クマが出来ているようですが昨晩はお休みになられましたか?」
「あぁー、クマ出来てる?」
「薄っすらとですが」
流石メイドさん。よく見てらっしゃる。
どこからか取り出したポーチを片手に椅子に座る様に促された。
「あのー、これ何?」
「クマを消すんですよ。じっとしててください」
その後簡単に化粧され、クマを目立たないようにしてもらった。
屋敷を出てアビーさんの元へと向かう。
朝早い時間だと言うのに通りには人が集まり、客引きの声が飛び交う。
神殿の前を通れば参拝に来たのであろう人達が列をなしていた。
耳を澄まして鉱山の話が出て来ないか注意していたのだが、話を聞く前にアビーさんの屋敷についてしまった。
門番たちに軽く挨拶して訓練場へ向かう。
「おはよございまーす」
「おう、ちーす」
「おっはー」
「おはざーす」
各自思い思いにストレッチをしていた。俺が挨拶をすると幾つか声が返って来る。
今日は訓練の途中から参加、なんて事にならなくてよかった。
片腕のバランスにも慣れないといけないし俺も体を動かしておこう。
やっぱり体操と言えばラジオ体操だよな。
剣を取って素振りしている人を見て俺もやってみる。
片腕で振るのは素の筋力が足りてないし、バランス的にも厳しいので細身の剣を選ぶ。
レイピアのように極端に細くは無いが切ると言うよりは突くに特化させた剣。エストックでいいのかな?
短剣だとどうしても近づかないといけないので力負けしてしまう。剣をいなすにも技術が足りていない。
結果、遠くから突くしかない。
エストックを持って軽く振ってみる。細剣を使う勇者なんかは結構多いから使ってみたい技もあるのだが体が追い付かない。
周りの兵士達から握りが浅いだ、とか構えはこうだ、なんて言われるうちに模擬戦が始まっていた。
やって来たエリックが驚いていたが、直ぐに戦いに参加していたからアイツも有罪で。




