p.33[お説教]
エヴァンを地面に降ろしてやるとブレンダンが口を開いた。
「おい、エヴァン。コイツは使徒だぞ、それもアネモイ様のな」
「ふざけるな!こんな奴がアネモイ様の遣いなわけないだろ!?俺をこんな目に合わせたんだぞ!!」
「お前が事の発端だろうが。立場もお前のが下だ」
「クッ……」
エヴァンも反論するが、さらなる返答を返されて押し黙ってしまった。
弱すぎだろ…俺の時みたいに反論してみろよ。
俺の胸の内を言葉に出してしまうと、せっかく収めてくれた喧嘩がまた始まってしまうのは分かりきっているので俺は黙っている。
カゼノさんはどうしたのかと思って視線を彷徨わせば案外近くで待機をしてくれていた。
待たせるのも申し訳ないし、俺はお暇するとしよう。
「ブレンダン、俺は行くからな」
彼に背を向け手を振って別れる。
後ろの方ではまだ何か言っていたが聞こえないフリをしてカゼノさんの元へと急ぐ。
「災難でしたね」
「本当にな。金貰ったから良いけど」
そう言いながら金の入った袋をカゼノさんに渡す。
カゼノさんは袋の中身をを確認すると俺へと戻そうとするが、それを手で制し、「カゼノさんが持ってて」と、彼女に管理を頼む。
「それにしても先程は随分と口が悪かったですね」
「そうか?まぁ、普通にウザかったからな」
カゼノさんは俺とアイツとの会話を聞いてたのか?とても聞こえる距離では無いと思うのだが…。
「魔法ですよ、魔法」
俺の疑問が顔に出ていたのか、カゼノさんが歩きながら教えてくれる。
今更だが魔法って便利だな。
さて、午後の神殿周りを再開するかな。
神殿を一通り回り終わった後、アビーさんの屋敷に顔を出した。
時間的には午後四時と言ったことだろうか。
時間といえば昨日、クロノスと言う時間の神様からあるスキルを頂いたのだ。
鎌をくれたクロノス様とは別の神だと言うのだから不思議なこともあったものだ。
そのスキルは超集中とでも言おうか、自身の意識を加速させる物なのだが、そのスキルを手にしたら魔道書に時計の絵が現れたのだ。
その絵は時間経過でキチンと針が動いていたので、時間が分かったというわけだ。
話がそれたが、何の問題も無く屋敷の中に通された。
執務室の中にはアビーさん、カメーリアさんが居た。
「ツバサさん、朝は一回は顔を見せてくださいね。心配しますから」
「申し訳ありませんでした」
まさかの一言目から怒られてしまったが、俺が全面的に悪いので申し開きをする訳にもいかない。素直に謝った。
「アビー様、ツバサ様もこの通り謝っていることですし許してあげればどうでしょうか」
「…そうですわね、以後気を付けて戴ければ」
助け舟を出してくれたカメーリアさんに軽く会釈をする。
アビーさんも本気で怒っている訳では無いようだし、今度から気を付けよう。
「ツバサ様、ネストさんから魔道書カバーと言うのでしょうか?届いていますから渡しておきますね。コレはネストさんが泊まっている宿の住所ですわ。明日の朝には街を発たれるとの事でしたから挨拶とお礼を申し上げて来てくださいね」
「もちろんです。何から何まで申し訳ありません」
椅子に腰掛けるとアビーさんが布に包まれた魔道書の留め具とネストさんが泊まっている宿の住所が書かれているメモ用紙を渡された。
ココで留め具を付けてしまいたいが、話の途中なので帰り道にでも付けてしまおう。
「まずは、先程アビー様と話していた事を伝えておきますね。私の方でもヘリオス様の神殿の禁書室でドラゴンに関係ありそうな本を探してみたのですが、役に立つような情報は手に入りませんでした」
「そうですか……。調べていただきありがとうございます」
話はドラゴン対策に移り変わり、俺が来る前に二人で話し合っていた情報の共有の話になった。
カメーリアさんも禁書室を調べてくれたようだ。だが、彼女は有益な情報を手に入れられなかったようだ。
俺も情報の交換をすべく、今現在で分かっている事を簡単に説明していく。
かつてドラゴンを護った女性の話だったり、ドラゴンが暴れるようになった経緯の話だ。
「隔離された神殿」には、まだ目を通していないので何も言えないが、ドラゴンを護った女性がアネモイ様の使徒だった事が原因だろうと考えている。
俺が話し終わると二人とも驚いた表情をしていた。
何事かと思ったが、どうやらアビーさんが見つけた本が原因の様だ。
アビーさんが幼い頃に禁書室で読んだと言う本ーー「一人の女性に捧げる、その後」の内容を二人で確認したらしいのだが、この話はドラゴンの肝を狙っていた魔法使いが記したものだったからだ。
アネモイ様の使徒を名乗る女性がドラゴンを護り、討伐の邪魔をした。
逃したドラゴンを追い掛け、その先で見つけたドラゴンの討伐に成功したが、もう一匹のドラゴンに襲われた。
だが、我々魔法使い達は力を合わせ、ドラゴンを追い払った。
大まかな内容はこんな感じだ。
ドラゴンを追い払ったと言うのはお前達じゃないだろと思ったが、国を失った民衆を納得させるのには都合が良かったのだろう。
このタイトルは、神の使徒を名乗る女性が全ての元凶であり、お前のせいでこんな事になったのだ。と言う事を強調する為のもののようだ。
「…そうだったのですか」
未だに俺が伝えた情報が信じられないのか、驚いた表情から戻らない二人の顔に少し笑ってしまった。
「ツバサ様…」
「……さすがに不謹慎なのでは」
笑ってしまった俺を二人がジト目で見つめてくる。
「そんなに見つめないでくださいよ。照れてしまいます。……私達は真実を知ったんです。アネモイ様は正しい事をしていたんです、胸を張って笑ってやったらいいんですよ」
ドラゴンを護ろうとしたアネモイ様。その為に使徒になったカゼノさん。
そのせいで神殿が隔離されたり、馬鹿にされたかもしれない。
だけどそれがどうした?
俺達を見て笑う奴らは、使徒を信じず、己の欲のために神に背く背信者とでも言ってやればいいのだ。
「では、私はネストさんに挨拶をして来ますね」
二人が話し合っていたことも分かったし、俺も言いたい事が言えてスッキリした。
日も暮れかけのようだしネストさんにお礼の挨拶にでも行くとしよう。
「明日はキチンと顔を見せに来ますよ、では」
「…アビー様、私もお暇させて頂きます」
「ええ。分かりましたわ」
俺が扉を開けて出て行こうとするとカメーリアさんも慌てて立ち上がった。




