謎の少女
──午後四時、秋の部屋。大きめの本棚とベッドが場所を占領する、世辞にも広いとは言えぬ部屋で、秋が、他三人の視線を集めて、窓の外に指を指す。
──そこにあったのは。
漆黒の雲が一部の空を覆い、雨や雪や雷や、おおよそ有り得ない火の玉を降らすといった、理解不能な天変地異。しかもさっきまで雨が降っていたその周辺は、雲一つない快晴に変わっていた。
「ちょ、何よあれ。どうなってるの?」
「しかも、このことに誰も気づいてないよー」
「理解……不能……」
「おい! あれ!」
さらに目を凝らして、その現象を観察していた秋が、そこで確かに見たのは、人間らしき、影。
──馬鹿な。あんなところに人が居られるわけが……。
否定を途中で止めたのは、そもそも今見えている現象を否定できないと悟ったから。
強い稲光が、目視できるほどゆっくりと落ちたかと思うと、刹那、けたたましい衝撃音が鼓膜を貫く。
あまりの音に、反射的に耳を押さえ、怯えるように目を閉じる。
静寂の間の中、再び目を開けると、先の人影が、電撃の中を落下していった。
それでもなお、下を歩く人たちは表情一つ変えない。
まるで、干渉出来ない別次元にでも、いるかのようで。
「俺ちょっと行ってみる!」
「ちょっと! 秋!」
楽しそうに笑い、少しも振り返る様子のない秋。その秋の頭の中で、自身を呼ぶ夏の声が、ノイズ交じりに残響した。
部屋のドアも、家の扉も派手にぶち開けて、全力疾走を始めた秋を、数瞬遅れて追いかけた夏たち。すぐに追いついて。
「私たちも行くよー秋ぃー」
「何があっても知らねぇからな」
足を止めずに、首だけで後ろを振り返った。
自己責任の確認だけをして、再び前を向く。抑えられない好奇心に、身を委ねて。
家を出るとすぐに行き止まりにぶつかる。通学でいつも通る道だ。冷静に上を見ながら、最短だろうとそこを右に曲がった。
長めの路地の先、自動販売機を目印として、道が大きく交差する。
コンクリートに書かれた白い止まれの文字の上で一回立ち止まって、再び真っ直ぐ走った。
苦しくなる心臓と、上がる息を感じながらも、夕焼け空のその先へ。
途中何度も、すれ違い人たちに目を向けた秋だったが、誰一人として、困惑の表情をする者も、上を見上げる者さえいなかった。
──何故、誰も気づかないのか。
その答えは、あそこにしかない。
必死の走りの中、やっと秋たちの頬に小雨が落ちた時、そこから見えたのは。
道の真ん中に横たわりながらも、されど誰にも干渉されない、謎の少女。
あの天気同様、まるで秋たち以外には、見えていないかのようで。
──やっぱりいたんだ。
疑っていたはずなのに、思った言葉は、「やはり」だった。
もうすでに真上の空は暗黒に染まっていた。
少女の姿もだいぶはっきり見えてくる所まで来た時、走るのを止め、荒れた息を整えながら歩いた。
痛むみぞおちを押さえながら、顔を歪める。
少女の隣まで来ると、空からは何も降っては来なくなった。
「秋、その子……」
ほぼ同時に着いた夏たち。最初に口を開いたのは、夏だった。
「あぁ……ゲームの中みたいだな。ちょっと面白くなってきた」
小さく笑う秋。膝を曲げてしゃがみこみ、小柄な少女を見つめる。
「この描写じゃロリコンみたいだよぉー秋ぃー」
「誰がロリコンだ! いいからよく見ろ!」
秋が抱き上げた少女の特徴は──
ゲームのキャラのような淡いピンク色のショートヘアー。
頭の先から生える小さな二つの角。
愛らしい容姿と小柄な身体。
茶色い布で出来たみすぼらしいワンピース。
跡が残りそうなほどきつく締められた首輪。
──そういった類。
そう。見た目だけでも、地球人でないことは明々白々だった。




