演技
目の前に置かれたカードを一斉に捲る。自分以外の誰にも見られないように警戒しながら、カードに目を通した秋。
そこに書いてあったのは。
──正直者。
声にも表情にも出すことなく。無難に確認を終えて。他の皆の反応を確認する秋。
目を鋭くして、まず見たのはもちろん王。
目が合った瞬間。全てを見透かしたような目をして、王が笑う。
「正直者じゃな? 顔に出ておるぞ」
配役と、顔に出してしまう間抜けさをかけた言い方。
ムカつくが、否定できないでいる秋。
自分の配役など、いつでも見れる。なのに、自身のカードを気にして、先に相手の反応を観察することが出来なかった。
明らかな失態。
王は最初から、秋を見ていた。
──失敗した。そう思いながらも、顔を繕って、適当な言葉で返そうとする。
だが──。
「あぁ。正直者だ」
言おうとしていない言葉が、勝手に口から出てきた。
さすがに驚きの表情を隠せないまま、サターンの方を向く秋に、王がまた笑う。
「なんじょう口が勝手に。そういう顔をしておるのぉ。言ったじゃろう正直者は嘘がつけぬと」
その発言に、今になって言葉の本当の意味を理解した秋。
だが、焦る心に蓋をして、数秒の沈黙。
先手を取られたことによる動揺の表情を修整し。
「なるほど。なら……マース! 王は正直者だと思うか?」
サターンから王に移した視線を、さらにアースに向け直して。
すぐさま攻めに転じる。
「正直者は、何かしらの力で、強制的に嘘がつけなくされているみたいね」
秋と王のやり取りを客観的に見ていた夏が、アースよりも先に口を開く。
座っている場所の距離から、わりと大きな声で話す秋たちの声は、夏たちに聞こえても、小声の夏たちの言葉は秋たちには届かない。
ヒントにならないからこそ、どんな発言も許されているようだ。
「強制的っていうのがーびっくりしたところかなー」
秋の表情の意味を分析する冬。夏と春が頷く。
「さて、冬ならどうやって嘘つきを探す?」
うーん。と悩む様子の冬。
おそらく、一発で嘘つきを見抜く魔法の言葉などは、彼女らをもってしてもないのだろう。
嘘つきは、嘘をつくこともつかないこともできる。
永遠に嘘をつかなければ、嘘つきだと見抜くことはまず出来ないと言えるが。
返答できないでいる冬に、笑顔で夏。
「答えにくい質問をするのが効果的ね」
ポンッと手を叩く冬。なるほど。と顔に書いてある。
夏の言う通り、嘘をつくかつかないか考えた上で発言している嘘つきは、どう返せばいいかわかりづらい質問になればなるほど、ボロを出しやすくなる。
そこを突けばいいのよ。とすました顔の夏。
「さすが夏ぅー」
そう言って夏を称賛しながらも、冬は気づいていた。
その作戦は、正しく今、秋が行った作戦にほかならないことに。
「んー。僕には分からないな」
言葉とは裏腹に、何故か得意気に返答するマースの。
その発言に、少なからず落ち込む様子の秋。
しかし王には、その秋の行動が、演技に見えてならなかった。
「じゃあジュピター、お前は正直者か?」
皆の視線が、今度はジュピターに集まる。
その状況を待っていたように、ポーズを決めたジュピター。
「僕は、エリートさ」
どうやら話が通じていないようだ。
「いやだから、正直者か? って聞いてるんだけど」
イラッとする気持ちをどうにか押さえ込み。
次言ったらぶん殴ってやると決意しながら、秋が、もう一度だけ尋ねる。だが。
「僕は、エリートさ」
秋の優しさを無視して、違うポーズを決めたジュピターに。
「うおぉぉぉ。てめぇ会話する気ねぇならぶん殴ってやるぞコラァ」
激昴して拳を握りしめた秋。その表情はまさに、鬼の形相。
「まぁまぁ。ジュピターもそういう年頃なんだよ」
「どんな年頃だよ!」
必死に秋をなだめようとしたマースが、訳のわからないことを口にする。
その言動に、すぐさま言葉を返した秋だが、まだ怒りは収まらない様子。
「怒っちゃダメよぼーや。お姉さんが、いいことしてあ げ る か ら」
今度はヴィーナスが、横から口を挟む。
「うるせぇ! あいつだけはぶん殴ってやるんだ!」
「分かったわ僕ぅー。お姉さんのスリーサイズが知りたいのね?」
「言ってねぇよ!」
「でも残念ね。スリーサイズは、ひ み つ なのよ」
「人の話を聞けよおぉぉぉ」
なんの躊躇いもなく火に油を注いでいくヴィーナスの行動のせいで、秋の怒りはさらにひどくなっていく。
「秋様。ジュピターたちも悪気はありませんので」
「悪意の塊だろうが!」
真面目なサターンの声も、今の秋の耳にはあまり届いていない。
「悪気はないんだって。ほら、そういう季節だからさ」
「お前はちょっと黙ってろ!」
またしても意味不明な言葉をかけるマースに。秋が怒鳴る。
どう見ても、もうどうにも止まらない様子の秋を見て。
だが、ずっと黙っていた王が言う。
「ほおっておけ。どうせ演技じゃ」
ピクッと反応して、さっきまでの怒りは何処へやら。
王に向き直り、へらへらと秋が返す。
「なんだよ……いつから気づいていた」
「怒り出した辺りじゃな」
見破られていた。この程度ではダメということか。
秋にとって、バレることは想定内であったが、バレていた演技ほど恥ずかしいものがあるだろうか。と、今さら少し死にたくなる。
想定外だったのは精神面だった。
──なんだろう。この中学の卒業文集を読まれたような気持ちは。
そんなことを思いながらも、気を取り直して。
演技に気づくだけでなく、最後の質問の罠にさえ、微塵も表情を変えなかった王。
──やはり、かなりの強敵ということか。
内心悔しさが募る秋だが、顔には出さない。




