p.1 [美少女系魔導書]
狭くなる視界の中、一つ瞬きをすれば辺り一面の花畑は忽然と姿を消し、手にはどこから持ってきたのか文庫本位の大きさの本を持った状態で森の中に立っていた。
「森の中とはこれまた、よくあるような、無いような・・・」
森の中は鳥の鳴き声やら葉が揺れる音やらでザワザワと賑わっていた。
周りを少し見回してみるが道っぽい物は見えないので歩いて道を探すしかなさそうだ。
「・・・それで、この本なに?」
いつの間にか持っていた文庫本位の大きさの本を見てみる。
表紙にはタイトルや著者の名前等は一切書かれていない。
深緑色の革で覆われており本の上部、天と呼ばれる部分には金箔が塗ってあり、四つの角には銀色の留め具が付けてあった。見るからに高級品だ。
軽くページをめくってみると白紙だったので次々にめくっていくがどのページにも文字一つ書かれる事無く、空白のページしか存在しなかった。
「なんだこれ?何も書かれてないんだけど・・・もしかして超高級落書き帳とか?」
そんなくだらない事を考えていると急に手から本の重みが消えて目の前に少女が現れた。
少女はゴスロリと呼ばれるような衣装で、黒と白を基調としたレースやフリルに飾られ、膨らんだスカートに編み上げのブーツを履いていた。
長い黒髪をポニーテールに。目つきが少々鋭いが一般的には可愛い部類に入るだろう。
目の前で起こった現象に驚いていると少女が口を開いた。
訂正しよう、美少女だった。決して目の前のしょu・・・美少女から何かを感じ取った訳では無い。ないったら無い。
「私は落書き帳ではありませんので」
「・・・・・・どちらさん?」
貴女じゃなくて俺がさっき持っていた本の事を言ったつもりだったのだが・・・。
話を聞くところによるとゴスロリ美少女さんが俺がさっき持っていた本の正体だったようだ。
何を言っているか分からないかもしれないが、俺もわかんねぇ。
魔導書が人間に変わると言うカミングアウトをした調本人の美少女はこちらの内心を知らないかのように自己紹介をし始めた。
「私はアネモイ様から貴方のサポートを任されました。魔導書改め落書き帳です」
「・・・お、おぅ」
ついに人間は本まで擬人化するようになったのか。人間って怖いね。
心の中で人間の欲深さに慄く。
「君がさっきの落書き帳?」
「そうですね」
確認の為に聞いてみたが自分で落書き帳って認めたのだがそれでよかったのだろうか。
それにしても、元が本だからなのかさっきからピクリとも笑わないんだけど。凄いやりにくいんですけど!?それに落書き帳ネタはいつまで続くのか・・・。
「で、魔導書って何ぞや?」
「では説明致ししましょう」
この世界の人間は十歳を迎えるとほとんどの人が魔導書を貰えるらしい。
その人の魔力を感知して空から降ってくる謎仕様だそうだ。魔力が少なすぎる、又は魔力が無い人は魔導書が降って来ないなんて事もある様子。
ちなみに女の子は降ってこないらしい。
魔導書を持っていても魔法が使えるという訳では無く、何十年も魔法使いに師事しなければいけないようだ。それでも生まれ持っての才能で使える魔法、使えない魔法とで別れるみたいだが。
「魔法が使えないなら魔導書なんて要らないだろ」と思うかもしれないが魔導書には持ち主の個人情報が書かれていてこの星では身分証明書の代わりになるんだそうだ。
他にも機能があるようだが長くなるとかで聞かせてもらえなかった。
なんでも魔導書はアネモイ様含む他の神様達が裏で創っているらしいです。
「さっき見た俺の魔導書には個人情報どころか何もかかれてなかったけど?」
「まだ登録してないからですよ。では登録していきましょうか、今のままではタダの落書き帳ですので」
凄い落書き帳を押してくる。無表情でボケているのかどうか分からない事されても俺が困るだけなんだが・・・。
「それで登録の仕方は?」
「魔導書、私ですね。私に魔力を送ってくれれば登録完了です」
「ごめん、魔力とか言われても俺分かんない」
ゲームなどでは色々と多様されている魔力だが、俺とは縁も所縁もない未知のエネルギーである。もう少し詳しく説明してもらいたいものだ。
「それじゃあ手っ取り早くやりましょうか。右手、出してください」
「右手? はい」
彼女に言われた通り右手を差し出すと、魔導書さんも右手を差し出してきて俺の手を握った。
握手するのか? そう思っていると互いの手を介して暖かい何かが出たり入ったりしているような感覚。なんとも不思議な感覚だった。
「これは?」
「今のが魔力です。よく覚えておいてくださいね」
「へぇ、今のが魔力か」
あれが魔力・・・。
さっきの暖かい何かが魔力だと教えてもらったので、その何かを追いかけるように体内に気を向けるが自分の心臓の音が聞こえるだけだった。
この世界の人間は何十年かけて魔法が使えるようになるんだ、そう急ぐ事もないか、と自分を慰める。
「それで、俺の個人情報とやら見てみたいんだけどまた本に戻るの?」
「その必要はありません。私自身が魔導書ですから、私とどこか一部でも接していればこちらから情報を送れます」
「今送りますね」そう言うと魔導書さんはまた俺と握手をした。
さっきと同じ様に魔力のやり取りをすると目の前の空中に文字が浮かび上がった。
ツバサ タチバナ (19歳)
HP100%
MP105%
攻撃力100%
法撃力100%
防御力100%
法御力100%
俊敏力100%
・称号
風の神アネモイの使徒
・所持スキル
異世界言語[熟練度10.00]☆
風魔法[熟練度0.00]
風魔法適性[熟練度0.00]
MP増加Ⅰ
どうなんだろうコレ。・・・チートか?
RPGでは序盤と言ってもおかしくないステータスにスキルだ。
しかし魔法使うまでに何十年も掛かるらしいから魔法を覚えているだけでで凄いんだろう。
異世界言語は本当に助かる。マジで。
「ていうか、何でパーセント表示なんだ?普通に数字じゃだめなのか」
「レベルという概念が無いからですよ、この世界はスキル制です。なので肉体的成長が止まると数字も変動しにくくなるんです。元の数字による差別を防ぐ、というのもありますが神様が魔導書を創るときにパーセント表示の方が創りやすいからだとか」
「・・・な、なんと。神様達の裏事情を知ってしまった」
要するにあれか。個体値が低いモンスターを逃がして厳選するあのゲームみたいだな。
貴族とか弱い奴を捨てて強い血を取り込もうとかしてそうだよな。
魔導書さんによるとスキルの熟練度は十が最大らしい。熟練度が書かれていないスキルは一定の値が加算さるようだ。
MP増加ⅠはMP+5%みたいな感じに。
「ご理解頂けました?」
「大体はね。ところで魔導書さんの名前なんて言うの?魔導書さんって呼ぶの長いんだけど」
「そうですね、特に名前はありませんので好きに呼んでもらえれば」
名前かー。ネーミングセンスのなさは自分が一番わかってるんだが。
「そうだな、・・・じゃあ、風乃。カゼノさんね。風の神の使いだしそれっぽくない?」
「まあ、普及点ですね」
相変わらずの無表情だが俺には分かる。わかるぞぉー、その無表情の裏に喜びが見え隠れしているのがな!!・・・・・・痛っ!?
カゼノさんが蹴りを繰り出してきたのである。
「痛いんですけど!?なにやってんの!」
「すいません。足が勝手に」
心を読まれた!? こやつ中々やりおるぞ。




