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嘘つきゲーム

「待って。待ってください」

静まり返る王室に、四季の懇願の声だけが木霊する。

「何? 俺の勝ちでしょ?」

その発言に、納得出来ないと食って下がる四季。立ち上がって。

「なんでですか? 一度出た花の復唱をしたら負け。なら、冷静を花言葉とする花は二つあります」

机を強く叩いて訴える四季に。

はぁ。とため息をついて。

「そっちじゃねぇ。それは囮。じゃあ聞くが、俺はツゲの花言葉を言ったつもりだけど、冷静を花言葉とする花もう一つって何?」

──知らない訳が無い。馬鹿にして。と。

怒鳴るように言う四季。

「ギボウシですよ!」

「その花もう絶滅しているよ」

──えっ?

と驚きを隠せない四季。

だが、脳は心とは裏腹に、正確に作動して。


──架空の花の花言葉を使ったら負け。


一度出た花を復唱する。は、このルールを隠すためのただの囮。

策を破ったと勘違いした四季が、調子に乗って、二度目の冷静を口にする。

それこそが本当の罠。

なによりすごいのは、囮の時に、ダウトをしていても、四季の負けだったということ。

結局、完全に掌の上で踊らされていたわけだ。

なるほど。

もはや悔しさも残らないほどの完敗を感じて。

倒れこむように椅子に座った四季を上から見て。

「お前は挑発されて、俺にやり返した。俺の罠に気づいた時点で、自分の方が上だと……自惚れた・・・・んだ」

笑いかける秋。その顔を見て、全てを悟るように目を閉じた四季。


これ以上かける言葉はない。と。

席を立ち、王の元へ歩いて近づく秋。

「さぁ、今度はお前の番だ」

眉間にシワを寄せ、憤怒の表情を見せる王。

王を指差して、偉そうにお前呼ばわりする無礼な秋に──。

──ではなく。

その後ろで不甲斐なく肩を落とす四季に。


「お前は、もういらん」

瞬間、誰もが理解した。

「待て! やめろおおおおお────っ!」

秋の怒号が反響する一瞬前、もう既に、王の手元から煙が上がっていた。

正確には、手元に握られた兵器から、硝煙が。

胸の辺りから取り出された、拳銃によく似たもの。

しかしその威力は、拳銃の比ではなく。消し飛んだ後方の景色は、まるで爆弾が落ちたよう。

秋たちは知る由もないが、それは、この世界の殺戮兵器だった。

そんなもので狙われて、そこに四季の姿がある訳もなく。

「てめぇ。自分の子供ガキだぞ」

後方を振り返り、跡形も無く消えている現場を見て、絞り出すように秋が言う。

「知っておる」

顔色一つ変えない王。

無表情に、無感動に、何の躊躇もなかったその行いに、珍しく本気でブチ切れた様子で秋。

「許さねえ」

「怖いのぉ。ゲームじゃよくあることじゃろ」

白々しく笑う王。夏たち三人も、許せないと表情が語っていた。

「場所を変えよう。ここでは次のゲームがやりづらいわい」

誰のせいかは一目瞭然だが。

ここでゲームを反故にされるわけにはいかない。と。

秋たちは仕方なくその申し出に従った。

ぞろぞろと足並みを揃えて、王、春と冬、そして夏と秋の順番で王室を後にする。


「ねぇ、聞いていいかしら?」

並んで一緒に部屋を出た秋に、隣から声をかけたのは夏。

怖いぐらいに神妙な面持ちで。

「なんだよ……」

張り詰めた空気が振動する。

渇いた喉から、秋は絞るように声を出した。

「ギボウシっていつ絶滅したの?」

責めるような物言いではない。だが、ジッと目を見て。

「…………」

珍しく真剣な夏の表情に、秋はなんとなく、その質問が来るのを予想していた。

だが、いやだからこそ、返せる言葉はそこにはなかった。


夏が聞くように──。

そう。秋はあの時、嘘をついた。

気付かれれば、死ぬかもしれないあの場面で。全身全霊をもって。

相手に毛ほども悟らせず、命すら賭した大博打に打って出ていたのだ。

それが、──ギボウシは絶滅した。というもの。

罠を仕掛け、それを囮に使って、さらに先に本命を張って勝った。と思わせてそれすらハッタリ。

劇的な勝利に見せて、本当の勝負は、勝利宣言の後に行われていたわけだ。


無論夏は、その勝ち方について文句などない。

ハッタリだろうと何だろうと、あの時四季が一言、「嘘をつくな」とそう言えていれば、逆転は有り得たのだから。

しかし、拭いきれない感情もある。

「あの最後で満足?」

そう言った夏の哀しい瞳に、自身の姿を覗いた秋。悔しそうに。

「んなわけ……ねぇだろ」

博打に出た秋に、四季が負けたのは紛れもない事実。

だが、逆に言えば。

命を賭けた博打を打たなければ勝てないところまで、四季は秋を追い詰めていた。

それほどの接戦でありながら。

その対戦を笑って振り返ることも、次の戦いを語り合うことも。

──もはや永遠に出来ぬのか。と、哀しい顔を下に向けて秋。

「もう一度……ちゃんとやりたかった……」

掠れる声で口にしたのは、言葉の形をした、想い。

相対した本人たちにしか分からない、ゲームを通して感じたもの。

ハラハラした時間の中で通じた、楽しいとか、面白いとか、そういった感情。

それら全てが。

殺される瞬間、何も出来なかった不甲斐ない自分への悔しさと共に、溢れたのだった。



──書斎。

基本的に、本を読んだり書き物をしたりする場合に使われる部屋。

机と椅子。書籍と本棚のみが備えられるのが一般的だが。

さすがは王の住む天空の城。

パソコンを始めとする、様々な電子機器が並べられていた。

そんな、そこらの市立図書館よりも圧倒的に広い書斎に連れてこられた秋たちは。

数十とある椅子の中から好きなものを選び、座らされていた。


秋と対になる位置に、またしても偉そうに腰掛けて。王。

「今度はわしがゲームを決めようぞ」

「待て! 一つ。掛け金を追加させろ」


真剣な表情。睨むように王を見て。秋が願い出る。

それに対して。

白色の長い髭を触りながら。

──ほう。と余裕の顔で対応する王。

腕に着けた豪華な装飾品が、揺れる度に音を上げる。

大きく開いた脚の間に、涅色の杖を立て。


「なんじゃ。言ってみい」

そう、威圧的に王が問う。

「俺が勝ったら、四季の墓を造り、その墓前に頭を下げろ」

ただの楽しいゲームだったはずが。

いつからか、人としての権利を賭けさせられ。

勝利してなお、後味の悪いことこの上ない。

「リルルはさっきまで敵だった者じゃろう。なんじょう怒れる」

腑に落ちないといった顔で秋を見て。王が問答する。

だが、その質問の方がずっと理解出来ないと言った顔で秋。

「敵だと? 違うな! 一緒にゲームで遊んだ友達だ。殺される理由なんか、何もなかった。だから俺はお前を許さねえ」

強く。はっきりと否定する。そのやり方全てを。


「かいくれ理解できんが。まぁわしが負けたら、謝罪じゃろうとしてやろうかの」

自信たっぷりに笑う王。

さっきの秋の戦いぶりを見ても、負けるはずがないと思っている、揺るぎない自信は、果たしてどこから来ているのか。

「てめぇに負けたら、次は夏たちが危ねぇ。だから俺は、負ける訳にはいかねぇ」

椅子から立ち上がって、机に手をつき、顔を近づけて、ガンを飛ばす。秋。

「痴れ言じゃな。なればなんじょう逃げぬ。失せた別儀にとらわれて、またも友を失うか。実以て愚かしい者よ」

秋の顔を見上げて、愚弄する王。

その王の胸ぐらを掴んで、同じ目線から。

「謝罪もさせる。友達も守る。どっちも手に入れる。それが勝つってことだ」

「ふん。やってみい」


思考の根本が違う。

それは、生物としての違い、生まれ育った環境の違い、故ではあるが。

仕方がないこととはとても言い難く。

秋の眼には、闘志が熱く燃えていた。



──花びら型のデザインをした枠の中から発せられた、幻想的なオレンジ色の光が、椅子と机、本棚と書籍を優しく包む書斎の中心。

そこに、夏と冬と春が、まとまって座っていた。

何をしているのか。問うまでもない。観戦する準備をしているのだ。

ゲーム部最弱でありながら、先の戦いで見事に四季に勝利し。覚悟と大切なものを背負い、今度はその牙を王へと向ける男──秋と。

たった一度の敗北も許さず、自身の子供である四季を自らの手で撃ち殺して。遂に対戦を受け、勝利の後で夏たちを手に入れようと目論む者──王の。

互いに負けられないゲームの行く末を。


一人用のソファーに座り、机を挟んで対面する秋と王。

その秋の後方に、人質状態の三人が集まる。

「さて、今度はゲーム内容をこっちが譲ってやる」


そう言った秋の表情に、さっきまでの怒りの色はない。あるのは、四季との時に見せていた、へらへらした笑い。

燃え盛る炎を胸に秘めて。

既に、ゲームに勝つ為の、油断を誘う笑顔を振りまいていた。

一瞬で、表情も感情も切り替えることができるのは。

紛れもない──天性の才能。

不覚にも、背筋に冷たいものを感じながら王。


「言わずとも、そのつもりぞ」

その言葉を聞いて、やけにニヤニヤと笑って秋。

「さぁ──何をやる?」

指を、パチンッと鳴らして尋ねる秋に。

「やるのは、嘘つきゲームじゃ」

王は、自信満々、傲岸不遜に言い放った。


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