p.20[食堂で暗躍する執事]
背には一対の白い翼。エメラルド色のたなびく髪。瞳はサファイアの様に蒼く輝いていた。
その姿は神々しく、本当に神が現世に降り立ったかと思った。
この話はアビーさんから俺がアネモイ様の力を借りて魔法を使った時の様子を聞いたものだ。
彼女は余りの神々しさに腰を抜かしてしまったようだった。
「神に一番近いと言われる教皇の私は少し、神というものを舐めていたのかもしれませんね」
頭を垂れて力なく言う彼女に、俺は何と言って励ましてあげればいいのだろうか。
「神の力を持った者は、たとえその力が弱くても、どのような容姿でも、どのような地位でも、どのような服装でも人々に畏怖と尊敬の念を与え、その身には正義を従える」
「教典の言葉ですか?」
「いいえ。コレは私の言葉です」
「今思いついたのですけどね」そう言って笑うアビーさん。
もしかして俺、軽くディスられた?そう考えていた俺をよそ目に彼女は続けた。
「コレを教典の話に入れようと思いまして」
「勝手に編集しても大丈夫なんですか?」
「なんたって私は教皇ですからね?朝飯前ですわ。それに・・・」
「それに?」
「今日、あの場に居た者たちはこの言葉を教典に入れるのに絶対反対はしませんわ」
凄い自信だな。そんなに凄かったのか?
しかし魔法の効果が周囲にバッドステータスを与えるのではなく、ただ単に神々しさが出るだけならあの魔法を使っても大丈夫そうだな。
「ツバサ様。もう大丈夫ですわ。戻りましょう」
体を起こそうとするアビーさんを手伝う。
「もう一度訓練を見に行くんですか?」
「兵たちに教典に載せる話をしに行くのです」
起き上がったアビーさんはガブリエーラさんにお礼を言うと訓練場へと走り出した。
俺もお礼を言うと急いで後を追った。アビーさん、意外と走るの速い・・・。
結果から言うと、教典に載せることになってしまった。
兵士達は誰一人として反対しなかった。エリックさんもだ。
心なしか周囲の俺を見る眼が尊敬の眼差しになっているような気がするが気にしたら負けだ。
握手を求めてやって来る兵士達とワイワイやっていると宿舎の方から人がやって来た。
「お昼ですよーー!」
もうそんな時間なのか。
兵たちは革の鎧を脱ぎ捨てると宿舎へと走って行った。
「整理整頓とかしないのか」
「いや、私も言ってはいるのですがね・・・」
エリックさんはどこか諦めたような表情だ。そんな様子では緊急時に大変だぞ。
「コレは減給ですわね~」
「そんなご無体な!?」
言わんこちゃない。雇い主の目の前でそんな事やってるからだ。
「セバスチャン?」
「はい。ココに」
「うぉ!」
アビーさんが名前を呼ぶとどこからともなくセバスチャンが現れた。
どこから出てきた!?さっきまで影も形も無かったぞ・・・。
コレが本場の執事か・・・恐ろしい。
「食事の用意はどうですか?」
「アビー様、ツバサ魔。両名ともにご用意が済んでおります」
「申し訳ないのだけれど、今日は宿舎で兵たちと一緒に食べるわ。貴方たちで食べておいて頂戴」
「かしこまりました」
アビーさんの館と宿舎とで厨房が分かれているのか。
地位が違うから同じもの食べるという訳にはいかないんだろう。今日は特別のようだが。
そういえばセバスチャンがまた視界から消えたな・・・。
アイエエエエ!〇ン〇ャ!?ニ〇ジ〇ナンデ!?
「私たちにも同じものを頼めるかしら」
「あ、アビー様!?はいぃ!ただいま!!」
アビーさんが給仕の女性に食事を頼むと凄い驚きの声が返って来た。
そんなにアビーさんが来るのが珍しいのか。
兵たちは二列に並んだとてつもなく長いテーブルに腰かけて楽しそうに話している。屋敷の裏手で訓練していた人数よりも多い気がするがどっから増えたのだろうか。
「エリックさん。先ほど見た人数より多い気がするのですが」
「巡回の兵たちが戻ってきているのでしょうね」
はー、なるほどね。
それより何故か兵士達から視線を集めているんだが?
周囲を見回してみると、何人かが俺と目が合った。
給仕の人から昼食の乗ったお盆を受け取って空いている席に向かいながらその原因を聞いてみた。
「周囲から視線を感じるのですが・・・」
「先ほどの魔法が原因でしょうね」
「いい感じに話が流れている頃合いでしょう」
アビーさんもエリックさんも同じ答えだ。
俺の魔法を見ていた兵士が街の巡回から戻って来た兵士に俺の話をしているようだ。
「俺の話なんかしてそんなに楽しいですかねー?」
席に着き、机に膝を付き一人呟く。
一緒に昼食を取っている二人は何故か楽しそうだ。
「お二人とも楽しそうですね」
「コレは貴方の為にもなるんですよ」
「どういうことです?」
アビーさんが言うにはあの魔法の話が流れれば流れるほど信頼と畏怖を集めるのだとか。
エリックさんも横で頷いている。彼の分だけ昼食の量が多いのは体格のせいだろうな。
「私もアレには驚きました。戦場でもあんなに体表が泡立った事は無かったですよ」
「そんなにですか・・・。アレ、自分ではそんなに自覚がないんですけど、そんなに凄かったんですか?」
「次元が違うっていうか、なんていうんでしょうね?私も分からないんですけど・・・」
「あ、私に敬語とか別に要らないですよ。エリックさんの方が年上ですし」
「お、そうか?助かるわ。俺も別に敬語とか要らねぇから」
「分かった」
敬語をやめた瞬間、フランクな口調になったエリックさん。かなり無理をしていたと見える。
「・・・」
「あの、アビーさん?」
そんなやり取りをしているとアビーさんがジト目で俺達を見ているのに気が付いた。
何があった!?
「・・・いつになったら私への敬語は無くなるのですか?なんでエリックにだけそんな関係なんですか~。酷いです」
どうやら俺の敬語が直らないのが気に食わなかったようだ。
アビーさんには何というか、つい敬語が出てしまうというか、年上は敬うべき、みたいな?そんな事いってたらエリックもなんだろうけど、彼は男だからなー。
「いや、アビーさんは女性ですし?どうしても敬語が出てくると言いますか。領主様ですし?」
「ですから、私は使徒であるツバサ様より立場が下だと言っているではないですか」
「なんだ!お前使徒だったのか。やっぱ敬語に戻した方がいいか?」
「いや、そのままでいい。アビーさんは使徒だとか大声で、それに外で言わないで下さい」
俺たちの話を聞いていたであろう兵士が何人かいたようで驚いた表情を浮かべていた。
ん? アレはセバスチャンか?
話を聞いていたであろう兵士と何事か話しているセバスチャン。
一言二言会話を交わしているかと思ったら、話している兵士の顔色が急に真っ青に変わった。
な、何の話をしているんだ!?兵士がこちらを見て頭を下げまくってるぞ。
もしかして口封じかよ・・・。
彼を相手にするのは絶対に嫌だな。




