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少女の告白

 ノエルは、まっすぐ僕を見ながら聞いてきた。

「もしも、私が死んだらあなたはどうするの?」

そんなの決まっているじゃないか。

「僕も死ぬよ。あの時と同じように」

 もうあの痛みには耐えられない。

 あの絶望を思い出すだけでも、胸が痛んだ。

「あの時?」

「あの時、君が高坂 由良として死んだ時だ。

……僕は、桜ヶ丘 彰は、自殺した。誰よりも側にいて欲しかったのに、君は僕を置いて行った。僕は、誰とも感情一つとして分かち合うことができなかった」

 ノエルが大きく目を開いた。

 彼女の手が痙攣でも起こしたかのように震えている。

「あなたは、彰なの?」

「そうだよ。僕は、桜ヶ丘 彰として生きていた。

 そして生まれ変わってルークとなった」

「いつ思い出したの?」

「結婚式でレッドに殺されかけたとき」

 本当は、ノエルには言うつもりはなかった。

 桜ヶ丘 彰は、高坂 由良を傷つけ嫌われた。

 だから、僕が彰だったことを打ち明けても、ノエルから更に嫌われるだけだと思っていた。都合の悪い真実は死ぬまで隠して自分を少しでもよく見せようとしていたくせに、結局何もかも台無しにしてしまった。本当に卑怯で、無様で、かっこ悪くて、腐った人間だ。

 ここまで嫌われてしまったなら、信用も地に落ちてしまったなら、このことを言っても別に構わないだろう。恨まれ、憎まれ、罵られているだろうな。

 だけど。

 ノエルは、夜空に浮かぶ月のように笑った。

 淡く、悲しそうで、泣きそうで、綺麗な笑顔だった。

「彰。もう一度あなたに会いたかった」

 ああ、由良がいる。

 僕がもう一度会いたくて、会いたくて、会いたくてたまらなかった由良がいる。

 ずっと会いたかった人に、もう一度会うことができて。

 もう会えないと諦めていた願いが叶って

 心を蝕んでいた狂気が少しだけ洗われていく気がした。

 今度は、失う前に言葉にしたくて。

 閉じ込め、亡くしていた言葉を声にしていく。

「……ずっと、ずっと好きだった。

 好きで、好きで気が狂いそうだった。

 会えないから痛くてたまらなかった。

 君のいない世界は何もなかった」

 君が死んだ後、僕の全てが変わった。

 もう何もしたいことがない。

 誰も愛すことはできない。

 理想を思い出すことすらできない。

 全てが間違っている気がした。

 何を見ても、大してときめかず、感動もしない。

 ただ無意味で空虚な時間だけが流れた。

 どうやって生きればいいのかわからない。

 生きる意味すらも見失った。

 自分をけなす日々が続いた。

 ただのゴミのような時間だけが流れた。

 

 君が彗星のように現れ消えた後は、

 自分が歩いてきた道はひどく色あせて見えた。

 そんなものには、もう会えない。

 

 僕は、全てを捨てて逃げるべきじゃないだろうか。


 僕がこれから手にするものはとてもつまらないものばかりだ。

 

 暗闇をさまようように進み続けることはとても辛かった。


 だから、死にました。


 首をつって自殺しました。


 銀色の髪の毛が風になびく。

 そして、夜明け色の美しい瞳に何とも言えない悲しげな色を浮かべながら呟いた。

「あなたはかわいそうね」

 そして、ゆっくりと僕の方へ近づいて行った。


 ノエルは、僕にキスをした。

  

 少し触れただけで離れる優しいキスだった。  


「私は、あなたが好きだった」

 

 その言葉は過去形であり、現在形ではない。わかっている。ノエルが僕に恋をしているわけでもなく、ただ昔、言えなかった言葉を今、伝えただけだって。

 本当に遠い昔の感情だ。

 18年も前の話だ。

 だけど。

 この瞬間のために生きていたと思えるような

 言葉が欲しかった。

 本物じゃなくてもいい。

 嘘でも偽りでも、一時の感情でもいい。

 その一言が聞きたかった。

 何もいらなくていいと、愛されなくてもいいと見栄を張れるほど強くなれなかった。

 ずっとこの言葉を求めていた。

 かわいそうだった自分が救われていく。


 涙が頬を流れていく。


 ノエルも泣いていた。


 僕もせき止めていた壁が崩壊したように、涙が頬を流れ出した。


 あの時、たどり着きたかった未来にようやく来た。

 

 巡り巡り巡ってようやく会えた。 


 僕は何度でも君に恋をするだろう。


 僕は何度でも君に本気も情熱も魂を捧げるよ。


 君は僕の全てだから。 


 

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