ダウト
「さて、じゃあ一分スタートさせるぞ」
スイッチを押すと同時に、数字が減っていく。確認した後、四季に手を向けて秋。
──先行を譲ると。
「レディーファーストですか。まずは普通に、しりとりのりからですね。女の子ですから……理想の恋とかいかがですか?」
一瞬、父親の方を見た後、四季が可愛く笑った。
回答の後、掲示板のスイッチを二度押す。一度目でカウントが止まり、二度目でまた一分が表示され、また減っていく。
観察していた秋が、使い方を理解して頷く。
再び思考はしりとりへ。
──山茶花の花言葉か。と秋。
何の問題もない。普通に始まり、無難な一手目が打たれた。
「いんじゃねぇの? じゃあ、んー印象的な瞳、とか?」
四季の行動を真似て、二度タイマーを押す。カウントダウンが進む。
悩む素振りを見せる秋。その行為に、果たして意味はあるのかないのか。
思いついたものを単に言ってるだけのようで、策は既に張られているのか。張られているなら──いつ張ったのか。
全てを隠して、心を見透かされないようにへらへら笑っているだけの秋に。
だが四季は、油断などする気もないようで。
「みですか。未来への憧れ」
淡々と、続く花言葉を紡ぐ四季とは対照的に。
勝利以前にゲームを楽しみたい秋が、会話を始める。
「四季ってさ、何で花言葉なんか知ってるの? 冷静」
「一般教育ですよ。いつも美しい」
話に応じる四季。会話の最後に、花言葉を加えて。しれっと、しりとりの常套手段を使ってくる。
「またいかよ。一般教育? そもそも日本語を話せること自体、不思議だぞ。粋」
「英語も話せますよ? フリーライフ」
おちょくるように英語で返す四季。
その行動に、戸惑ったのか。あるいは作戦なのか。
減っていく数字を見ながら、何やら考える秋。
それは、ギリギリまで続き。ブザーが鳴ると同時に、回答。
「自由な……いや、気まま暮らしか。じゃあ、純潔」
スイッチをタップすると同時に、口角を上げて誘うように笑う秋。
だが、馬鹿にするなと四季。
ブザーと同時の回答も。濁点と半濁点は自由に取り外し可能というのも。
確かに説明していなかったが、しりとりではよくあることだ。
ここでダウトを宣言するはずがない。
「なるほど。そういうのもありですか。では、強い意志」
誘いに乗らず、四季はニコッと笑って返した。
「互いに笑いながら、実際は腹の中を探り合う。まるで女子中高生のイジメみたいね」
秋と四季のやりとりをここまで黙って見ていた夏が、楽しそうに笑って言う。
「夏ならぁーどう攻めるぅー?」
隣を見て、冬が問う。
「そうね……春ちゃんは?」
今後の為だろうか。
夏は少し考えてから、自身の考えより先に、春に話を振った。
「ダウト……しない……」
実に単純明快。作戦と呼ぶにはあまりに簡単な答えに、だが、同意見と夏だけが頷く。
そもそも、色々なやり方があるように見えるこのゲームだが、突き詰めれば、やれることは二つしかない。
ダウトをして勝つか。
ダウトをさせて勝つか。
「ダウトをして勝つのは、言うまでもないわ。問題はさせる方」
夏の言葉に、静かに首を縦に振る春と。傾げる冬。
それを見て、ため息混じりに、説明を続ける夏。
「相手に、ルール違反をしたと誤認させて、ダウトを失敗させる」
……あっ。と口を開けてやっと気づいた様子の冬。
それを見て。
「わかった? このしりとりの普通と最も違うところは──」
そう。花言葉しか使えないところではなく。どんなルール違反も、ダウトされなきゃ問題ないという点。
ふふふっ。と口元を隠して笑みを浮かべる夏。
「ほんと……面白いゲームね」
その笑いと言葉の意味を汲み取った二人、同時に頷く。
花言葉でしりとりをする。
それが普通のしりとりとの相違点だと、秋は強調していた。
そう。──バレないように。
だが、夏たちには簡単に気づかれた。
ならば、対戦相手にも。
「何か飲みますか?」
喉が渇いたからと、一旦タイマーを止めて席を立った四季。
その場にいる全員が、それぞれ答える。
「俺、はちみつ」
「私タバスコ」
「じゃあー珈琲」
「……レモン汁」
「わしはいらん」
──が、その返答のほとんどは、あまりにもお粗末に聞こえるもので。
「珈琲といらない以外に、まともなものがないのですが。まぁわかりました」
引き攣った顔で、四季は部屋を出ていった。




