p.19[我は神の御使い]
申し訳ありません、遅れました。
『神級魔法をなめてるんですか?』
「ええー・・・」
魔導書を開いたらコレである。
俺はすっかり忘れていたのだが、この世界の一般的な魔法は精霊魔法だ。ということは神級の精霊魔法を使え、と言われたことになるのだが、俺は精霊魔法を使えない。
それ以前に、まず神級の魔法を使えないのだそうだ。
カゼノさんが一行毎に『あなたは馬鹿ですか?』と入れながら教えてくれた。
「どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと心の準備を」
あまりにも俺がマゴマゴしているからアビーさんからお声が掛かるが、軽く流して魔導書を見つめる。
『精霊魔法と思っているでしょうから詠唱は要るとして、問題はどのような魔法を使うかですよ』
「真空じゃダメなのか」
『神の御業だから神級なんですよ?それでは精霊級どまりです。精霊の限界が精霊魔法なんです。だから精霊魔法使いは神級の魔法の存在を知っていても使えないんです』
アビーさんたちに聞こえないように音量を下げてカゼノさんと話す。
「アネモイ様の力を借りるとか出来ないのか?」
『使徒ですし、出来ない事は無いと思いますけど・・・』
「じゃあ、それでいくぞ。・・・アネモイ様お願いしますよ」
そろそろ周りからの視線が痛くなってきたので話をさっさと切り上げて魔法の準備に入る。
この状況をアネモイ様が観てくれていることを願うのも忘れてはいけない。コレが本当の神頼みだ!
「其の物は一陣の突風! 其の者は有翼人! 命廻らし彼の者よ! 我に息吹を与え賜わん! 『我は神の御使い』」
足元にはいつの間にか魔法陣が方陣が組みあがっていた。
俺を中心にひし形が組まれ、それを挟む一対の翼。アネモイ様の紋章だ。
周辺の風にも変化があった。肌を刺すような冷たい風。強く荒れる嵐のような風。すがすがしい程のそよ風。
休むことなく踊り続ける風は正に季節そのものだった。一周する毎に胸が熱くなり力が溢れて来るのが分かる。
一歩、歩を進めれば風の足場が出来上がり、地に着こうとする足を留める。それでいてバランスを崩すような事も無く、しっかりとした感触が返ってきた。
周りを見渡して見ると、持っていた武器を投げ捨て土下座をしていたり、涙を流しながら俺の方を向いて両手を合わせる人までいた。
アビーさんは心ココに有らずと言った様子で、膝をついた状態でボーッと俺を眺めていた。彼女は少し震えているようで肩が上下している。
「アネモイ様。ありがとうございました。もう大丈夫です」
アネモイ様に感謝の言葉を言うと風の足場は俺を地面に下ろしてから優しく消え、風も元から吹いていなかったかのように穏やかになった。
「アビーさん、大丈夫ですか?」
「ッ!?・・・」
震えていた彼女の元へ行き声を掛けると逆に驚いてガタガタと震えだしてしまった。
そんなに怖がらせるような場面あったっけ?そんな事を思いつつエリックさんを呼んだ。
「すいません。アビー様の体調がよろしく無いようなので休ませてあげたいのですが」
「医務室までご案内いたします」
「お前たちは訓練を続けておくように」そう言って歩き出したエリックさんの後を震えるアビーさんを抱えて追う。
彼女を抱えた時にちょっと濡れていてような気がしたが気のせいだろう。昨日は雨だった気がするし水たまりがあっても何も言うまい。
エリックさんの後を追いながら兵士たちの様子を窺えば、のそのそと立ち上がる人もいたが、大半は立つことが出来ないでいた。あの様子では訓練は出来ないだろう。
「あの様子では訓練は無理でしょうな」
アビーさんの屋敷へ向かいながらエリックさんが呟いた。
「確かにあの様子では難しいですね」
立つこともまともに出来ないでいた兵士たちを思い浮かべる。
立てないような事は無かったと思うんだがな・・・。エリックさんは立ってるし。
「ですが本当に神級魔法使いでしたとは、驚きました」
「ありがとうございます。ですが私は未だ修行中の身です。まだまだ若輩者ですよ」
「あそこまで神に好かれていてご謙遜とは、嫌みに聞こえますので気を付けた方がいいですよ」
「あ、いえ。そんなつもりは無かったのですが・・・」
神に愛されるって・・・。使徒なんだからこのくらいは出来るものなんじゃないだろうか。
知らない人からみたら凄いんだろうけど、俺にはカゼノさんもいるし、さっきのは俺の力関係なくアネモイ様の力を借りただけだからなー。
あれ?貸してくれるって事は愛されてるってことか?使徒だから貸してくれたと思うんだけど、どうなんだろうか。
「着きましたよ」
医務室に着いたようでエリックさんが扉を開けてくれた部屋に入る。
中に入ると初老の女性が椅子に座っていた。女性は俺たちの様子を見ると急いで立ち上がりベッドまで案内してくれた。
俺がアビーさんを下ろすと女性は、どうしてこうなったのかを聞いて来たのでその時の様子を軽く説明をした。
話し終わった後、脈を取ったり、意識の確認をしていたが、しばらくして顔を上げると女性は言った。
「外傷はないから特に問題は無いと思うんだけどねぇ~」
「そうですか。ありがとうございます」
「寝かせといて様子を見てみるしかないねぇ。近くに居るから何かあったら呼んどくれ」
「あー、すいません。私はツバサ タチバナと言うのですが、貴女のお名前をお聞きしても?」
「私はかい?ガブリエーラとでも読んどくれ」
ガブリエーラさんは座っていた椅子に戻っていったので後に控えていたエリックさんに目線をくれる。
「アビー様にはタチバナ様がついて居てもらってよろしいでしょうか。私は訓練の方にも顔を出さねばなりませんし・・・」
「分かりました」
「あの様子では今日の訓練は終わりですかな」
エリックさんは笑いながら医務室を出て行った。
途中でガブリエーラさんに「うるさい」と言われていたのには少し笑ってしまった。
アビーさんは少しは落ち着いて来たのか震えも収まっていた。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・はぃ」
彼女の口から出た言葉はとても小さかったが、ひとまずは返事が返ってきたことに安堵した。
「・・・手を繋いでもらえますか」
「私なんかの手で良ければ」
差し出されたアビーさんの手はとても冷たかった。
アネモイ様の力を借りて使ったあの魔法。アレにはバッドステータスを与えるような効果があったのだろうか?これから使うときには気を付けなければ・・・。




