裏の裏
秋を含めた四人には、いつも、決まった戦い方があった。
その戦い方とは、ここまでを見ても明らかである。
一に、ゲーム開始の宣言すら後回しにして、涼しい顔で伏線を張る。秋のそのスタイル。
二に、優れた観察眼と洞察力、また心理学者の父に習った人心掌握術を駆使して、相手を圧倒する。夏のそのスタイル。
三に、五歳にして十二ヶ国語を理解したとされる世界最高頭脳を用いて、ゲームの攻略法を編み出す。冬のそのスタイル。
四に、超能力を錯覚させるほどの完全無欠のマジックを取り入れた、天下無双のイカサマ。春のそのスタイル。
どのプレイスタイルが最強か。そんなものは分からない。ただ一つの事実は、夏は無敗であるということ。幾度のゲームで、千変万化の策を用いた三人に、夏だけがついぞ、負けなかったのだ。
ならば、今回もまた……。
そう思考してしまうのは、至極当然。
いや、さればこそ見たいのは、無敗の女王の墜落か。
このクラブ唯一の男が、──今こそその時なり。と杖を折られてなお笑い返す。
その笑みに映るは、幻想か現実か。虚構か真実か。
何も語られぬまま、三ターン目の幕が上がる。
三度動き出したタイマー。その直後。今度は秋が仕掛ける。
「なんで、張られた策が一つだと言い切れるんだ? 分かんないだろ」
「だって秋最弱じゃない。その秋が春ちゃんや冬にバレないで張れる策なんて一つが限界でしょう」
「秋……最弱……」
「そうだよぉー最弱ぅー」
「だからなんで俺だけ総攻撃なの!?」
──皆敵なのに、こういう時だけ一致団結か。
自分に向けられる憐みの視線を無視して、秋が続ける。
「だからさ、ここにいる全員に言うけど……なんで俺が最弱だって言い切れるの? 今までは手を抜いていただけかもとか、どうして考えられないの?」
ニヤリと歯を見せて、夏を真似るように語る秋だが。
「メリットがないからよ。今まで隠しておく必要も、今ここで本気を出す必要もないからよ」
古今東西、コピーが本物に勝った例は類をみない。
要するに、口の上手さで秋が夏に勝てる訳がなかった。
「そんなバカみたいな仮説よりー」
「バカみたいって……」
グサッと突き刺さった言葉という刃物が、秋の心を抉る。
「バカみたい……違う……」
「おお! さすが春ちゃん!」
しかし何も、──フォローするものがいない訳ではない。と、淡々とした言葉で。
「みたい……違う……ただの……バカ……」
「だからフォローになってないよ。もう許してぇぇ──」
抉られた傷口を春がさらに、広げる。
さすがは酸味好きと言ったところか。傷口に、塩というか……もはやレモンを搾っている。
「まぁーそれよりー次に言う季節決めたのぉー皆ぁー」
残り二十秒。冬が起死回生の一手に打って出る。それを理解したのか。全員が息を呑んで静まり返った。
しかし、さらに一歩先に思考が及んだのは……秋だけ。探りを入れた冬自身さえ、見えていなかったその先へ──。
──来た。冬のおかげだ。これならいけるかもしれない。
見つけた突破口。速まる鼓動。隠しきれない表情に、すぐ口が動く。
「じゃあさ、もう一度手を組むっていうのは、どうだ?」
セリフの意味を、咄嗟に理解したのは夏だった。だが瞬間、電撃のように二人の頭にも、秋の作戦が過る。その圧倒的な閃きが。
楽しそうに笑う秋を見て、夏が初めて、焦る。
──やばい。やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
崩れそうなポーカーフェイスの裏で、やってしまった自分のミスに気づく。そして動揺する。
──なぜもっと早く気づかなかったの! バカなの。余裕を見せてる場合じゃなかったんじゃない。
一度死んだ手だからと。勝手に除外した。もう二度と同じことをして来ないなどと、誰が決めたわけでもないのに。
──バカなことをした。
そう考える夏だが、しかし自分のしているさらなる愚行には気づいていない。
三ターン目もあと数秒という状況で、過去を悔やみ、次の手を考える時間を浪費するというあまりに目に余る愚行に。
それに気づけないことこそ、いつも冷静な夏が揺らいでいる、何よりの証明だった。
「さて、どうなるかな」
こちらの動揺を見透かしたような、ドヤ顔の秋を見て。
しかしその顔に何ら言い返せる言葉のない自分に腹を立てながら。
夏は歯を噛み締める。
「冬」
「夏」
「春」
「夏」
「「「……えっ?」」」




