追想曲④
あの事件の次の日、俺は、桜ヶ丘 彰に郊外にある建物に連れて行かれた。
窓からは黄金色の日が彰を照らしていた。普段は茶色にしかみえない彰の髪の色が夕日に染まって金色に輝いて見えた。一枚の絵になるような光景だった。
太陽のように温かい彰の笑顔。けれども夕日のような色をした目が笑っていない。どこか寂しげな表情が彰をはかなげに見せた。
彰は薄く形のいい唇を開いて話し出した。
「由良を殺したのは、お前だろう?」
「何、おかしなことを言っているんですか。俺が、由良ちゃんを殺す理由なんてありませんよ」
「あるよ。だって、お前は、由良に惚れていただろう」
……やっぱり、こいつは気が付いていたか。
「だから、どうしたんですか。俺は、そんなことで人を殺したりしません」
すると、そんな俺のことをバカにするように彰は、笑った。
「知っているか?由良は、中学生の頃、イケメンでモテモテである僕の側にいたせいで苛められていた」
どうしてそんな話をここでするのだろうか?
「僕は、苛められている由良に録音機を持たせた。いざとなったら、そのボタンを押せと。そうすれば、それを証拠として由良を苛めた子を退学にすることも、弱みとして脅迫することもできるから」
子犬のように純粋そうに由良に話しかけている彰の素顔はゾッとするくらい恐ろしく歪んだものだった。
彰は、いつも由良のカバンについていたストラップを持っていた。そして、そのボタンを押した。
「バイバイ、由良」
その声が響き渡った。
録音機を指でもてあそんでいる様子がゾクゾクするほど怖かった。
「由良を殺したのは、お前だよね」
太陽のように明るい笑顔で告げた。はちみつ色の瞳が自分を捕えていることが怖かった。
彰は、一歩ずつ俺に近づいてくる。
俺にはそれが死神の足音に見えた。
「よくも由良を殺したな」
彼は、思いっきり俺の腹を蹴り飛ばした。
「ゴホッ」
俺は、血を吐きながら倒れた。
さらに、蹴ろうと俺に近づいてくる。
小学2年生と高校生じゃ勝ち目なんてない。
彰は、10回くらい本気で蹴ってきた。由良を奪われた痛みや恨みを俺にぶつけているみたいだ。
骨が折れたかもしれない。体じゅうが痛くてたまらなかった。
そうして、飼育場にある豚でも見るように俺を見てきた。
夕日と琥珀の瞳が交じり合う。
「死ね」
そう言って、縄で首を絞められた。
「ううっ」
ああ、また死ぬのか。
思い出すのは、恋の残像。
青春の残光。
君の残香。
愛の残響。
言葉にすることができなかった想い。
君がくれた美しい世界。
魂が奪われる瞬間。
映画みたいな光景が頭を駆け巡る。
ここにあるのは、実らなかった初恋。
ここにいるのは、愚かな道化師。
綺麗に愛すことができず
愛されないまま死んでいく。
次が番外編のラストです。