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私の竜はお腹が弱い  作者: チキンハート
7/10

★王立学院の中庭で 前編

王太子殿下視点です。

今日の学院内は少し空気が違った。


放課後、私の護衛になる竜騎士が挨拶に来ることになっているからだ。


竜騎士は王都に拠点をもっているけれど、会うことは滅多にない。

任務は大きな軍を動かせない遠方の治安維持や災害時の救援活動などで、王都にいる時も広大な竜騎士団の敷地内にいて、何をしているかもよくわからない。ちゃんと見られるのは、建国記念日の編隊飛行くらいだ。


すごく楽しみだ。楽しみすぎて友人に話したら、学院中に話が広がってしまったのには驚いた。まぁ、極秘ってわけではないし良いかな。


面白かったのは先生方の反応だ。

わざわざ日時の確認に来たり、場所や段取りを決めたり。


(あんな堅物の歴史文学の先生までそわそわするなんてね)


今日の授業は、竜が出てくる歴史書の現代解釈についてだった。


そろそろ時間かな。

中庭まで迎えにいこう。



強く感じる気配と存在感に反して、竜は静かに降り立った。

濃紺に銀粉を混ぜたような輝く鱗と銀の鬣、紺の皮膜。深い色合いの中で爛々と輝く赤い目が印象的だ。


ゆっくりと竜を眺めていたら、竜の背から人影が降りてきた。


竜との相性が良いのだろう。

後ろで一つにまとめた腰までの長い髪と目が、竜と同じ色合いをしている。

女性にしては背が高い、私より頭一つ分は大きそうだ。


(立ち姿がきれいだな)


無駄がなく、戦う人なのだと感じる。


女性がこちらを見る。視線が合った。


赤い、宝石のような透明感を持った目は、人の顔に収まると人形のようで少し恐ろしかったが、にこりと笑った顔は悪戯っ子のようで、そんな思いはすぐに頭から消えた。



軽く挨拶を交わすと、後ろから巨大なテーブルと椅子を持った教師達とティーセットを持った食堂のおばさんが現れ、中庭での茶会の準備が整った。長方形をしたテーブルの短い面の端に座る。


「どうぞ、掛けてください」


私の対面に座るよう促す。


「は、失礼致します」


彼女…カノンは少し戸惑っているようだったが、声をかけるとすぐに席に着いた。

それはそうだろう。

まわりを囲む校舎から凝視される中での茶会というのは、なんとも落ち着かない。


「こんな所で申し訳ない、どうしても学院の皆があなた方と会いたいと言うものですから」


「いえ、お気になさらず。山賊に囲まれた時の事を思えば、可愛いものです。…この状態ですと、竜を残しては行けそうにありませんし」

そう言って、肩をすくめながら自分の斜め後ろにおとなしく座る竜を振り返った。

「ふふ、ありがとう。少し心が軽くなりました」


赤い目がちらりとテーブルの両側に立つ者達を見る。


「こちらの方々をご紹介いただいても?」

「ええ、もちろん。ではカノンから見て右手前から」


総勢十名の彼らは将来の側近候補だ。

学院の生徒から身分、性別、学年に関わらず優秀な者が集められている。


彼らは候補だからといって特に何かを課せられている訳ではないので、頻繁に顔を合わせる事はない。護衛をする上では知る必要性はあまりないが、先の事を考えると顔見知り程度にはなっておいてもらいたかった。


紹介を終えた者から席に着く。それぞれとにこやかに挨拶を終え、最後の一人の名前を聞いた所で、カノンが何かに気がついたような表情を浮かべた。


「ユーデルバークと申しますと、イアン殿は竜騎士団所属のイザーク・ユーデルバークのご親族でしょうか?」

「イアンで結構ですよ。…イザークはすぐ上の兄にあたります」

イアンはどこか不機嫌にそう答えた。


(イアンは彼が大嫌いだからね…)


彼らは学年はひとつ違うが、誕生日は二月しか違わない。

我が国では一夫多妻を認めてはいるが、私の両親達を含め上手く行った例は見たことがなかった。

そんな事情を知らないのだろう。

カノンは嬉しそうに話を続ける。


「イザークとは同期で、騎士学校からの長い付き合いなのですが、ご兄弟がいらしたとは存じず、失礼致しました。彼の契約竜にはもう会われましたか? とても綺麗な乳白色の鱗でーー」

「兄の話は結構です。それより、お聞きしたいことがります。殿下、よろしいですか?」

「ああ、かまわないよ。ーー失礼のないように」

「殿下の今後に関わる事ですので」


いったい何を聞くつもりなのか不安になるが、カノンの反応を見てどのような人間かを把握するには良い機会かもしれない。


人の素は怒りの感情の時に現れやすい。


カノンは話を遮られ少し驚いた顔をしていたが、居住まいを正し、口を開いた。


「なんなりとお聞きください。後ろ暗い事は何もありませんので」


では、とイアンが続ける。

「率直に申しますと、私としてはあなたの実力に疑問を抱いております。

騎士学校時代の成績を知人に聞きましたが、二百人中八十位というのは本当ですか?」

「本当です」

「隣国の王女殿下の護衛は国一番の剣の使い手と聞いています。今後護衛同士、公開の模擬戦を行う機会もあるでしょう。竜と契約したと言っても地力で劣るあなたが負けでもしたらどうなります? 竜騎士の実力が疑われ、周辺諸国の中で唯一竜騎士団を有する事で得てきた、抑止力が薄れてしまいます」

「…この度の出向命令は様々な事情を考慮した上で出されたものです。私の実力に関しても、上は問題なしと判断しておりますが?」

「私は生徒会長を務めております。騎士学校がどうかは存じませんが、学院には生徒会の自治がある程度認められているのですよ。さすがに国の決定を覆す事は出来ませんが、こちらで実力を測るくらいの自由は認められています」


イアンは一息つくと、忌々しげに言葉を吐いた。


「それに、以前からこの国の竜騎士というだけでありがたがる風習はおかしいと思っていましてね。私は自分の目で見た事以外信用しないようにしています。強い強いと言われていても、あなた方が戦っている所など、実際に見た事はありませんからね。…あいつの実力もどんなものなのか」


「では、目の前で実力を示せば良い訳ですね」カノンは淡々とした口調で言った。「方法はどうします? そちらで決めて頂いてかまいませんよ」

「外部の人間を入れる訳には行きませんからね。竜なしで私の護衛と模擬戦を行ってもらいます」


「護衛の数は何名ですか?」


「なにを言っているのですか、一人に決まっているでしょう。一体多数などして後からそれを理由にケチを付けられてはたまりませんからね」


少し不自然な程間が空いた。

イアンがなにか言おうと口を開くが、カノンの笑い声に遮られる。


「…はっ、ふ、あはは、一人? 竜騎士相手に?」


しばらく笑いが抑えられないように顔をうつむけて肩を振るわせていたが、

すっと顔をあげ、イアンを見る。


空気が、震えた。


ありがとうございましたー!

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