冷静
四季が戻り、ゲームは再び、秋の手番からスタートされる。
テーブルの上には、持ってきた飲み物? とコップが二つ。
四季のは、ただの水のようだ。
夏たちの椅子の前にも円卓が置かれ、その上に、それぞれのものが乗っていた。
「よし。ちょうどいいから話題を変えるか。四季は、好きな男とかいないの? 仕返し」
へらへらと笑って秋。
その発言に、一瞬硬直してから、驚きのあまり、ぶふっと飲んでいた水を吹き出して四季。たじろぐ。
「ななな、なんですか急に。しとやか」
なんとか回答して、スイッチを押す四季。
なかなかに可愛い描写だ。
かかった水も気にせず、親指を立ててそんなことを思う秋。
完全にセクハラ変態野郎だが。本人に自覚はないようだった。
その光景を、不満気に見ていた夏たち三人。声を揃えて一言。
「「「役者だね」」」
春までもがはっきり言うとは。
女には、ぶりっ子がわかるセンサーがあるという。その力か。
それより問題は、四季が役者……つまり演技をしていることにある。
「仕返しなんて花言葉……あったかしら?」
「復讐ならーシロツメクサだよねー」
シロツメクサ。つまりはクローバーの花言葉には、復讐というものがあるが、それを言い換えて仕返しという言葉にしていいのだろうか。
冬の顔色から、心を読むように夏が言う。
「ダメよね。つまり今、秋はルールを破った」
夏の断言に、春も冬と一緒に夏の方を見る。
驚くのは当たり前だ。夏の断言が確かなら、今ダウトされれば秋は負けるのだから。
しかし、その思考すら読み取って、夏が続ける。
「春ちゃんと一緒よ。このゲームは、相当な自信がなければダウト出来ない。いえ、しない方がいい」
──あぁ。なるほど。とこくりと頷く二人。
そう。ダウトを失敗すれば、すぐさま負け。
ならば、こんな序盤でできる訳が無い。
──花言葉じゃないと気づいたとしても。
──確証がなければ。
「すごい賭けに出るねー秋ぃー」
まだ湯気が立っている珈琲を口にした冬の口から、感心の言葉が自然と出る。
それを聞いた夏が。タバスコを飲みながら、意味有りげに笑って。
「賭けに出てるのは、秋だけじゃないかもしれないわよ?」
──えっ? と冬から疑問の声が上がった。
やっと、持っていたハンカチで顔を拭いた秋。
放心していた時間は以外と長く、ブザーと同時に答える。
「えっと……片思い」
スイッチをタップして、手番は四季に。
「好きな人なんていませんよ。偽り」
口元を拭いて頭を下げる四季。照れ笑いをしながら回答する。
「そんなこと言ってー本当は俺のこと気になってるんでしょー凛々しさ」
「あ、それは絶対ないです。さ……寂しいよ」
笑ってセクハラする秋の、もしかしてだけどーという妄想を、絶対ないと強く否定して。
なにやら聞き慣れない花言葉を口にした四季。
明らかに何かを狙っている。
四季の回答後、僅かに、だが確かに、強ばった秋の表情。
刹那の顔色を、だがその場にいた百戦練磨の強者たちは皆、見逃さなかった。
しかしなおも、振られて落ち込む男を演じ続ける秋。
またしてもブザーと共に。
「要注意」
回答とタップの直後、演技をやめて不敵に笑った秋。
その顔を見て、四季は感じた。
その口から出た花言葉は、しりとりのためのものではなく。
本当の意味の忠告なのではないかと。
「ねぇー夏ぅーさっきのどういう意味なのー」
ゆさゆさと夏の身体を揺すって、駄々っ子のように尋ねる冬。
「わかったわよ。言うからやめなさい」
されるがままだった夏も、いい加減嫌になったのか。子供を叱る母のような口調で返した。
「そのままの意味よ。四季も色々と賭けに出て探っていたの」
その返答に、だがそれぐらいはわかると冬。怒った表情で。
「知ってるよー。英語で返してみたりぃー花言葉を微妙に変えてみたりー」
冬が言うように、四季も、どこからがルール違反なのかをその二つで探っていた。
先の、寂しいという花言葉に、よを付けた回答がそれにあたる。
「微妙に違うだけじゃ、反則とは言い張れないかもしれないから、あの時秋はダウトをしなかった。なんだ。わかってるじゃない」
えっへん。と腕を組んだ冬。しかしその後、下を向いて。
「分からないのはーそれをしてなんの意味があったのかなーってー」
「ふふふっ」
左右の人差し指をくっつけてもじもじと話す冬を、少し可愛く思って夏は笑った。
「その答えは、これから秋が、見せてくれるわよ」
静かに二人の会話を聞いていた春と。王様。
期待を含んだ明るい瞳と、苛立ちを込めた暗い瞳。
正反対の瞳で、二人はゲームの結末に目を向けた。
「その表情。そろそろ茶番は終わりですか? 祈り」
秋の考えを察して。受けて立つと四季も笑う。
「あぁ。茶番もなかなか面白かったけどな。凛とした美しさ」
淡々と続く。作戦が決まろうとも、早々に都合よく来て欲しい言葉が来るわけではないからだ。
言葉を限定して誘導して、少しずつ少しずつ、罠に誘う。強かに。
「私はつまらなかったです。さわやか」
──来た。
目をギラつかせ。コップに入ったはちみつを一気に飲み干す秋。
待っていましたと言わんばかりに。
「片思い」
回答の刹那、秋以外の者の時間が止まる。
それもそのはず。一度出た回答は禁止のはずのしりとりで。
片思いという回答は。
二度目。
カチッと手番が代わる音が、鮮明に耳に響く。
その音で時間は再び動き出し、四季は思考を巡らせる。
──どういうことよ。
今までの小手調べとは訳が違う。
これは確実なルール違反。
しかし。
──そんな訳が無い。
何かあるはず。そうよ。ダウトを失敗させて勝つ。それがこのゲームの常套手段じゃない。
秋の発言をフラッシュバックさせる。うるさいほどに、言葉を思い出す。
残り時間は三十秒を刻み。四季の貧乏ゆすりが加速する。
それを、歪んだ笑みで見ながら、秋が一言。
「結局お前は、ダウト出来ないチキンなんだよ。仕返しの時も出来なかったしな」
そうだ。と一度目の失敗が頭を過る。
挑発。頭では分かっている。だが。
刻々と進むカウントダウンが、判断を鈍らせる。
──同じ失敗はしない。と。
「ダウ……」
言いかけた言葉、開きかけた口を押さえて、四季は踏み止まった。
違うでしょ。思考を止めないで。
考えるの。考えて考えて考えて。
そこに、余裕と可愛らしさの表情はない。
脳を、焼き切れるほどに回転させて。
ゲーム中の全てを思い出して。
やっと四季は、秋の罠を見つける。
瞬間、表情に笑みが生まれた。
その時、四季の心にあったのは、秋への惜しみない称賛だった。
──こんなに前から、罠を張っていたのか。
そう。四季が気づいた秋の罠とは、ゲーム説明時にまで遡る。
その時の、ただ一言。
──一度出た花を復唱する。
この言葉が示していること。それは。
二度言ってはいけないのは、花言葉ではなく花自体だということ。
花言葉には、同じものがある。
結論から言えば、片思いを花言葉とする花は、シュウカイドウとペペロミアの二つがある。
つまり──。
「違う花の花言葉なら、同じ花言葉も使えるルール。確かに、一度出た花言葉を復唱してはいけないとは、言っていないですね」
──素晴らしい。と拍手して四季。
「続きと行きましょう。また茶番でもしますか? 一緒に踊って」
悔しそうに、歯を強く噛んで睨みつける秋。
怖い怖い。と笑う四季。
「すぐ次の手を考えるよ。またああいうデリカシーのないことを言うもの嫌だからな」
掲示板のカウントダウンを止め、手番を代えた秋を見て。
デリカシーが花言葉かと理解する四季。次の手を公言されている以上、慎重に。
「上手く返すものですね。私にはできませんよ? 女性的な愛情」
「知ってるよ。できないことぐらい。自惚れんな」
調子を取り戻したように、またも悪態をついて秋。
その言葉に、ピクリと反応して、四季が顔をしかめる。
だが、それに対しての仕返しに、いい方法を思いついたと。
満面の笑みで。
「私は至って、冷静ですよ」
冷静。
それは、先の秋と同じく、一度出た花言葉による回答。
ドヤ顔でやり返してやったと満足気の四季に。
にやぁと笑って秋。
「はい。ダウト」
あまりに呆気なく。
淡白に平然と。
正しく冷静に。
ゲームを終わらせた。




