一章 発現
プロローグ
この世界には、漫画や小説にあるような特別な力をもってる人なんていない。俺、市村真樹は普通にごくごく平凡な人生を送るものだと思っていたーーあの時までは……。
一日目
中学三年の春、クラス替えもなく、卒業や進学なんてまだ遠く感じる、いままでと変わらぬ日常である。始業式も特別なことなく終わり、俺は朝のHRが始まるまで読書をすることにした。特別な力を持った少年が活躍する話だ。昔は自分にも特別な力があると思っていたし、ベルトがあれば変身できると信じてた。ようするに中二病だ、小学生で終わったけどな……。
「よう、なに読んでんだ?」
振り返ると、秋貞がいた。
「……」
「……」
「……」
「いや、反応しろよ……」
「エロ本だろ? なあ」
どう反応しようか考えていると、乱入者が現れた。てか、おい。
「誤解を招くようなことを言うな」
周りのクラスメイトもひてるぞ。
「お前が黙ってっから答えてやったんだよ」
「嘘はやめろ」
こいつは正大、まあいつもこんなやつだ。俺たち三人はこんな感じでいつもつるんでる。
「また、黙ったな」
「エロい妄想でもしてんだろ」
「だから、そういう誤解を招くようなことは言うな」
「へいへい」
こんなやりとりもごく普通の光景だった。結局なにも特別なことはなく学校は終わり、帰宅してそのまま寝た。その時やっていたニュースのことなど知る由もなく……。
二日目
「昨日のニュースみたか?」
登校していきなりこれである。
「いや、見てないな」
「学校破りだってよ」
「めずらしく下ネタにそれなかったな」
「そんなこと言ってられねえよ、いつこの学校に来るかわかんねえんだから」
「……」
そもそも、学校破りってなんだ?
「はーい、みんな席についてHR始めるわよ」
「おっと、もうそんな時間か、またな」
HRでも学校破りについての話が出た。だから学校破りってなんだ、わからないと注意しようがないと思うのだが……。そんな俺の考えスルーされ具体的な説明はないままHRは終わった。
「なあ、今日あいつ休みか?」
あいつ……秋貞のことか、確かに来てないな。珍しい、雪でも降るんじゃないか春だけど。
「今いないなら、休みじゃないか」
「珍しいな、雪でも降るんじゃねえか」
同じ意見らしい。
しかし、それほど問題もなく過ぎていたのは昼休みまでだった。
「教頭からの連絡です。午後に予定されていた生徒総会は中止となります。生徒の皆さんは速やかに下校してください。繰り返します……」
なにがあたったんだ。それがわかるのは翌日のことである。
三日目
HRで昨日の事態についての説明があった。生徒会の役員がほぼ全員休んだらしい。そのほかにもぼちぼち欠席者が出てるという、原因は風邪だと。まったく新学期そうそう普通じゃないことが起きるとは、今年は厄年なのだろうか。
「あいつが休んでるってことは俺らも危なくねえか」
「大丈夫だろ、特にお前は」
「そっか? まあ俺は丈夫だからな」
そうじゃなんだが、まあいいや。
一時間目の授業中に突然その時は訪れた。
「先生」
「どうした、木山」
「具合が悪いので保健室にいってもいいですか?」
「構わんが、ひとりで行けるか」
「それくらいは」
「そうか、気をつけてな」
「はい」
「これで、生徒会は全滅か」
木山が出て行ってから、先生がそう漏らしてから授業を再開した。おそらくはクラスのみんなも同じようなことを思っていただろう。
木山悠、生徒会の書記。テニス部。生徒会に入る前はクラス委員長をやっていた。休み時間は友達と話しているか、恋愛小説を読んでいる。家族構成は、父、母、妹の四人暮らし。七月一六日生まれ・A型・身長一六一cm・左利き・握力右二八,七、左二八,九・利き目は左・視力右0,五、左0,六・板書するときは眼鏡着用。スリーサイズは上かーー
「全員、手上げろ!」
一瞬先生かと思ったが違う、入口に立っている銃を持っている男が言ったんだ。え、なにこの状況。
「さっさとしろ!」
みんな素直に言うことを聞く。一番近い席にいる正大なんて真っ青になって震えている。
「よし、じゃあこれか俺の言うとおーー」
男の顔が水に包まれる。取り押さえさえるなら、今がチャンスだ! そうは思っても俺はとっさに動くことができなかった。ほかのみんなも同じようで……いや、ひとりだけ違った。正大だ。馬鹿なのか勇敢なのかは知らないが、蔓で押さえつけた男から銃を奪いこういった。
「これはモデルガンですよ、先生」
一瞬間があったが、前のほうにいた生徒たちが一気に男を取り押さえた。
「わかりました。先生は他のクラスの様子を見てきます。あなたたちはここにいてください」
さっきまでビビってたのにこの変わりようである。正大の奴もさっきの勇敢さはどこへやら、自分の席に戻り、震えてる。頼りになるんだかならないんだか、よくわからない奴だ。しばらくして戻ってきた先生によると、警察を呼び、他のクラスにいたモデルガンを持った男たちも取り押さえて、警察に突き出したらしい。そしてその日はすぐに下校させられることとなる。
四日目
今日は朝から体調を崩してしまい学校を休んだ。病院へ行き、ただの風邪だろうということで薬をもらい家で安静にすることにした。しかし、体調がよくなり学校に行くことができたのは、一週間後のことである。
十一日目
「具合、大丈夫か?」
「俺は大丈夫だが、お前こそ大丈夫だったのか?」
「ああ、俺ももう大丈夫だ」
「それはよかった」
「お前らがいなくて、俺は寂しかったぜ」
「俺は一昨日からいるだろ」
「細かいこと気にすんなよ」
その後、一週間前の事件について、俺が休んでる間に先生から聞かされたことについて説明されたことだな。休んでたやつには戻ってきたら説明するように言われたらしい。
その話を要約すると、彼らは変な少年に金で雇われた学生で、その日休んでいた人を調べるように言われていたらしい。ただ、変な少年について聞くと、腕がたくさんあるだの、手からビームを出すだの、透明人間だの、ばけものみたいな姿だのまともな返事が得られず。結局、薬物中毒患者の暴挙ということでかたがつくという話だった。
「俺としては、どうにも納得がいかねえ」
「俺たちがどうこう言いて変わるものでもないだろ」
「まあ、そうなんだけどよ」
そうこうしているうちに、もうすぐHRが始まる時間になり、俺たちは解散した。
昼休みになって担任からの呼び出しを受けた。なぜ進路相談室なのかはわからないが……
「よく来ましたね」
……本人なのか? 顔や声に違和感はないが、喋りに違和感がある。
「警戒せずに、どうぞお座りください」
「要件はなんですか」
「あなたは、自分の力について理解していますか?」
「力?」
全く心当たりがない。
「理解してないようですね。では簡潔に」
「あの時、犯人の男を拘束した蔓は、あなたが操ったものです」
「はぁ」
「自覚はないのでしょうが、事実です。試してみればわかりますよ」
「試すって言われても……」
「イメージです」
「イメージ……」
「いいから、試してみなさい。全てわかるわ」
確かに、蔓が動くのをイメージすれば、どこからか生えてきた蔓がイメージ通りに動いた。
「……」
訳が分からない。
「今日の要件はそれだけです。あなたは能力者になった。その自覚だけはもっていてください」
「能力者ってなんなんですか?」
その一言を出すのが、今の俺にとっては限界だった。
「簡潔に説明させてもらいます。質問は受け付けません」
「能力者というのは、今のあなたのように能力を使うことができる人の総称です。能力の種類については、人によってまちまちなので何ともいえません。発症条件についても中高生に多いこと以外は何も、そもそも、政府が認めた数少ないところでしかまともな研究は行われていませんし、それ以外のところが能力者に手を出した場合は、消します。かつて、能力者をモルモットのように扱い、死なせてしまった研究者がいたからです。我々はあくまで同意を得られたうえでの、研究への協力のみとしたいのです。学生であるあなた方にそこまでのことは求めません。あなたがたは普通に生活していてください」
「長々といいましたが、自覚を持っていてくださいということですよ」
それだけ言うと、彼女は部屋を出て行ってしまった。一人残された俺は、しばらくその場でかたまっていたが、昼食がまだだったことを思い出し教室へ戻った。
俺は謎は残ったがいつもと変わらぬ日常へ戻ることを選んだ。少なくとも、次の事件が起きるまでは、かつてと同じ日常を過ごしている。
作者が中学生のときに考えたおはなしをもとに作られています。