p.41[休む間なく]
カゼノさんに支えてもらいながらヘリオス様の神殿まで到着した。
兵士達が忙しなく走り回っているのが見えるが何かあったのだろうか。
神殿を進んでいくと一人の兵士が話しかけてきた。
「タチバナ殿でありますか!」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「カメーリア譲が突然目を覚ましてタチバナ殿はどこに居るかを聞かれたものですから、貴方殿を探していたのです」
神殿内が騒々しいのはそのせいか。
カメーリアさんが目を覚ましたのは大変嬉しいが俺に何の用があるのだろうか。
左腕が無くなっているからあまり会いたくは無いんだが。
「ご同行を願いたいのですが、...そちらの女性は?」
「私の連れだ。カメーリアさんも彼女の事は知っている」
「そうでしたか。失礼しました。では、」
「分かりました」
兵士に連れられて再びやって来たのは棺の様な箱が置かれている部屋。カメーリアさんを運んだ部屋だ。
「失礼いたします!タチバナ殿をお連れしました!」
連れてきてくれた兵士が入室前の挨拶をすると扉が開きコーディ―が顔を見せた。
彼はカゼノさんの事を軽く見ると俺に疑惑の視線を向けるが、それも兵士が事情を説明すると何も言われることは無かった。
コーディ―には融通を聞かせてもらってばかりだな、申し訳ない。
俺がコーディ―の横を抜けて部屋に入ろうとすると唐突に左肩を掴まれた。
この先にカメーリアさんが居る以上大きな声を出すわけにはいかない。代わりに怒りの篭った視線を彼へと飛ばす。
おそらくは一生に何度も出せるものではないと自分でも思えるような殺気の篭った視線だったと思う。
カゼノさんもただ見ているわけでは無い。俺とコーディ―の間に立ち塞がり、彼の手を払いのけた。
「左腕はどうした」
静かに、ただ強く意思の乗った言葉だった。
俺の視線やカゼノさんを前にしても動じることなく、俺と視線を交差させていた。
「あんな邪魔な物、必要な野郎にくれてやったわ」
これだけで彼には伝わったのだろう。謝罪の言葉と共に敬礼をして俺達を見送ってくれた。
俺がカメーリアさんを運んだのは彼も知っている。その人物が用が出来たと言って消えたと思えばカメーリアさんが起き上がり、帰って来た俺の左腕は無くなっている。俺がどうにかして彼女を助けたのだと彼も察したのだろう。だが、立場上黙って通すわけにはいかない。こんな所かな?
カメーリアさんは箱から上半身だけを出していた。
何人か、彼女の髪やらを拭いているシスターのが居たが俺が現れると一礼して去って行った。
シスターの動きを感じ取ったのだろう。目を閉じてなすがままだったカメーリアさんの瞳が開き俺を見た。
何か話しかけたいが、何を話したらいいのか分からず黙っていると彼女の方から声が掛かった。
「...ツバサ様」
「目が覚めて何よりです。カメーリアさん」
「そちらの方はカゼノ様、でしたか」
「以後お見知りおきを」
カゼノさんがこちらを心配そうな目で見てから、俺を支えていた手を除け綺麗な挨拶を交わす。
彼女は俺が心配だったのだろうが、俺だって一人で立てるわ!と突っ込んでやりたかった。
左腕の事について聞かれるのが怖かったので、今度は俺の方から話し出す。
「約束を覚えていますか?」
「...はい」
「では、ドラゴン討伐には私とカゼノさんで向かいます。カメーリアさんには街の守護をお願いします。私の力は今日の戦いで分かって頂けたと思います。今はゆっくり体を休ませてください。では、これから向かうところがあるので今日は失礼します」
早口に俺が言いたい事だけ言ってカメーリアさんに背を向ける。
これから行く所なんか無いし、何をするのかも決まっていない。ただこの場所から逃げ出したのだ。
何もやる事が無くて彷徨っていると気が付いたらアビーさんの屋敷の前へとやって来ていた。
もしかしたら一緒に歩いていたカゼノさんが誘導していたのかもしれないな。流石に考えすぎか。
屋敷に入る前にカゼノさんは撤収だ。申し訳ない。
門番は何も言う事は無く門を開けてくれる。
顔パスだ。警備としてはどうかと思うが、俺にとって都合がいいので何も言うまい。
「ツバサ タチバナです」
「入ってきて下さい」
執務室に入ると、そこには頭を抱えたアビーさんが居た。
「どうしましたか?随分と悩んでいるようですが」
「どうしたもこうしたもありませんわ!ツバサ様もカメーリア様も屋敷にいらっしゃらないと思えば、いつの間にか街の外で戦闘していますし!私はその後処理が忙しいですし!」
随分とお怒りのようだ。俺が悪いんだけど。
「地理書をお貸ししますからご自分で調べて下さいまし!私も責務が終わり次第向かいますわ。セバスチャン!」
アビーさんが声を掛けると直ぐに扉がノックされ、セバスチャンが入って来た。
流石執事、この俺に気配を悟らせずにこの距離まで近づいてこようとは...。
「ツバサ様を書庫まで案内して差し上げて下さい。私も後程向かいますわ」
「畏まりました。では、タチバナ様」
「分かりました。アビーさん、失礼致します」
セバスチャンの後に続き、執務室を出る。
書庫室へ向かう途中、セバスチャンが話しかけてきた。
「タチバナ様、片腕が無くなられているようですが」
良く見ているな。
「アブサドール様との戦闘で無くしたのですかな?」
「そんなところですね。申し訳ありませんがご自分で気づかれるまでは内密に願います」
「もちろんですとも」
互いの腹を探りながら廊下を歩き、案内されたのは書庫だった。
どの棚にも一片の隙間なく本がビッシリと収められていた。
「この近辺を記した地理書はこちらになります」
差し出されたのは一冊の分厚い本。
受け取って軽く見てみると、馬でどのくらいかかるのか、野営地は何処がおススメか、その周囲で現れる魔物の情報が事細かに書かれていた。
写真があれば楽に分かるのだが簡単な絵と文字しか載っていないこの本は日本で暮らしていた俺からしたら読みにくくてしょうが無かった。
「少し失礼。...いま私達が居るのがココになります」
ページを捲り、セバスチャンが指した場所は丸で囲まれていて、その上から街の名前が書かれていた。
その他にも簡単な地理書の見かたを教えて貰った。理解できなかったが分かったフリで乗り切る。
「すいません。少し見ていても構いませんか?」
「かしこまりました。では、役に立ちそうな資料を見繕っておきましょう」
離れて行ったセバスチャンをしり目に腰から魔導書を取り出す。
魔導書を開き、口元に近づけて小声で声を掛ける。
「...コレを模写って出来るか?地図だけでいいんだ。文字は要らない」
『分かりました。やってみましょう』
「頼んだ」
正直、こんなもの見ていても飽きると言うかやる気が出ない。
俺達が実際に行動するとして、馬なんて使わないし、まず俺が乗れない。
コレが小説や伝記とかなら飽きることは無いのだが、この文字列はだめだ。ゲシュタルト崩壊してしまう。
『終わりました』
手元に浮かんだカゼノさんの言葉を見て、模写された地図を見て俺は自分を目を疑った。
そこには地理書とは段違いの正確さで描かれた地図があったのだ。




