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p.43[ジズ]

 「『隠れ蓑(ハイド)』。『飛行フライ』」

 「『飛行フライ』」


 部屋の窓を開けてカゼノさんが飛び出し、俺もそれに続いて窓から外へと出る。

 今夜は雲一つ無い快晴で、月明りのおかげで視界も悪くない。

 ドラゴンの情報を得るべく、カゼノさんの案内の元、彼女の彼氏に会いに行くのだ。


 「ドラゴンの彼って何て名前なんだ?読んでくれてる人に伝えにくいんだが」

 「読んでくれてる人?誰ですかそれ。...彼の名前はジズですよ」


 ジズか...。ドラゴンに会うのは初めてだからなどんな姿なんだろう。





 それからしばらくの間飛び続けていると俺達の背を影が隠した。

 最初は雲かと思ったのだが、その影が生き物の形をしているのを見て戦闘態勢に入る。

 『隠れ蓑(ハイド)』で隠れているが相手が格上ならバレるかもしれない。


 「ツバサさん、大丈夫ですよ。さっきの影がジズです」


 周囲を警戒する俺を余所にカゼノさんが何でもない様な口調で言葉を発した。


 「今の影がか?凄い大きさだな」

 「『隠れ蓑(ハイド)』を切ってください。地上に降ります」

 「了解した」


 地上に降りる途中で『隠れ蓑(ハイド)』を切って、ゆっくりと地面へと降りる。

 その最中に、影の正体が平行に地面へと降り立っているのが見えた。


 俺の中でドラゴンはトカゲに似ているというイメージがあったが、どちらかと言うと鳥に近いようだ。

 モフモフじゃない鳥にトカゲの尻尾を生やして、全身を岩石の様な鎧でコーティングしたような姿だった。

 距離があるにもかかわらず、翼を羽ばたかせるとこちらまで風が来て、気を抜くと体制を崩されそうだ。


 地面に降りて、ジズが降り立った場所へ向かうと一人の青年が歩いて来た。

 若草わかくさ色の少し癖のある髪、眠そうなタレ目。おとなしそうな印象だ。

 ドラゴンが人間化すると服を着ていなかったり、甲殻が鎧になって現れたりするとかは聞くが普通に服を着ていた。


 「今晩は、ジズ。彼はツバサさん。今日は話があるの」

 「よく来たね、二人とも。話って事は、ドラゴンの事かな?」


 おとなしそうな印象だったが結構ハキハキと喋るようだ。

 カゼノさんが好きな相手だからどんな人物が出て来るか心配だったが普通の好青年って感じだな。


 「初めまして、ジズさん」

 「呼び捨てで構わないよ。僕もツバサと呼ぶことにするし」

 「話が早くて助かるよ、ジズ。それで話の事なんだが、君の知恵を借りたい」


 笑いながら「フーン」と答えながらジズは続きを促した。


 「地理書で周辺の確認をしてある程度の絞り込みをしたんだが、どの場所も根拠が無い。一つずつ当たっていくわけにもいかないから何か知ってることがあったら教えて欲しいんだ」

 「もちろん協力させてもらうよ。僕も当事者の一人と言っても過言ではないからね。地図はあるかい?」


 カゼノさんに視線を向けると一つ頷いてジズの手を握った。

 俺がカゼノさんと魔力のやり取りをして自身のステータスを見ることが出来る様に、ジズも魔力のやり取りをしてもらって共有の地図を見てもらう。

 屋敷を出る前にカゼノさんに確認して、出来るのは知ったのだが同期をすると他人には見えなくなるのだとか。逆に同期をすると、自分の意思だけで表示したり、しなかったりと出来るようだ。


 「この芸当が出来るって事は同期しなかったのかな?この前、急にまくし立てて帰って行ったけど」

 「俺の方から辞退させてもらったんだ」


 俺の返答を聞いてジズも納得の表情を浮かべた。彼もカゼノさんには困っている部分があるようだ。


 「冬眠前に最後の戦闘が起きたのがココ。その後を追いかけて結局逃げられちゃったんだけど、方角的にはこの方向」

 「その方角ならこの山か?」

 「規模的にも隠れて問題は無い筈だよ」


 ジズが示した方角は街を中心とすると北東。

 北東には鉱山を示す地図記号が描かれている。今も使われているのならば、工夫さん達を避難させないといけないだろうし手間がかかって仕方ない。

 アビーさんに頼めば一時封鎖は出来るだろうが、魔法を使えない一般兵は直ぐに死んでしまう未来しか見えないので、一人で戦うしかない。


 因みに、西が俺が最初に召喚された森で、森と街の間に今日カメーリアさんとの戦闘で使った平原がある。


 「鉱山か...今からはちょっと無理だから、明日情報を集めてその日の夜に確認するので大丈夫か?」

 「なんなら僕が確認しておこうか?魔法には自信があるから唯の人間にはバレないと思うんだよね。遠くから魔法で調べるだけなんだけどさ」

 「じゃあそうしてくれ。明日の夜はその情報の交換って事で」

 「分かったよ」


 この場所は街から見て南。

 西の平原が南に広範囲に渡って広がっている。今から北東の鉱山に向かうには少し時間が足りない。

 ジズもその鉱山の事を調べてくれる様なので俺は街で情報を集めよう。


 「ああ、そうだ。僕も戦いには参加するから」

 「いいのか?戦力が増えるなら大歓迎だ」

 「僕自身にそんなに力は無いんだけど力添えぐらいは出来るからね」


 ジズは力と言うより速さを重視した種のようだ。

 逃げたドラゴンを追いかけるも力及ばず撃沈。その間に逃走を許してしまったと言っていた。


 それでも彼が居るだけで心強い。

 力が無いと言ってもソレはドラゴンの中での話しだ。俺からしたら十分だ。

 ドラゴンは皆魔法が使えるようなのでそれにも期待できる。


 「そういえばジズが襲われたときはどんぐらいの戦力が襲って来たんだ?」

 「あのときか~」

 「言いにくいなら別に言わなくてもいいぞ」


 カゼノさんが使徒になってジズをを守るために戦ったときの戦力を聞いてみた。

 勝てる見込みが無いのに戦うとは思えないので、ソコソコの戦力が集まったんだろう。


 「そうだね、三桁ぐらい?」

 「三桁!?マジか...」

 「戦ってみた私の意見を言わせてもらうと本当に強そうなのは二十人程でしたね。野次馬の如く集まって来た他の魔法使いは対して強くなかったですよ」


 カゼノさんも話に参加だ。

 ジズ自体は戦闘に参加していないのでカゼノさんの話しが聞けるのは嬉しい。


 カゼノさんの話しを聞く感じでは本当に強いのはそんなに多くないようだ。

 三桁の魔法使いが集まったと聞いて驚いていたが、俺でも対処出来そう?


 「ツバサさんが普通に戦えば強い魔法使い十人分。本気で戦えば二十人分。本来の力を発揮出来たら瞬殺ですね五秒掛かりません」

 「お?マジで?俺ってそんなに強いの?」

 「本来の戦いが出来たらの話しですよ」

 「魔力が見えてないんじゃ、まだまだだね」


 隠された力とか覚醒するとかすれば俺でも楽に倒せるようだ。魔力が見えないと話にもならないようだが...。

 そういえば俺って何時になったら魔力見える様になるんだろうか。結構魔法使ってると思うんだけどな。

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