p.29[過去の神級]
紐でグルグル巻きにされた本と「隔離された神殿」という題名の本を手に取り下に降りる。
近くの長机に腰を下ろし、本に巻かれている紐を解いて中を確認する。
この本の外見は俺の魔導書と殆んど同じ大きさで、黒い革に覆われていた。数ページに渡る前書きの後には幾つかの魔法陣と、それについての考察やその効果と思われるものが書かれていた。
「何の魔法だ・・・?」
禁書室で見つけた、魔法についての本達は背びれ等に「〇〇の魔法について」、といったように研究したものが書かれていたのだが、この真っ黒な本にはそれが書かれていないため何の魔法なのか分からない。あるいは、考察を読んでいけば分かるように作られているのかもしれない。
この本を見ているであろう人へ、この本は禁呪について記したものである事を踏まえて読んでほしい。
魔法とは本来人が使えない物だ。人外の力だ。簡単に生き物の命を奪う事も出来るし、何人もの命を救う事も出来る。残念ながら私が生きている時代では前者として魔法の力が使われてしまった。魔法使いの一人として、遺憾である。読者である君の場合はどうだろうか。ココに記された魔法を君がどう使うかは君次第だが、平和的な魔法の使用を私は心の底から祈っている。
さて、私が何者であるかは些細な問題だ。何とでも言えばいいさ。
この本を作ろうと思った切っ掛けだが、一匹のドラゴンと一人の女性が居たおかげだ。長くなるだろうが我慢して欲しい。
当時私は魔法使いの中では若い魔法使いだった。青春時代の全てを修行に費やした私は、厳しい修行から逃げ出したのだ。簡単な魔法しか使えなかったが、各地を巡り魔法を使って人助けをしていく事で魔法の有用性、危険性を知る事になった。あれは有意義な時間だった。
私の魔法では救えなかった村が一つだけあった。各地を巡る事で自分の魔法が初歩の初歩だという事も忘れて、妙な自信を持って魔法の修行をしなかったがための犠牲だった。その事を深く反省した私は一人、魔法の修行に明け暮れた。
そんなときにある噂が私の耳に入って来た。
伝説のドラゴンが見つかった!ドラゴンの肝を飲めば不老不死なれる!
修行を積んだ私はかつてとは比べものにならない程の力を持っていた。
知り合ったエルフから長寿の理由を聞いた私は、それを魔法に組み込み、さらに昇華する事で不老の体を手に入れた。(この魔法の方陣と効果については後程語るとしよう)
不老の肉体を持った私には不老不死という話題はさほど興味を惹かれるものでは無かったがドラゴンを一度見る為に旅に立った。
旅をしていく中で手に入れた噂と魔法を頼りにドラゴンの居場所を知る事が出来たが、私が現場にたどり着いた時にはすでに戦闘が始まっていた。
数多くの魔法使い達に狙われるドラゴンに、それを庇う様に戦う女性。アレでは彼女はもうじき死んでしまうだろう。彼女から特殊な魔力を感じたが数の暴力には勝てないようだった。
女性が敗れ地に伏せた時、私は思わず魔法使い達に向けて魔法を放ってしまっていた。
すでにドラゴンはどこかに飛んで行ったようだったので私も早々に戦闘を切り上げドラゴンを探した。
山中のさらに奥深くにドラゴンは居た。私に敵意が無いのが分かったのだろう、彼方から攻撃してくることは無かった。
ドラゴンが魔法を唱えると人の姿になり私に話しかけてきた。「彼女は死んだのか?」と。私は一つ頷いて見せるしか無かった。
ドラゴン——彼は静かに頬を濡らすと告げた「人間に魔法を教えたのが私の過ちだ」
だが私はそれは違うと言った。お前が教え、伝えた魔法は私たち人間に笑顔をくれた。魔法を教えたのは決して間違いなんかでは無い、と。力と欲に溺れ、ドラゴンの肝を求めた彼らは魔法の何たるかを知ってはいない三流魔法使いだ、と。
私は魔法を使った人助けの話をした。人々の笑顔の話だ。彼は黙って話を聞いていた。
私が話し終えると彼は口を開いた「私が魔法を教えたのは人間を恐れたからだ。だが、その様な使い方も在るのだな。私も三流魔法使いだった訳だ」自嘲気味に笑った彼はさらに続けた「私はどこか遠い所で見守っているとしよう。私以外のドラゴンにも話す必要があるだろう。あぁ、彼等は元気だろうか」
私はその時初めて知ったのだが、ドラゴンは彼の他にも複数居るようだ。
深い海の底。雲より高い山の上。どこも人間ではたどり着けない様な場所ばかりだった。
彼が忽然と姿を消した後も魔法使い達はドラゴンの肝を諦める様子を見せる事は無かった。ココからは私が聞いた噂なので信憑性は低いが大まかな事は合っていると思う。
魔法使い達の執念により、彼とは別の、番のドラゴンが見つかってしまった。雄のドラゴンが出て行ったのを見計らって、出産をしたばかりで弱って居た雌のドラゴンを殺し、卵を盗んだのだ。
戻ってきた雄のドラゴンは怒り狂い、幾つもの村や町、国が無くなった。
ドラゴンが破壊した街を訪れてみた時、何時ぞやのドラゴンと再会を果たした。
「彼を救って欲しい。私たちドラゴンは知性を手に入れたが彼は憎しみに囚われてしっまている。もう元には戻れないだろう」開口一番私にお願いを頼まれた私は一つ返事で了承した。
その時思ったのだ。己の知識を深めるのを諦めた愚か者に知性を壊された獣を救い、愚か者を粛正しようと。
知性を失ったドラゴンの討伐は私と不死を得るきっかけとなった知り合いのエルフ、そして女性に救われたドラゴンとで協力する事になった。
戦場は周りに損害が及ばないように平地を選んだ。何重にも渡る作戦、相性の良い魔法の組み合わせを考えだした私たちは長い戦闘の末、ドラゴンを追い詰めることに成功したのだ。
だが、そこに横槍が入った。ドラゴンの肝を探していた連中が弱ったドラゴンにとどめを刺そうとしたのだ。私はあの時と似た感覚と共にドラゴンを守るように魔法使い達に魔法を放ち、たちまち彼等との戦闘になった。
何とか勝利したが気付いたときにはドラゴンの姿は見えなくなっていた。
人間の姿となった彼の話によると冬眠に入ったのだろうとの事だった。冬眠とは仮死状態となる事でエネルギー消費を減らし周囲の魔力を吸収する事で傷を癒すのだと聞かされた。冬眠しているだろう年月はおおよそ五百年だそうだ。
私の寿命ではとても持ちそうに無い。なので私の替わりに悲しきドラゴンに安らかな眠りを与えてあげてくれ。
後のページには私が障害を掛けて創った魔法を残すとしよう。
魔法によって起こされたこの事件。それでも私は魔法によって笑顔が生まれることを知っている。




