クリーン星
太陽系第三惑星──地球。
青く美しい星であり、表面積の七割は水が占めている。
人類のような、知的生命体が唯一住まうことができる星とされていた。
もっと正確に言うなれば。
この星以外に生命はないと、そう思われていた。
そんな地球から、約二十光年離れた辺り。
コーティングと呼ばれる技術で透明にされた、クリーンという小さな星に。
人類が宇宙人と呼ぶ生き物が、ざっと二百億ほど暮らしていた。
宇宙人と言えば大抵は、目ばかりが大きく手足が異様に長く細い、髪も生えておらず背の低い、そういった姿を想像するだろう。
だが、想像と現実の違いはあまりに大きかった。
というのもその宇宙人は、角を無くし髪の色さえ変えてしまえば、人間と全く遜色がない。
敢えて言うならば、皆とても若く──子供のように見える。
特殊な技術──簡単に言うならば瞬間移動を使って、四季の住むクリーンという星に移って来た秋たちは。
「なぁ四季っていくつなの?」
何故か、異惑星の壮大でファンタジーな光景より、四季の年齢を気にしていた。
「私は、五千と六百歳です」
「「「えぇぇぇ────!!」」」
若く見える見た目とは裏腹に、地球人では考えられないほどの寿命。
さすがの秋たちも、これには驚いたのか。春以外の三人が声を上げる。
そして、驚嘆した秋にドヤ顔で四季が。
「ふふっ。驚きましたか?」
そう振り返る。だが──。
「あぁ驚いた。五千六百歳……ちょうどとは」
「食いつくところはそこですか!?」
やはりというかなんというか。
ゲーム部員たちは今日も絶好調だ。
──時は少し遡って。まだ地球にいた頃。
ゲームが弱いなどという挑発を受けて、秋たちが黙っているはずもなく、早速ゲームをしよういう話になったのだが。
「じゃあとりあえず、私の住む星に来てください」
「あぁわかった」
唐突に、別の星に行こうと言い出す四季に、全く迷う気配のない秋。
そこでやっと、夏が常識モードに入る。
「ちょっと待ちなさい」
「ん? どした?」
「どうした? って。突然違う星に行こうなんて言われても、色々困るわよ。ねぇ?」
珍しく本気で困ってる様子の夏。
夜が近づき始めので、カーテンを閉めていた背後の冬に、同意を求めた。
「まぁー確かにぃー」
あまり考えていない様子の冬。
カーテンを閉めながら適当な返事をする。
「そうか? 幸い今は夏休みだし、四季が簡単にここに入れるなら、こっちだって簡単に四季の星にいけるはずだ。どうせワープとか出来るんだろ?」
きょとんとした顔で話を続けたかと思うと、秋は楽しそうに笑って四季を見つめる。そんな秋に──
「そんなものある訳……」
「はい。ありますよ」
──二人の少女が反応した。
「えっ? 本当にワープなんてあるの? というか秋は知ってたの?」
まともな反応を続ける夏。秋と四季を交互に見て話す。
暗くなったリビングに春が灯りを点けると共に、秋が言葉を返した。
「いや? 全然。でもゲームにはよくある展開じゃね?」
──このゲーム脳が!
そう言いたい思いを堪えて、夏は検討を始める。
確かに、旅行の規模が大き過ぎることを除けば、問題はさほどないかもしれない。
だんだんと考えを変え始めた夏の心を見透かすようにもう一言、秋が続けた。
「それにさ、異世界でゲームとか、めっちゃ楽しそうじゃん!!」
その笑顔を見て、夏は首を縦に振った。
──どうしようもないわね。
諦めて、優しい目で秋を見ながら、心で呟いた夏。
自由奔放、天衣無縫、不羈自由、融通無碍、自由闊達、縦横無尽。
それらの体現であるかのような秋の生き方を、一番知っていて、一番好きなのは、ゲーム部だから。
話に参加せず、携帯ゲームで遊んでいた二人。冬と春。やっと終わったかと携帯を閉じ、夏と顔を見合わせて。
「秋……仕方ない……」
「一緒に行ってあげるよー」
「異世界でも、どこへでも」
「よろしいですね。では」
──では。
四季の口からその言葉が出たことを秋たちが認識出来た時。
もうそこは地球ではなかった。
かつてアインシュタインは、とてつもない重力を発生させると時空が歪むと語った。
その空間の歪みこそがワープの根源にある。
しかし、時空を歪ませるほどの重力は、太陽の何千倍か何万倍か。
人間には想像すら許されることのない世界。
それをいとも容易く、利き手である右手を瞬時に差し出して。
──やってのけた。
人類の英知を嘲笑うかのように、右腕につけられた腕輪が輝くと同時、世界が変わった。
永い永い夢から覚めたような感覚に襲われる。
細めた目をゆっくりと開いても、ビルの類は一つも見えない。
見えるのは、自分たちが立っている氷の大地と、激しく燃え上がる遠くの島々。
空には、雲に類似するものはなく、だが先に地球で見たような、火の玉や雷といったものは降ってくる。そして何故か、赤い月のような天体の周りだけが妙に晴れていた。
聞こえるのは、雷鳴と吹雪による豪風音。
吹き飛ばされそうなほどの風と、あまりに近くの落雷は、想像以上に恐怖心を煽った。
まるで地獄絵図のようなその状況に。
だがなんの説明もなく、無表情に四季が一言。
「とりあえず城に向かいます。歩きで」
「「「はぁぁぁ────!?」」」
秋たちの叫び声は、雷鳴よりも彼方まで轟いた。




