p.9[偽りの告白]
400文字ほど少ないです。
改稿する前と後では話の内容が多少異なっています。もし読んでくださっている人が居るのであれば改稿後、目を通していただければありがたいです。私が細かいプロットを作って無いのが悪いのですが・・・
俺は紋章が薄っすらと緑に光っているように見えるがブレンダンは光っているのが分からないのか?アリシアさんに確認してみるが彼女も分からないと首を振るだけだった。
紋章は魔力の供給元だ。魔力の無い俺に根を張り、こちらの人間の魔力線の替わりとして機能し空気中の魔力の分子を集めて体内で魔力に変換している。
という事はこの光っているのは魔力じゃないだろうか?それなら案外あっさり解決したな。
「二人とも魔法を使えることは出来ますか?」
「いや、無理だ」
「私も魔法は・・・」
二人は魔力が感知出来ないのか。この光を仮に魔力光と呼ぶとして、魔力光の光が弱すぎて見えていないだけかも知れない。出力を上げれば二人にも見えるのかな?
「今から、ちょっとした実験をするので少し離れていてください」
俺だけでは失敗するかもしれないので魔導書状態のカゼノさんを手に取り魔法をイメージし始める。
今回は魔力を高めればいいだけだから難しいな。俺自身も魔力を確実に使える訳では無いしカゼノさん頼りだ。
集中して掌に空気を集めゆっくりと圧縮していく。圧を掛けられた空気は球体の形を取ると少しずつ密度が増していっているのか、球体のある場所だけ空気がよどんで見えた。
圧縮を続けていくと紋章は次第に発光が強くなっていきソコを起点に、同じく緑に光る細い線が身体に走っていく。
これが疑似魔力線か、本当に根を張られてんだな。
チラッと二人を横目で確認してみるとアリシアさんは口に手を当てて驚いているようだったがブレンダンは一つ頷いて見せるだけだった。そちらから確認できたのだろう。もういいか。
「『圧縮空気』!!」
窓が開いているのを確認し空に向かって魔法を放った。少し気だるい感じがするのは魔力の使い過ぎか?この世界では魔力は体内の組織を活性化させる働きがあるらしいから急に少なくなった魔力に体が驚いているのかもしれない。
「ふう・・・」
「タチバナ様!!」
「何でしょうか?」
アリシアさんに名前を呼ばれたのでその方向へ振り返るとそこには土下座姿のアリシアさんの姿があった。従者とブレンダンが必死で土下座を止めさそうとしているが彼女はピクリとも動く気配は無い。
「ちょ、何やってるんですか!?顔を上げて下さい」
「タチバナ様、私たちの今までのご無礼をお許しくださいませ」
「どうしたんですか、急に」
「アネモイ様の使徒であるという事を信じず失礼な行いをしてしまった事を謝りたいのです」
アリシアさんて思っていたよりも勢いがいいんだな。
「許しますから顔を上げて下さい。お願いですから」
「・・・分かりました」
やっと顔を上げてもらえた。かわいい娘に土下座されたら背徳心が凄まじいし、必要な段階だったと思えば我慢も出来る。
「ブレンダンさん、オースティン様にこの事説明してもらえますよね?」
「言われなくてもそのつもりだ」
ブレンダンは部屋から出て行ったがアリシアさんとその従者は部屋に残ったままだった。
「お二人は部屋に戻らないのですか?」
「夕食での事を覚えておいでですか?」
質問に質問で返されてしまった。夕食ってあれか?オースティンさんとの睨み合い。
「オースティン様とのお話しですか?恋路の」
「ええ。そうです。それで、もしよろしければタチバナ様に伴侶になっていただきたいのです」
「また急ですね。・・・その話は貴女の判断ですか?それとも親の命令ですか?」
「私の意思です。ドラゴンが目覚めるようですね、申し訳ありませんがお父様から聞かせていただきました。・・・タチバナ様に居なくなってしまわれると私たちが、人々が困ってしまいます。なので私は引き離さないための鎖となります」
家族のため、他人のために好きでは無い相手と結婚できるとは出来た人間だな。
「私にそれを言って良かったんですか?」
「それで信用が買えるなら安い物です。・・・タチバナ様、返事を聞かせてもらえますか」
そう聞く彼女は目尻に涙を浮かべいた。
「オースティン様と似たような事を言いますね。返事の方ですが、結婚でも何でもいいですよ」
俺が言い終わると同時にアリシアさんの頬には一筋の涙が零れ落ちた。我慢していたのが限界を超えたのか。
「ただし、私はアリシアさんをどうこうするつもりはありません。夫婦の真似をするだけ。分かりますか?」
「え?・・・どういう」
「体の関係は無く、仮面の夫婦として過ごすという条件でなら結婚してもいいです。と言ったんです」
好きでも無い相手と体だけの関係とか風俗じゃあるまいし、嫌いなら別にそんなもの要らないだろ。
心の中では泣き叫んでるがな!泣き叫んでるがな!
「分かったら部屋から出て行ってください。今日はもう疲れました」
「・・・」
アリシアさんは脱力から上手く力が入らないのか従者の手を借りてドアまで歩いて行った。
「失礼しました」
アリシアさんが部屋から出るなりカゼノさんが人の姿になった。
「もったいないですね。童貞卒業のチャンスだったのに」
「そんなもんどこでも捨てれるだろ。・・・俺なりに彼女に配慮したつもりだ。立たない不能とでも言っておけば良かったか?」
「それも面白いかもしれませんね。今度言ってみましょうか」
「カゼノさんは結構楽しんでるのな」
気のせいかカゼノさんの声がいつもより大きかった気がしたが気疲れしていた俺にはそんな違いは分からなかった。
彼女は相変わらず表情に変化はなかったが何となく嬉しそうだった。




