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レオンの過去

 さあ、いよいよこの男について語りましょう♪

 小さい頃から苛められていた。

 理由は僕がとても醜かったからだ。

 低い身長。ギョロっとした腐った眼。濁った声。低い鼻。突き出た腹。ボサボサとした髪の毛。

 僕は自分が大嫌いだった。


 他人に嫌われていることが日常だった。

 通りかかればひそひそと噂され、騙され、奪われ、殴られる。

 僕は嫌われることに慣れていた。

 一人で生きることになれていた。

 他人と関わることを諦めていた。

 そんな時にノエルに出会った。

 

 友達のいない僕は一人で本を読んでいた。

 場所はお気に入りの崖の上。

 町全体が見渡せる素晴らしい場所だ。

 ここなら僕の悪口を言う人は誰もいない。世界に僕一人だけだと思えるような静かで美しい場所。

 日が沈みかけてそろそろ帰ろうと立ち上がった時のことだった。


「あなたが噂のレオンね」

 

 鈴の音を思わせるような美しい声が聞こえた。

 月の光を思わせるこの世のものとは思えないほど美しい銀色の髪。

 アメジストの瞳。

 まるで天使や女神みたいに美しい少女がいた。

 思わず息を飲んだ。

 魂が凍り付くくらい美しい少女。

 顔が赤くなった。心臓がドキドキした。

 僕は美しい少女に一目惚れした。

 けれども、彼女の性格は容姿に反比例するように最悪だった。

「うわあ。噂にたがわず醜いわね。こんなにひどい顔は初めて見た。

 まるでゾンビみたい」

 そう言ってバカにするように笑った。

「ねえ、あなた。崖から飛び降りてみて」

「え……。そ、そ、そ、そんなことしたら、ぼ、僕は死んでしまいます」

 僕はボソボソと呟くようにそう言った。

「別にあなたが死んだって誰も悲しまないでしょう。私、あなたみたいな醜く汚い人間が嫌いなの。だから消えて」

 そう言って彼女は僕を崖から突き落とした。


 それから何かと理由をつけてノエルは僕を苛めた。彼女はおもしろいおもちゃを見つけた子供だった。

 僕は……たぶん嬉しかった。

 もちろん僕には特殊な性癖なんてないから苛められることがうれしかったわけではない。

 彼女の楽しそうな笑顔を見られることがうれしくてたまらなかった。

 僕といて楽しそうにする人間なんて誰もいなかったから、役に立てている気がして嬉しかった。

 ……バカにされるたびにいつだって傷ついていたけれども。

 けれども、僕は自分の恋心が報われることがないことなんて最初から分かっていた。


 ノエルには、好きな人がいた。

 僕と違ってとても美しい少年だった。

 かわいらしくはねる黄金の髪の毛。青くて透き通るような美しい瞳。

 輝く太陽みたいに美しい王子様。

 僕は……僕の欲しい物を全て持っているそいつが大嫌いだった。

 同時に生まれ変わったらあんな風になりたいと思っていた。

 初めてそいつに会った時、ノエルが甘ったるい声でそいつに愛の言葉を囁く様子を見たとき僕はエリックに殺意を覚えるほどの嫉妬をした。

 どうせ僕は醜いよ。あんなイケメンに叶うはずない。僕の負けだ。

 ……僕なんて失敗作だ。 

 もしも、僕が……エリックみたいにかっこよかったらノエルに愛されたかな……。

 愛が欲しかった。

 優しくされたかった。

 ノエルのヒーローになりたかった。

 けれども、現実は残酷だ。

 どうせ僕はモブキャラにすらもなれない男だ。

 徐々に、コンプレックスが恋心を塗りつぶしていく。

 徐々に僕は手に入らないノエルを憎んでいくようになった。

 僕を醜いとバカにして、エリックを神のように褒め称える少女に嫌悪感が積もっていった。

 見た目が全てと豪語し、僕を選んでくれない少女が嫌いになって言った。

僕はノエルを愛すよりも憎むことを選んだ。

「エリックたら素敵。あなたみたいなブサイクと全然違う。さすがイケメン」

「あなたはブルドッグみたいだから、犬小屋がお似合いよ」

 もう優しさも、愛情も消えていた。

 僕をストレス発散の道具にして、イケメンのエリックを愛情の対象にする。

そのことがどうしても許せなかった。


 僕は彼女と別れてから笑わなくなった。泣かなくなった。

 自分の感情を殺していった。表情を殺した。

 毒舌で弱い自分を必死に隠した。

 復讐することだけを考えていた。

 自分の理想を裏切った少女が許せなかった。

 自分を見世物にし、見捨てた少女が憎かった。

 エリックを選び、僕を男とさえ認識してくれなかった少女が嫌いだった。

 あの身勝手で傲慢な少女から何もかも奪いたかった。

 僕は強くなった。

 毎日、血を吐くほど剣の腕を磨いていたから当たり前だ。

 そして七年たった今、僕はようやく復讐を遂げた。

 

 ふと彼女の言葉が蘇った。

 昔、ノエルは僕に聞いたことがあった。

「ねえ、レオン。あなたは私のことが好き?」

 そう言って彼女は月の女神を思わせるように優しく、美しく微笑んだ。

 小さな君は僕の天使だった。

 性格はゴミのように最悪だったけれども、僕の思い出の中でヒロインのように輝いていた。思い出の中の君はいつまでも色あせなかった。

 だけど、今は。

 僕は……。

いや、俺は……。

「大嫌いだよ」

 そう呟いた。


 読んでくださりありがとうございます(*^-^*)

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