混濁のデジャブ
昔からだ。私は子供の時からよく、変わらず同じ夢を見る。
どこかも分からない、何もない不思議なところに気づけば立っている。
そして、誰かの気配を感じて辺りを探しても誰もいない、といった結果に陥る。けれど、何もないはずのこの場所がどこか懐かしさを感じさせる。
そして、何かを忘れているようなということをこの場所で思い出す。
けれど、夢から覚めれば、何かを忘れているということを忘れている。けれど、そんなことに気づけない自分に嫌気が指す。
毎日同じ夢を見続けるのにその夢がどのような意味を持つのか未だに分からない。 時々思う、毎日見ているのはただの夢ではないのではないか、実は何かを暗示しているのではないかという違和感を抱いて、知らぬ間に違和感が薄れ、また違和感を憶える。記憶にはないのに、断片的に残っている。
つまり、デジャブということだ。
それが物ならばまだしも、もし人物ならば大変なことだ。
夢では懐かしさのに、現実では、全く思い出せない。私にとっては、とても大事な 「懐かしい」 ことのはずなのに。つまり、大事なことなのに思い出せずに悶えている気分だ。 私は、日に日に寂しさを憶えてくる。
誰か、または私にとって大事な物を忘れている、けれど、「何か」 であるはずのものがどういった存在か思い出せない。 なのに何故か、どうしてか、記憶の片隅にあって、もう少しで出かかるところで止まってしまう。
けれど、そういう場合ごくわずかなきっかけで記憶の片隅から溢れて出てくる、それだけで思い出せるのだ。私の場合は、「彼」 と悪ふざけで撮った動画だった。私は、ふざけた動画ひとつで夢と現実をさ迷った 「懐かしさ」 を思い出した。
懐かしいと感じた場所は、私の青春を 「彼」 と一緒に過ごした時代だった……。そして……
「彼」 を失った悲しみを思い出す。
私は幼い頃、「彼」 を事故で亡くしたという事実を忘れていた。
私は、大好きだった 「彼」 を亡くした悲しみから、逃げて記憶から外れていた。けれど、夢は断片的に憶えていた。
だから、思い出せた。
私は、「彼」 が亡くなってしまった現実を受け止められずにいたのだ。だから、無意識のうちに記憶から外れていた。
そして私は、「彼」の お墓に行くことを決意した。そして……
『ごめんなさい、私は、あなたを亡くした悲しみから、あなたがいなくなったということを記憶の片隅にしまっていたの。けどね、思い出せたの。だから、もう私は正直になるの。
あなたが亡くなってしまったのは今でも悲しい。
けれど、まずは、あなたのことを忘れてしまっていたことを謝るの、そして、もう、あなたの記憶は絶対に手放さない』
と 「彼」 に告げるために。