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最善手

秋がタイマーを止めた刹那、全員が季節を口にする。ほぼ同時、しかしそれは図らずしも微量な差となり、結局は、テレビを背に座った春から右回りに、春夏秋冬の順で言葉を発した。



──このゲームには最善手がある。

そう、最初に気づいたのは、夏だった。

このゲームの最善手とは、自分のあだ名と同じ季節を言うことである。シンプルで当たり前だが、三ポイントも貰えるのだからそれ以上の行動はない。

しかし、秋の話を聞きながら夏は、さらに思考を巡らしていた。

──でもこれは、必勝法じゃないわ。

仮に誰かが他の誰かの得点を阻止するために他の季節を言ったとしたら、阻止した者とされた者が得点出来ない。

しかし他二人は得点してしまう。

その差はすぐに挽回できないほどになるだろう。だから、誰も他の者の邪魔をしない。普通なら。

──大丈夫よ私、その答えは確かに正しいわ。

そろそろ一分という言葉に、一瞬心が乱れたが、それで攻め手を誤る夏ではない。

夏の言う通り、普通なら最善手を打つだろうが、それではゲームにならないのも事実である。

全員が三ポイントずつ手にするだけでは、負けもないが同時に勝ちもない。そんなつまらないことはないだろう。

それなればこそ、秋たちは先のコールに至ったのである。


「なるほど。やっぱりそう来るわけね」

「夏……強敵……」

「言うまでもなく、私たちの中で最強は夏だからぁー、わたしたちの中で最初に負けるのもまた、夏かなー」

「よく言うわよ。私に勝ったことないくせに」

「残念ー。今日という日のためにとっておいたんだよぉ夏ぅー」

夏が睨んだ視線の先には、不敵に笑う冬がいた。


──やってくれてるじゃないか。


夏は引き攣った笑みを浮かべて心で呟いた。

しかしそれは、まだまだ、余裕綽々を絵に描いたようなせせら笑いに冬には思えた。



そもそも秋を含めた春と冬の三人は、個人戦で夏に勝てたことが皆無だった。

運も必要になるゲームにおいて、一度たりとも負けたことがないというのは、つまり、圧倒的であって同じ次元に立っていないことを意味している。

それでも、全員で戦う団体戦では必ず勝ってきた訳ではない。三人が手を組んで夏を攻撃するような時は、流石に困ることもあった。

今のゲームのように。


先のコール時、夏が最善手を打ってくることを分かっていた秋たちは、最初から手を組んでいた。

このゲームは、相手への奉仕は認めていないが相手との共闘は認めている。

今、仮に冬のコールで冬だけが一ポイントを手にすることになっても、この後二回に渡って秋と春も一ポイントを手にすれば平等であり、奉仕にはならない。

一人が得点を得て他二人が夏の得点を阻止する。三ポイントにしていないのは裏切りの可能性を減らすためである。

と夏は秋たちの作戦を読んだのだが……。

──これが秋たちの作戦ね。でもこれって……。

「めんどいから、得点は各自で把握しろよ」

「そんなこと言ってぇー、ちゃんと覚えられるのぉ? 秋ぃー」

「いつもあなたはそうやって調子に乗るから、最後に皆についていけなくなるのよ。前回もそれで困ったのに、なんで学習できないの? 今回もまたいつもみたいに、着いてこられなくなっても知らないわよ?」

「いや、あの……だって……」

 左に座っている夏から正論で怒られて、秋の瞳には既に涙が溢れていた。

 テーブルの上に置かれたティッシュを何枚か取って、涙を拭う秋を見兼ねた冬が、夏に代わりに言い返す。

「そこまで言わなくたっていいじゃん夏ぅー。そりゃあ秋は、弱いし、雑魚いし、役立たずだけどぉ、秋だって生きてるんだからぁー」

「もう瀕死だよ! フォローになってないし!」

「秋……ただのしかばね……?」

「まだ生きてるから! 殺さないで春ちゃん!」


三人の種類別美女に集中砲火を浴びるという、これを読んでいるドM読者たちが羨む展開に秋がいる最中、作戦を把握してもなお残る疑問を抱えながら夏は、次のターンに言う季節をもう、決めていた。

ふざけ合っているだけに見えても、夏はいつでも、次のことを考えているのだった。



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