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p.15[迫りくるDQN]

 カゼノさんから魔法を教えてもらっている途中で一人の男性がこちらに歩いて来ているのが見えた。

 髪は茶色をしており、少し釣り目で勝気そうなその男は大股でズンッ、ズンッと歩いている。


 「何だアレ?こっち来てるよな?」

 「DQNでしょうか。絡まれる前に逃げますか?」


 相手には聞こえて無いだろうけど、初見の人をDQNって・・・。俺も思ってけどさ、口に出したらだめだろ。

 カゼノさんの口は他人に対しても効果を発揮するようだが、その口調にもやや疲れが見えていた。周りを見回しても俺とカゼノさん以外、近くに人は居ないので俺たちに用事があるのだろう。


 「逃げようか」

 「逃げましょう」


 だが、見るからに厄介事を持っているので捕まる前に逃げる。

 触らぬ神に祟りなし。っていうしね。

 男はアネモイ様の神殿の方から来ているので反対方向へ向かって、俺とカゼノさんは同時に走り出した。


 「オイッ!待て!」


 やっぱり俺たちに用事があったようだ。

 男も急いで走り出して俺たちの後を追う。


 「カゼノさん!どうしようか」

 「とりあえず建物の中に行きましょう。広場は視野が通り易いですし」


 さすがカゼノさん。

 何の神かは知らないが神殿にお邪魔させてもらおう。

 俺は精一杯走っているつもりだが、男の方が走る速さが速いのか俺達との距離がだんだんと縮まってきた。


 「俺が魔法使ったらカゼノさんにも魔法掛かるの!?」

 「同期してたら掛かりますけど、同期してないでしょう?!」

 「カゼノさんが断ったじゃないか!」


 魔法を使って逃げようとしたが、それだとカゼノさんが置いてけぼりにになるし、まさかここで彼女に魔導書になってもらうわけにもいかない。

 そうこうしている内に男が手を伸ばせば届きそうな距離まで来た。


 「待てってのッ!」

 「かくなる上は・・・カゼノさんちょっと失礼!『加速アクセラレータ アする鼓動ビート』!!」

 「ちょ、ツバサさん!?きゃっ!」


 しょうがないのでカゼノさんを抱えて魔法を発動させた。態勢的には俗に言うお姫様抱っこってやつだ。

 魔法無しでコレをやると俺が潰れるが魔法込みだったら百人力。速度も出せるし重い物だって持てる。

 別にカゼノさんが重いとかそういう事ではないぞ。





 「ふぅ、どうにか撒いたか?」

 「そのようですね」


 神殿に入ってグルグルと移動していたら、いつ撒いたのかは知らないが男は後ろには居なかった。

 カゼノさんを下ろして魔法を解いてみるが前ほど反動は無く、息もすぐに整った。

 発動時間が少なかったからかな?さっき魔法を習ったのもあるのかも。


 「で、ココって誰の神殿?」

 「この神殿は太陽の神ヘリオス様の神殿ですね」

 「聞いた事がある名前だな。ギリシア神話だっけ?」


 たまたま逃げ込んだ先は太陽の神ヘリオス様の神殿だったようだ。

 ヘリオスがギリシア神話の神ならアネモイ様もギリシア神話の神様なのかな?

 異世界なのにギリシア神話の神なのか・・・。異世界言語のスキルが上手く翻訳出来てないのかな?

 神殿の細部をよく見てみると柱や壁に馬車の車輪の様なものが所々に彫られている。何か意味があるのだろうか。


 「とりあえず神殿から出ようか。カゼノさん帰りの道分かる?」

 「ヘリオス様の神殿なのでアネモイ様系譜の私では分かりません。地道に探すしかありませんね」


 神様にも色々あるんだな。縄張りというか、領域?力の差ってヤツ。

 おんどりゃ、テメェ!ワイの領域でナニ晒してくれとんじゃいワレェ。みたいな。

 想像しただけで笑えて来る。カゼノさんからの視線は痛いがコレは仕方ない。


 「ハハハッ」

 「なに笑ってるんですか」


 なんていうんだろう、ジワジワと笑いのツボを押してくるような感じ。


 「そんな事してないで出口探しますよ」

 「クツ、・・・分かってるよ」


 神殿の内部を歩いて行き、出会った人達に帰り方を聞いて何とか神殿を後にしたのだった。

 神殿から出るとそろそろ日が暮れそうな時間帯で、仕事から帰って来ている人達が増えてきているのか人だかりで賑わっていた。

 レンガの赤と夕日の赤が街道を照らしているようだ。


 「カゼノさんっておすすめの宿とか知らないの?」

 「流石にそこまでは知りませんよ。良い宿を聞いてみればどうですか」


 さすがにそこまでは知らないのか。彼女は目を細めて、そう答えたのた。

 カゼノさんに頼り過ぎてる部分はあるし自分で探すか。


 「すいません。今晩泊まる宿を探しているのですが」

 「宿か?そうだな・・・ロッホ亭とかいいんじゃないか?」

 「ロッホ亭ですか?」


 通りを歩いていたおっちゃんにオススメの宿を聞く。

 ロッホ亭はココから結構近いようなので道順を教えてもらいその宿に向かう。

 結局、道が分からなくてカゼノさんに聞いたのは秘密だ。


 ロッホ亭はレンガ造りの宿で生垣で仕切られた敷地内にはちょっとした空間もあった。

 宿のドアを開けると一階部分は食事スペースになっていて、もう酒が入っているのか赤い顔の人達が楽しそうに笑いあっていた。


 「いい雰囲気だな」

 「ありがとうございます!今日はお泊りですか?それとも食事だけですか?」


 お店の人に聞かれていたようだ。

 出てきたのは赤い髪の女の子で中学生のようだった。

 身長は俺の胸くらいか?俺が百八十あるから身長は百六十あるかないかって感じか。

 こんな小さい子でも働いてるのか、両親の手伝いでもしてるのかな。


 「一泊頼みたいんだけどいいかな」

 「一人部屋が銅貨三十枚。二人部屋は銅貨四十枚で食事は部屋代に含まれているんですけど、二つお部屋を用意しましょうか?」

 「・・・いや、二人部屋でいいよ」


 カゼノさんに視線を向けてから宿の娘さんに返事を返す。彼女は魔導書になれるし一緒の部屋で問題ないだろう。

 カゼノさんを魔導書の状態にしてから来ればよかった。

 それにしても部屋代が高い、残りの金が銅貨十枚しか無いぞ。

 銅貨一枚が百円としたらそんなもんなんだろうけど、

 明日、オースティンさんが紹介してくれる仕事場で前金でも貰おうかな。流石に腹の虫が良すぎるか。


 二階に借りた二人部屋に入ったが置いておくような荷物も無いので食堂に戻って来た。

 カゼノさんは食事を取る必要が無いので部屋でお留守番だ。


 「すいませーん」


 開いていたテーブルに座り注文を頼む。いくつかのメニューがあってその中から選ぶようなので今日のおススメを頼んだ。

 食材の名前が地球とは違うから言われても分からないんだよな。

 パンぐらいじゃないか?分かるの。


 「お待ちどうさまです」

 「ありがとう」


 運ばれてきたのはパンと野菜の炒め物、焼かれた肉と飲み物だった。

 やっぱり、一回に取る食事の量が多い気がするな。


 飲み物はビールだったようで、一気に煽ってむせてしまった。もっと美味い物だと思っていたがあんまり美味しくなかった。冷えて無かったのが原因だろうか?

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