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私の竜はお腹が弱い  作者: チキンハート
9/10

前日

今日はいつもより早く目が覚めてしまった。隣のベッドにいるハンナは、まだ規則正しい寝息をたてている。

静かに窓を開け寮の二階にある部屋から芝生の上に着地するが、まだ外は暗く、朝の気配すら感じない。世界で自分だけが起きているのではないかと錯覚するほど静かだ。

寝られそうにないし、柔軟体操でもするか。


王立学院での一件から四日がたった。


ノエルに乗って帰ってきた時はとても清々しい気分だったが、一晩明けるとやっちまった感が半端なかった。


十二歳にしては小柄な王子が可愛くて思わず笑いかけてしまってからは、力が抜けて良い感じに敬語も使えて、私すごくね? っとか内心思ってたのに。

イアンのせいで私の出来る大人の女性イメージは跡形もなく吹き飛んでしまっただろう。


私が好き勝手やったお陰で副団長の爪はより短くなったらしいが、他の竜騎士達には概ね好意的に受け止められた。王立学院は多くの官僚を輩出していて、卒業生と治安や国防について揉める事も多いからだろう。


まぁ、なぜか筒抜けだった内容の「竜騎士の戦いってもんを見せてあげる」と言ったことに関しては「半人前がなに言ってやがる」と飛行しながらの戦闘など、竜騎士ならではの技術をこの四日間徹底的に叩き込まれたけど。今までの訓練って相当手を抜いてくれてたんだなぁ…超高速で地上すれすれを飛ぶノエルから何度吹っ飛ばされたか。竜騎士の身体って頑丈だ。


今日は一日休養して明日に備えろと言われたので、吹っ飛ばされる心配はない。あぁ、幸せ。

柔軟の最後に深呼吸をすると、芝生の上に仰向けに転がる。


『ノエル』


なんとなく呼んでみたが、気配は遠い。

まだ寝ている時間だし、気がつかないだろう。


「…暇だなぁ」


なんとなく目を閉じる。

眠くないと思っていたけど、少し冷たい芝生の感触が気持ち良くて、意識は深く沈んだ。



「…カノン、起きろ。なんでこんな所で寝てるんだ…カノン!」


全身の毛が逆立つ。身体が無意識に防衛反応を取り、気がつくと目の前に防護膜が展開され、四つん這い状態になっていた。


「なに!? 今のなに!?」

「やっと起きたか…」


目の前に呆れたように立っていたのはイザークだった。金色の髪が微妙に魔力を帯びて揺れている。


「イザーク、今とんでもないの使おうとしたでしょ!」まだ鳥肌が収まらない。

「いや、気のせいだ」

「んなわけあるか! 魔力漏れで髪ゆれてるし!」こちらを無視してイザークは歩きだしてしまう。「ちょっと待って!」急いで後を追い、横に並ぶ。


空を見ると、太陽はもうとっくに上がっていた。


「…あー、起こしてくれてありがとう。今何時?」

「八時。ハンナはもう海から帰ってきた」

「そうなの!? うわー、寝すぎた」

「それとノエルが勝手に食事に行こうとしててな、リルファが止めてる」

「ありがとうございます!」


リルファはイザークの契約竜だ。

綺麗な乳白色の鱗と鬣に、すみれ色の目をしている。


小走りにノエル達の所へ向かう。

姿が見えた。


『あはよう、リルファ。…え、これってどういう状況?』


ノエルの腰から上が地面に突き刺さっていた。


『遅い! 全く、この坊やったら私の尻尾をユングルみたいで美味しそうって言って噛みついてきたのよ! 信じられないわ!』グルルルと唸りながらリルファは怒鳴った。


念話が強くて少し頭が痛いが、仕方ない。ユングルはトカゲっぽい生き物だ。


『ごめん、ごめんなさい。うちのノエルがご迷惑を…尻尾は大丈夫?』

『こんな坊やに噛まれたくらいで傷つくような柔な鱗じゃないわ!』


リルファが尻尾を降り下ろすと、地響きがして地面が陥没した。


『だよね! そうだよね! 本当にごめんなさい!』

フンッと鼻をならすと、どこかしょんぼりしながらリルファは答える。

『分かればよろしい。イザーク、今日はのんびりしたいわ。良いかしら?』

『かまわないが…のんびりするなら鱗洗ってからにしないか?』

『え!? 良いの? ああイザーク、愛してるわ!』


リルファは鱗を洗ってもらうのが大好きだ。


「貸しだからな、今度訓練に付き合え」

イザークがそう言って歩きだした。


「次の日が空いてる時にした方が良いよ?」

にやりと挑戦的に笑って答えると、「おまえもな」と言ってイザークはリルファと一緒に洗い場の方へ消えた。



ノエルの発掘作業が終わり、説教タイムが始まった。


『ノエル、そこに座りなさい』

仁王立ちをしながら、リルファが開けた穴を埋めた辺りを指差す。


『…はい』

『背筋伸ばす!!』

『はいぃ!』


ノエルがきちんと座った事を確認してから話しをする。


『あのね、年上の女性をユングルに例えて噛みつくとか、ありえないんだけど? 可哀想に、相当落ち込んでたわよ。後でちゃんと謝りに行きなさいね。』

『でもユングルはきれいでおいしいから、ぼくだいすきなのに』

ノエルは身体の前に揃えた両手をワキワキさせながら答えた。


『…あんたの頭はユングルにそっくりよ』

『ほんとう!? やったぁ!』

『良かったわね。ただ、ユングルにそっくりって言われて喜ぶのはあんただけよ。リルファは嫌だったんだから、ちゃんと謝りに行きなさい』

『はーい』


返事が軽い。ちゃんとわかってんのかな…

なんで私が躾までしなきゃいけないんだか。


ひとつ咳払いをして、本題に入る。


『ノエル。ご飯はどうするつもりだったの?』


返事がない。

『ノーエールー』意識して低い声を出した。

『あのね! やまにね、…おいしいのなんかないかなっておもって』

『…ああ、そう。山。もう良いわ、山なら』


普段なら勝手に行こうとした時点で鉄拳制裁ものだけど、私も寝坊したし明日の事もあるし、どうでも良くなってきた。


ノエルは自分より下にいる私に上目遣いをするという高等技術を使いながら、聞いた。


『…おこってないの?』

『次やったら怒るわよ。あと、私が寝坊しちゃった時はちゃんと起こして』

『うん! わかった!』


尻尾がブンブン揺れている。

あまりにも嬉しそうにするからなんとなくムカついて、尻尾を踏んづけてやった。


『ノエル、明日は決戦! 精がつくもの狩りに行くわよ! お腹すいたー!』

『すんごくすいたー!!』

ノエルもグオォォンと雄叫びをあげる。


『あ、そうだ。帰って来たら全身洗うわよ』


声が一気に情けなくなった。

ノエルは鱗を洗われるのが大嫌いだ。


ありがとうございます!

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