p.17[領主、そして教皇]
渡された住所へ向かう途中不思議な光景を見て思わず足が止まってしまう。
オースティンさんの家は神殿を中心とすると西、領主様の住所は神殿から東。という訳で神殿の前を少し通ったのだが神殿に凄い人だかりが出来ていたのだ。
集まっている人達は水瓶やら桶などを持って一列に並んでいて、列を整理するためか何人かが大声を出しているのが聞こえる。
「何かやってるのか?」
『あそこは海の神ネプトゥネス様の神殿ですね。見た感じ、水を配っているのでしょう』
「神殿から生活水を貰ってるのか」
アネモイ様の神殿なら風通し、ネプトゥネス様の神殿は水って事か。
昨日避難させてもらったヘリオス様の神殿は特に何も無かったんだけど、俺が気付いていないだけかもしれない。
「そういえば、俺の他にも使徒っているのか?」
『どうしました、急に』
神殿に並んでいる人達を横目に、気になった事を聞いてた。
「アネモイ様の他にも神様は居るんだろ?それなら使徒どうし協力した方がいいし、情報だって纏め易いじゃないか」
『私はツバサさん以外の使徒が居るとは聞いていませんが・・・』
「国が何個も無くなったんだろ?とても俺一人で討伐するのは無理な気がするんだが」
俺の今の能力で国と戦えるとは到底思う事が出来ない。敵側の広範囲に真空な空間を作り出せば出来そうな気がしないでもないが、魔力が足りないんじゃないだろうか。
紋章が大気中の魔素を毎秒どれだけ回収するのかは確認しておきたいな。出来るかは別として。
いや、先に風魔法の熟練度を上げる方が先か?
神殿を後にして歩いていると、魔導書に出ていた目的地と自分を示すカーソルが一致した。どうやら無事着いたようだ。
家と仕事場が別なのかと思っていたが、別に分けているという事は無さそうだ。
領主様の館は漆喰を使った白い壁に所々木材が使われていて質素な感じに落ち着いる。見た感じ三階建てのようだ。
「すいません。オースティン様からの紹介で参りました。タチバナと申します」
「大変お待ちしておりました。どうぞ中へお入りください」
門番に話しかけるとすぐに通してもらえた。
門を通り、屋敷へ向かっていると執事と思わしき人物が出てきて、会釈をした後、自分が今さっき出てきた扉を再び開けた。
オースティンさんのところはメイドだったのに此処では執事か。それにしても俺が来たのが分かったのかな?
「タチバナ様でございますね。領主様の所へ案内させて頂きます、セバスチャンです」
「ご丁寧にどうも」
近寄ってみると、執事は初老と言った雰囲気で右目にはモノクルを付けていた。
どの世界でもセバスチャンって言う名前は執事だよな。やっぱり。
廊下を歩いて行くと壁に剣が掛けられているのを見つけた。オースティンさんの所では無かった物だ。
屋敷のちょっとした違いを見つけていると部屋に着いたようでセバスチャンが脇に逸れてくれた。
コンコンコン・・・
「オースティン様の紹介でやって参りました。ツバサ タチバナです」
「入ってきて下さい」
ドアをノックすると中から帰って来た声は女性の物だった。
部屋に入ると声の主と思われる女性がティーカップを片手に飲み物を飲んでいる所だった。
女性はブロンドを長く伸ばしていて目はややたれ目、優しそうな、それでいて少し眠そうな人物だった。
「まぁ、とりあえず座って下さいな」
ドア越しとはまた違う声の通り。
彼女の言う通りにソファーに腰を落とした。
この部屋は対談室のようで、テーブルを挟むように置かれた二脚のソファー。その他にはテーブルの上の花瓶や絵画といった小物たち。
「初めましてですね。私はアビー=ウィリディス、この街とその周辺の村を治める領主です。そしてアネモイ様の神殿で教皇をしている者です」
「-ッ!・・・失礼しました。私はツバサ タチバナと申します。この度はこのような機会を設けていただき、まことに感謝させて頂きます」
どういうことだ聞いてないぞ。領主に教皇って権力偏りすぎだろ、どうなってるんだ。他の神殿の連中が良く許したな。
教皇は枢機卿の上の役職。道理でオースティンさんと繋がりがある訳だ・・・。
「フフ、驚いているみたいですね」
口元を抑えて笑うアビーさん。
「あ、そうです。二人でいる時は敬語は使わないでもらえますか?」
「それはまた、どうしてでしょうか」
「ツバサ様の方が私より立場が上ですもの」
領主で教皇のアビーさんより上なのか?
「人は皆神の赤子。赤子、危機迫りしとき母の頬より光落ちて我が子を守らん。」
「それは?」
「そう言う記述が全ての神殿の神の像にあるのですよ。誰が彫ったのかのかも分からない、いつからあるのかも分からない。コレを私たちは神の句、神句と呼んでいます」
「まだ続きがあるのですが、その話はまた今度」ビリーさんは名残惜しそうにそう言った。
「シルフィック卿からツバサ様が確実に使徒であると聞きました。我々の今までのご無礼どうかお許し下さい」
「や、やめてください。気にしていませんから」
行儀よく膝の上に手を置き、俺に向かって深々と頭を下げるビリーさん。
頼むから顔を上げて下さい、と懇願することでどうにか顔を上げてもらう事が出来た。
「使徒であるツバサ様が来てくださった、という事は危機――ドラゴンが目覚めるのも確実でしょう。私に出来ることがありましたら何でもご相談くださいまし」
「ありがとうございます。私はドラゴンに対する知識を持っていません。なのでまず最初は情報収集でしょうか。古い文献に何か残っているかもしれませんし、確認はしたいですね」
「本ですか・・・。神殿には禁書室と言う禁じられた魔法の方陣や本が収められている場所がありましたわ。地下の奥深くにありますから忘れておりました」
いかにもって感じだな・・・禁書室。
心配なのは神殿が他にもある事か。他の神殿にも同じように禁書室が有ったとしたら大変だ。
俺の中では神殿の中は治外法権ってイメージだからなー。




