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嘘つき

「では、ルール説明といこうかのぉ」

企みを含んだ声で、王が続ける。

腰の辺りに手をやったかと思うと、徐ろに、回転式拳銃いわゆるリボルバーを二つ取り出して。

「ゲームにはこれを使う」

机の上を滑らせて、一つを秋に渡した王は。

見るのも触れるのも初めての代物に、だが落ち着いた様子でそれを手にした秋を見て。

「このゲームは嘘つきを撃ち殺すゲームじゃ」

 笑って狂気を口にする。

だが秋、拳銃を出した瞬間には予想していたのだろう。机の上の拳銃を拾って。王を狙う。


──重い。

初めて持った拳銃は、想像していたよりもずっしりと重く。

両手でないと狙いが定まらない。

秋の動揺を見て。王は笑って、さらに続ける。


「はっは。銃を扱うのは初めてか小童。ポーカーフェイスが崩れておるぞ。まぁそう急くな。まだまだ説明中じゃろう」

顔をしかめながらも、言われたとおり銃を下ろす秋に対して。

よろしい。と、説明に戻ろうとした王。それを先回りして。

「だいたいは把握した。要するに、俺とあんた以外もゲームに参加するんだろ?」

あまりに容易く。

まだ説明の初期段階でありながら、たった二三口にしただけで、ゲームのルールをほぼ理解したという秋の笑顔に。

そして、もう既に、先を見据えていると語るその瞳に。

やっと認識を改めるように、王が。口を開いたまましばし固まり、感心する。

「流石じゃのぉ。よし、入って参れ」


機械的な足音が、少しずつ近づいてくる。

その音が秋たちのいる書斎の中心で止まった時。

夏たちを含めた全員が、やって来た者に目をやった。

皆、違う顔と違う服装の。

やって来たのは五体のロボット。


「やぁ! 僕の名前はマース! ゲーム用第一ロボットだよー。趣味はボーリングとカラオケ! 只今彼女募集中!」

長髪茶髪の耳にピアスをつけたロボット、マースの自己紹介に。

──なんかチャラいのが来た。と秋が思った時、次のロボットが紹介を始める。

「アース。造られてから二年です。ひぃーごめんなさいごめんなさいごめんなさい。壊さないでください」

黒髪黒目の小柄なロボット、アースが、隣のロボットに触れられて、泣きながら自己紹介をする。

──今度はずいぶんと暗い奴が出てきたな。と引き攣った顔を見せる秋。

さらに紹介は続く。

「僕は超エリートロボットのジュピターさ。君たちみたいな下民が僕と同じ空気を吸えているのを幸運に思うがいいさ」

「あ、俺こいつ嫌いだ」

派手な白スーツを着た七三分けのロボットのウザさ満点の紹介に秋が思わずそう口にして。

場は一瞬硬直したものの、まだまだ個性豊かなロボットたちは止まらない。

「私の名前はヴィーナス。麗しき女性ロボットよ。あーそこのあなたー今私のこと、エロい目で見 て たでしょ」

指をくるくる回しながら秋に近づく、胸だけを隠すような上着と下はショートパンツといった服装のヴィーナスを。

ゴミを見るような目をして秋。重たいため息を吐く。

そして最後。

「今回、審判を務めさせていただきます。サターンと申します」

かしこまった様子で頭を下げる、黒髪に黒いスーツ姿のサターンに。

──まともな奴もいるのか。と安心した秋。

黙って見ていた王がゲーム説明に戻る。


「以上、四体と審判一体を加えてゲームを行うわけじゃ」

「もっとまともなロボットはいなかったのか?」

ロボットたちを指差して王に聞く秋に。キョトンとした顔でロボットたち。

「言われてるぜお前たち!」

「言われてますよ皆さん」

「下民ロボットたちが失礼を」

「私のことじゃないでしょうね? ぼくちゃーん?」

──なんとも面倒くさいロボットを造ったものだ。

「全員だよ全員……」

可哀想なものを見る哀れみの目をした秋に。

「うむ。それはすまなんだ」

流石の王も、自身の失態を恥じるように謝罪を口にした。


その後、その言葉を仕切りにして真剣な表情に戻った王が、音を出して手を二度叩く。

それが合図だったように。

先まで好き勝手にしていた五体のロボットたちが、明らかに態度を変え、規則正しく動き始める。

秋の左右にはアースとジュピターが。

王の横には左にヴィーナス、右にマースが。

それぞれ腰掛け。

サターンは、正対する六人の中間、真ん中に置かれた机の隣に立った。


「これより、説明を変わらせていただきます。秋様、よろしいでしょうか」

確認する必要も反対する理由もない。といった顔で秋が頷く。

それを待って、サターンが説明を始めた。

「秋様のおっしゃる通り、この嘘つきゲームは、席についてもらいました六名の皆様でやってもらいます。なお、今回は秋様と王様の一騎討ちということであり、チーム戦ではないので、席の配置に特に意味はありません」

ルール説明を聞きながら、訝しげに顔をしかめる秋に。

その表情の意味を理解して王が。

「安心せい。ゲーム説明に戯言を交ぜては、前提が成り立たぬわ」

そう口にする。


──サターンの説明をどこまで信じていい。

──結局は王の手先と言える代物。

──信頼は出来ない。


頭の中を埋め尽くしていた、疑心と不信の言葉たち。

それらが、王の断言で消えていく。

信じた訳ではない。

だが確かに、そこを侵してしまっては前提が成り立たないというのは、真っ当な事実。

ならば悩むだけ無駄というもの。

「まぁ、そうだな」

「そうじゃろ? 主じゃあるまいし」

王の言葉を受け入れ、サターンに続きを促した秋に。

続けて言葉を発したのは、王。

「!?…………」

寸秒前まで落ち着き払っていた秋が、目を見開き、声も出せず硬直する。

王は──気づいていたのだ。

秋のやり口を暴いていたからこその──今の発言。


負けるかもしれない。

夏たち以外に初めて感じる、敗色の気配に。

頭を過る新たな不安に。

呑み込まれそうになる中、それでも必死に。

離れた場所に座る、負けられない理由を横目で見て。

気を落ち着けた秋は、再び笑って口にした。

「……なんのことだか、さっぱり」

その動揺のない笑顔に、王は苛立ちの表情をして、一言。

「続きじゃ」


ビクッとロボットたちが反応して、サターンだけが口を開く。

「もうお分かりかと思いますが、この六名の内一名に嘘つき役をしていただきます。その他五名は、正直者です。王様と秋様には、この中誰が嘘つきなのかを暴いていただくと、そういったゲームでございます」

大筋はわかっている。問題は細かいルールだ。

内心、ルールの予想と相手の戦略とそれを看破する策を思い巡らせ、秋は目を閉じる。

数秒後、再び目を開いて秋。

「いくつか質問がある」

「どうぞ」

当然だな。と頷く王とほぼ同時に。すんなり応じるサターン。


「まず一つ。先の王の言葉とサターンの説明を合わせて考えると、暴いた嘘つきを撃ち殺せばいいんだろ?」

「はい。その通りでございます。そちらの銃にはそれぞれに弾が一発ずつ入っておりますので」

丁寧に頷くサターン。

弾は一発……ワンチャンスと言うわけか。

やりづらいルールだと感じながら、秋の確認は続く。


「嘘つきはどうやって見つければいい」

「特徴がございます。正直者はどんな質問にも正直に答えますが、嘘つきは、嘘をつくことができます」

ふむ……なるほど。

その特徴をどう上手く料理するかは、力量次第といったところか。

サターンの返答に、密かに笑う秋の顔を王は見逃さなかった。


「自分が嘘つきだった場合は?」

いいところに気が回る。という顔でサターン。

「その場合は、先に撃ち殺した方の勝ちというルールは適応されません。例えば秋様が嘘つきだった場合は、王様に撃ち殺されなければ勝利。撃ち殺されれば敗北。というシンプルなものになります」

書斎の天井を仰ぎながら、予想を修整する秋。

自身が嘘つきだった場合。

先に嘘つきを撃った方が勝ちというルールのままだと、自殺して勝つことができる。

そう秋は考えていた。

そして、そのやり方を王に使われたら、まず勝てないだろうとも考えていた。

だが、どうやら王は、その程度で終わらせるつもりはないらしい。

予想を外され、舌打ちをする秋。


「もう少し聞くぞ。撃ち殺した後はどうなる」

「嘘つきであれ正直者であれ、誰かが撃ち殺された場合、一度ゲームを中断します。そこで結果を発表し、間違っていればゲーム続行。合っていればゲーム終了でございます」

「聞きたいのは、その後だ」

あぁ。と納得した顔でサターン。

「ゲーム終了時にはゲーム・・・参加者・・・に与えられた危害の全てが元通りになりますので、どうぞ気軽にお楽しみくださいませ」

気軽に、は無理として。

だが全てが元通りならばやりやすくはある。


「勝利条件は?」

「嘘つきを撃ち殺す。嘘つきとバレずに相手に誤発させる。敗北を宣言させる。不正行為を暴く。この四つでございます」

前の質問と違い、あまりに予想通りの回答に。

少し裏を感じながら。

「最後に一つ。ここまでの説明に一つでも嘘があったら負け。これも条件にしろ」

ふてぶてしい表情で言い放つ秋に。

一瞬ムッとした王だったが、すぐに、よろしい。と頷いてみせる。


秋の計略──そんなものより。

もはや待ちきれない雰囲気の王。

それを見て、秋がニヤリと笑う。

考えがまとまったらしき秋、ワクワクした様子で。

じゃあ──。と言い添えて、一言。

「嘘つきゲームを始めるとするか」

満を持して。嘘つきたちのゲームが始まる。


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