ブリトリア国王剣技祭り 後編
気分はぬっへほー。
俺、レオン・エイブラハムは、小さい頃は、よくエリックと剣の練習をさせられた。
ただ親同士の交流が深かったからそういう機会がたくさんあっただけだ。
だけど、ただの一度も勝てたことがなかった。
そうだ。今までずっとそうだった。
俺はエリック・ブラウンに勝てたことなんてただの一度もなかった。
そして、今、この試合でもレオン・エイブラハムは、エリックの方が一枚上であることを悟っていた。
さすが、エリック・ブラウン。
こいつの強さは化け物並みだ。
血を吐くほど努力をした。
手が豆だらけで向けるほど、何度も何度も戦った。
泣きながら、強くなりたくて、かっこいいヒーローになりたくてあがいていた。
そうして俺は強くなった。
神聖騎士団長の座を最年少で手に入れるほどの実力をつけた。
それでも、涼しげな顔をしたこのイケメンはいつだって俺の上を行く。
何で?俺の方が頑張ったのに。こんな才能を持っている奴には、所詮、叶わない運命だったのかよ。そんなの不公平じゃないか!
俺は……。どうせ僕は……。
あの頃から、結局のところ何も変わっていない気がした。
これはエリックが一番かっこいいヒーローで、ノエルがそいつのお姫様である物語である気がした。そうして僕はいつもただ二人のことを嫉妬しながら、羨ましそうに見ているだけのただの脇役。主役に何てなれない。
「レオン。頑張れ」
その時、ノエルのかわいらしい声が聞こえた。
僕はさ。……僕の中の君に憧れていた。
だけど、現実はなかなか上手くいかなくて。
諦めて、泣いて、諦めきれなくて、しがみついて。
夢を見ていた。
それは届きそうもない夢だったけれど。
それでも手を伸ばさずにはいられなかった。
俺はエリックの剣を力づくで、打ち返した。僅かにエリックがその威力に圧倒されてバランスを崩す。そこへさらに追い打ちをかける。けれども、エリックはそれすらもずば抜けた反射神経で受け止めた。
くそっ。やっぱり強い。
だけど、今の自分なら互角に戦える気がした。
俺たちは少し離れて呼吸を整え合った。
もちろん視線は相手の次の行動を読み取ろうと休めさせたりしない。
次の瞬間、エリックが信じられない行動に出た。
両手で剣を持っていたエリックが左手だけで剣を持った。
「まさか……お前……。手を、ケガをしていたのか?」
エリックは涼しげな顔を崩そうともしないで答えた。
「だから何だ?君なんて左手だけで勝てる」
エリックは右利きなのだ。いつからケガをしていたのかは知らない。
けれども、ケガをしていたことを悟らせないようにするために、俺の剣の威力に対抗するために両手で剣を持ちながら左手だけで操っていたのだ。だけど、そろそろケガをしていた右手が力尽きたのだろう。
バカ野郎。
俺は、何でこんな奴と自分が互角になれる気さえしていたのだろう。
背中さえ見えていない状況だったじゃないか。
ああ、こいつには一生敵わないな。
そんなエリックになりたかった。
右手で剣を支えらないエリックに勝ち目はない。
俺の剣はそんなに甘いものではない。
せめてもの情けとして手加減なしで僕は全てを終わらせた。
優勝者は、レオンだった。逃げるな、ノエル。
私は、震える足を必死に叱りつけお花をみながら待っていた。
落ち着かない心を抑えるために、深呼吸をした。もうすぐここにレオンがやってくるのだ。
「待った?」
「うわあ」
いきなりレオンに話しかけられてびっくりした。
しかし、もう覚悟はできている。
「さあ、レオン。好きなだけ私を殴りなさいよ」
「ノエル」
「約束でしょう。何でも好きなことをしていいって言ったから」
「じゃあ、遠慮なく」
遠慮しろよ……とツッコミをいれたいのを堪えて、ギュッと目をつぶった。
すると唇に温かいものが触れた。
えっ……。
どうして?
目を開けるとすぐ近くにレオンの顔があった。
レオンは私にキスをしていた。
20秒くらいしてから、ようやくレオンは離れた。
「ごちそうさま」
レオンは相変わらず無表情でそう呟いた。
「な、な、な、何でそんなことをするのよ」
「ノエルは何でしていいって言った」
「まあ……言ったけど……。ほら、私は大切な婚約者もいるし。それに……」
あなたは私のこと嫌いなはずじゃない。キスするなんておかしいわよ。
そう思ったけれど、テンパっていて上手く言葉にできなかった。
「生理的に気持ち悪かった?」
そう呟きレオンは首を傾げた。
ああ、そういうことか。レオンは、私に嫌がらせをしたかったのだ。キスという名の復讐をしたかっただけなのだ。
一人で勝手にドキドキしてバカみたいだ。
「し、知りません」
そう言って、私は赤い頬を隠すように逃げ出した。
なんて恥ずかしくなる嫌がらせなのだろうか。
エリックは、決して天才であるわけではなかった。
練習のやり過ぎで右手を痛めてしまったのだ。全治二週間と言われていたが、周りにばれたら出場停止させられるだろう。だから、必死にこのことを隠していたのだ。
俺なら左手だけでも優勝できる。威力で敵わないのならスピードで勝負すればいい。
お前らみたいに生易しい世界で生きていた人間とは違う。
誰よりも自分に厳しくし、他人を冷たく見ながら生きてきた。
けれど、計画が狂った。
優勝できなかったため、契約は破棄されノエルを手に入れることができない。
ルークとは同じ順位になってしまったためあいつをノエルから引き離すことができない。
ちくしょう。
ふと、窓から差し込んだ夕日に導かれるように窓へ近づいた。
そして、窓の外から見た光景に思わず凍り付いた。
レオンが、ノエルにキスをしている。
バラ色に染まる少女の頬。幸せそうな目をした少年。
心臓がナイフで刺されたように痛かった。
やめろ、今すぐそいつから離れろ。そいつは俺のものだ。
全身の血が沸騰したように熱かった。
自分がこんなくだらない人間であるとは思わなかった。
俺は……執着している。
嫉妬で気が狂いそうになっている。
これは、恋なのだろうか。
何年も認めることができなかった。
感情が全て駒だったのだから。
嫌悪も愛情も等しく押し殺していた。
けれども、もう何もかも押さえつけることができなくなった。
……恋かもしれない。
ものすごく遠回りしたけれども、ようやく認めることができた気がした。
ずっと君の存在が気に食わなかった。
けれども、それは……。
まあいい。
どちらにせよ、俺は何としても君を離さない。
読んでくださりありがとうございます(*^-^*)




