化け物と呼ばれた少年
書きだしたら止まらなくなるのです。てへっ(*´ω`*)
カツン、カツン。
自信のある堂々とした足取り。
牢獄の廊下に革靴の音が響き渡る。
現れたのは、エリック・ブラウン。
牢屋でさえも、こいつの輝きは消えていない。
昼の空を写し取ったように綺麗な青が私を写している。
「待っていたわ」
「俺が来ると予想していたみたいな言い方だな」
「ええ、だってあなたもレオンに協力していたのでしょう」
「問題です。どうして俺がノエルを始めから助けなかったと思う?」
「私を脅迫して契約させるため」
「ハハハハハッ。君はなかなかおもしろいな。ああ、そうだ。
取引をしよう。俺は君をここから出してあげよう。
その代わり君は俺と結婚し、俺の言われた通りに動く駒となれ。
今までみたいに暴走することは許さない。ルークのことは諦めろ」
「ルークと私は愛し合っているのよ」
まあ、もちろん嘘だけど。
私は同情を誘おう作戦に切り替えることにした。
「大丈夫だ。愛なんてすぐに冷める。
君の心は俺のものにしてみせる」
「随分傲慢なのね、ひどい人」
「実際にルークは君への愛を覚めるはずだ。
今度のブリトリア国王剣技祭りで順位が低い方が君のことを諦めるという取引をしたからだ」
持てる手駒、地位、イベントを最大限に生かして自分が有利になるように展開していく。
この腹黒!天性の腹黒だ。だから、ルークはあんなに必死に筋トレをしていたのか。
姉である私のために頑張ってくれるなんてルークは家族思いのいい弟だなあ。
「忘れたのか?君は王族にピストルを向けた女だ。死刑にされてもおかしくない。
それを俺が見逃してやっている」
「そのことを暴露すれば、あなたは駒を失うことになるからでしょう。
いいわ。あなたの言うことを聞く。ただし、一つだけ条件があるの」
「何だ?」
「今度のブリトリア国王剣技祭りで優勝して欲しいの。
私、弱い男には興味がないわ」
「ああ、そんなことか。俺が、国一番剣が上手いのを忘れたのか?」
確かにあなたは強い。
でも、私はあなたよりも強くなった可能性を秘めた男を知っている。
私は、あなたの裏をかいてみせる。
おーほほほほほ。見ていなさい、この腹黒王子!
俺、レオン・エイブラハムは、呆然としていた。
ノエルは、あっさりと釈放された。
ノエルを逮捕するのに協力する様子さえみせていたエリックが裏切ったのだ。
さすがの俺も王族には勝てない。
あいつは……いつだって俺の上を行く男だ。エリックにとって俺こそ自分にとって都合のいいように物事を進める駒だったのだろう。
俺は、思わずカッとなってエリックのもとへ押しかけた。
「どうしてノエルを釈放した?お前は、ノエルなんて消えて欲しいと言っていただろう」
俺は知っている。
こいつは昔からつきまとってくるノエルを鬱陶しそうに見ていた。
俺がノエルを排除したところでいい厄介払いができたくらいに考えたはずだ。
どうしてお前があいつを助けるんだよ?
お前の周りにはいくらでも身分が高くて、かわいい女がいるじゃないか。
「あいつは俺のものだ。お前如きに渡したくない」
「エリック……まさか……お前はノエルに惚れているのか?」
ありえない。だってエリックはノエルのことがずっと嫌いだったはずじゃないか。
「……レオン。ノエルは家柄もいい便利な駒だ。
俺はあいつを好きなわけじゃない。あいつを駒として俺のものにしたいだけだ」
そんなことない。お前がそんな態度を取るなんておかしい。
気が付いていないのか?お前はノエルに……執着しているんだよ。
俺の心がどす黒く染まった。
俺は、何で今更嫉妬しているんだよ。
「ノエルは俺の駒だ。だから、彼女を傷つけたお前を許さない。
俺は次期国王として命じる。ノエルを傷つけようとしたお前を神聖騎士団長の座から下ろす」
……それは復讐するために生きていた俺にとっては、残酷は宣言だった。
今まで積み上げてきたものを失った。
復讐することもできなかった俺は一人でかつて気に入っていた崖にいた。
昔、ノエルに突き落とされた崖。月と星が辺りを照らしていた。
昔は、よくこの崖から飛び降りて死にたいって思っていたものだ。
とても暗くて地味で、ダメな少年だった。愛されることを望んでいた。
俺は……何となく飛び降りたい気分になって崖から下を見た。
下は真っ暗だった。俺の過去を表わしているように。
エリックになりたかった。
ノエルの王子様になりたかった。
だけど、俺はなれなかった。
夜空に輝く月には、届かなかったよ。
「ばかあああああ!あなたはどうして死のうとしているのよ。
人生はまだまだ長いのよ、死ぬ暇があったら幸せになりなさい!」
その時、鈴の音のように高めのかわいらしい声が聞こえた。
今死んだっていいと思えるくらい綺麗な声だ。
ノエルは相変わらず……いや、ますます綺麗になっていた。
月の光が彼女の髪の毛を揺らす。アメジストの瞳が俺だけを写している。
夜桜が風に吹かれてヒラヒラとダンスをする。
ここが世界で一番美しい場所。
そう思ってしまいそうなくらい綺麗な光景だった。
それがかつて俺に自殺を勧めた人間のセリフかよ……。
「別に死のうとしていたわけじゃない。お前は、復讐を失敗した俺を笑いにきたのか?」
「私はもうあなたを笑わない。もうあなたを傷つけないわ」
ノエルは、どこかの国の女王みたいに気高く、まっすぐに宣言する。
そんなことできるわけない。
君は存在しているだけで俺を苦しめるのだから。
「私がしてきたことはもう取り消せない。私のことを好きなだけ殴っていいわ。
あなたになら何をされてもかまわない」
そして戦争でもするかのように挑みかかるように俺を見てこう告げた。
「ただ一つだけお願いがあるの。私のためにブリトリア国王剣技祭りで優勝して欲しいの。
エリックに勝てる人は、あなたしかいない」
彼女の銀色の髪が風に弄ばれて揺れた。
その髪に触れたいとずっと思っていた。
「優勝したら何でもするわ」
ノエルが……俺に……何でもする。
何でもする。
少女は愛もくれるのだろうか?
これは、夢か……。自分を思いっきり殴ってみた。
……痛い。
「何をしているの?あなたはバカ?」
「いや、ちょっと実験してみただけだ」
間違いない。これはリアルだ。
「最後に言い忘れていたことがあったわ。レオンはかっこよくなったね」
そう言ってノエルは天使のようにはにかみながら笑った。
どうしてお前は僕の心をこんなに揺さぶる?
僕は君のことなんて大嫌いなのに……。
大嫌いだった……。
純粋だった恋心がいつの間にか黒く染まって大嫌いになった。
手に届かないから諦めました。
君を蔑むことでプライドを保ちました。
本当はまだ純粋も未練も残っていました。
なあ、ノエル。
僕はさ、ずっとかっこよくなりたかった。
そうして君の物語のヒーローになりたかった。
大嫌いなんて嘘だ。
好きだよ。
本当は好きだ。大好きだ。
プライドなんて捨てて君の足元にひざまずきたいと思えるくらい。
君が欲しい。
だから、勝つよ。
一か月が経った。
いよいよ様々な人々がそれぞれの思いを抱えたままブリトリア国王剣技祭りが開催される。
読んでくださりありがとうございます。
いつの日か素敵なエンディングへ行きたいな。