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悲壮曲①

 少し、ノエルの前世の話となります。

 転生したということなので……まあ、前世のエンドは予想がつくと思います。

 さあ、物語をぶっ壊します。想像力の外側へようこそ。かなりぶっ飛んだ展開になりますがついてきてくれたら嬉しいです。ここでは、由良と彰が出てきますが、違う小説の由良と彰とは別人です。この名前には思い入れがあるので、どうしてもこの名前がいいと思いこの名前にしました。


 

 記憶を思い出すと同時に、記憶を失う前と同様に前世の記憶も思い出していった。


 前世では、私は、高坂 由良という少女だった。


 幼馴染に桜ヶ丘 彰というイケメンがいたが、カップルのような甘い雰囲気になったことはなかった。

 彰は、十人中十人が認めるくらいのイケメンである。茶色のサラサラと毀れるような長い髪の毛に、パッチリとした琥珀色の目。人形のように整っている顔立ちをしている。女の子に間違われそうなくらいかわいい顔立ちをしているが、たまに見せる本気の顔は誰にも負けないくらいかっこいい。

 彼は、昔から爽やかな顔をしながら、さらりとひどいことを言う嫌な奴だった。

 例えば、小学6年生の時にこんな会話をしたことがある。

「なあ、由良の将来の夢って何?」

「私は、数学の教師になりたい。中学や高校だと彰みたいに先生より頭のいい子がいてむかつきそうだから、小学校で教えようかな。でも小学生もわがままだし、幼稚園で数学を教えようかな」

「幼稚園では、……数学を教えない。算数すら教えない」

 バカにするように肩をすくめる彰。ああ、今すぐあなたを焼却炉に突っ込みたいわ。 

「死ね」

 ジトッと睨み付ける。

「でも、由良が教師……。めちゃくちゃ似あっている」

「本当にそう思っているの?」

 疑い深そうな様子でギロリと睨みながらそう聞いた。

「ああ、もちろんだよ。由良ならきっと日本一のドS教師になれるよ。絶対にぶっちぎりでトップだ」

 何、その歪んだほめ方……。

「彰は、将来のことなんて心配しなくていいのよ。きっとあなたに将来はないから」

「あはは。僕が早死にするみたいな言い方だな。僕はともかく自分の生徒に向かってそういうことを言わないように」


 高校生になっても変わらなかった。

 彰は、バスケ部に入り、勉強も学年トップでますますもてるようになったが、相変わらず私に対しての反応は変わらなかった。

 文化祭で一緒に花火を見たとき、私は彰にこう言った。

「花火が綺麗だね。あなたも花火と一緒に宇宙に打ち上げられてしまえばいいのに」

 みたいに私も彰に軽い口調で、ポンポンと暴言を吐きまくっていた。

 彰も相変わらず

「その時は一緒に宇宙に行こう」

 なんていうわけのわからない返事をしてきた。


 平凡でありふれた毎日。

 それをいつしかつまらなく思い始めて早く大人になることに憧れていた。

 あの日々を幸せだと気が付くことはなかった。

 そして。

 私は、高校2年生の夏に死んだ。

 

 私が死ぬ2週間ほど前のことである。


「由良ちゃん。おはよう」

歩きなれた通学路を歩いている時、かわいらしい声が聞こえた。 

「おはよう、一之瀬君」

 彼は、人懐っこい子犬のような笑顔を浮かべた。

 くしゃりとした黒の髪の毛に、キラキラとした純粋そうな瞳。天使みたいな美少年。

まあ、イケメンだけど私から見ればただの子供だ。

 彼は、近所に住む小学3年生だ。私の家に入ってしまったサッカーボールを取ることをきっかけに仲良くなった。この辺りでは評判の美少年で、おばさまがたのファンクラブまであるらしい。

「最近、桜ヶ丘さんは見かけませんね」

「ああ、あいつはもうすぐ試合だから、朝練とかで忙しいのよ。そういえば、あいつから、一之瀬君にはあまり関わるなって言われているのよね」

「どうしてですか?」

「私と一之瀬君が付き合いだすかもなんて言っているのよ」

「そうですか」

 なぜか彼は、弾むように嬉しい声を出した。

 なぜか目がキラキラしている。いいことでもあったのだろうか。

「8歳も年が離れているから、付き合うなんてありえないのにバカじゃないのって思う」

「……」

 一之瀬君も、言葉にしないけれど呆れているに違いない。

「いや、でも待ってください。

 世の中には10歳年が離れたカップルとかいるじゃないですか」

「いくらなんでも小学生と高校生は、付き合わないでしょう。名○偵コナンじゃあるまいし」

「……」

 いくら美少年とはいえ、付き合ったりしたら犯罪行為になりそうなくらい年が離れている。それに、透にとっては、私はおばさんみたいな感じなのだ。

「でも、俺は……十分、大きいですよ」

 言われてみれば、日に日にこいつの身長が伸びている気がする。

「ねえ、一之瀬君。あなたは、身長が何センチになった?」

「140㎝です」

「背が伸びたね」 

 年下のくせにそんなに背が高いなんてむかつくわ。

 この長い手足を斧で折ってしまえばどれほどすっきりするだろうか。

 ……この天使のような後輩相手に私は何て失礼なことを考えているのだろうか。

 私の言葉を聞いた透は、嬉しそうに目を輝かせた。

「ほ、本当ですか。俺は、由良ちゃんに近づけたんだ。嬉しい」

 ああ、ムカつくわ。一発ぶん殴りたい。

 そう考えてしまう私は、性格が悪いのだろう。


 学校につくと、見慣れた光景が始める。

 5時間目になるといよいよ集中力も途切れ、いつものように授業が早く終わって欲しいと祈りながら、先生の頭を睨み付けていた。

私の時間を奪うなんてひどい罪だ。こんな人間は、禿げてしまえ。私は、いつも彼の後ろ姿をみながらそう呪っていた。そして、ついにその先生は少しだけ禿げてしまっていた。

 べ、別に私のせいじゃないわよ。きっとたまたまそういう家系のもとに生まれたのよ。


 まもなく授業が終わり、私は手早く荷物をまとめて帰ることにした。

 第2教室を通りかかった時に、誰かが私の名前を話している声が聞こえた。

 悪口でも言っているのだろうか?

 甲高くでうるさい女の子達の声がした。

「彰君は由良ちゃんのことどう思っているの?あの子性格悪すぎるし、あんまりかわいくないし、わがままばかり言ってばかりじゃない」

「友達だっていないし」

「彰君にはもっといい子がふさわしいよ」

 彰は、私が聞いていることにも気がつかないでしゃべりだす。 

「確かに由良は嫌な女の子だ。性格が悪いし、かわいくもないし、誰かが死んで泣くような同情心もない。最低な人間だ。ある意味、かわいそうな奴かもしれない……」

その時、天使のように美しい栗林 マロンさんと目があった。通称、学校一の美少女。学園の王女様。こげ茶の髪を緩く巻いている。薄化粧をしているだけなのに、全体的に華やかな印象になっていた。まるでフランス人形のように綺麗な子だ。

 私は、自分がやけにみすぼらしく見えて逃げ出した。

 

 彰の言葉が頭から離れない。

『由良は嫌な女の子だ。性格が悪いし、かわいくもないし、誰かが死んで泣くような同情心もない。最低な人間だ。本当に、かわいそうな奴かもしれない』

 その言葉が何度も、何度も頭を反復する。

 彰が私と一緒にいた理由って同情だったのかな。

 本当に冷め切った少女にも、普通の女の子にもなれなかった。

 ここにいるのはただの救いようのない女だ。

 彰にとって私はもう〝重荷〟でしかなかったのかもしれない。

 どんなに突き放したくても、〝かわいそう〟だから突き放せないやっかいな重荷。

 本当は、彰はいつだって私をばかにしていたのだ。

 ……何で勘違いしていたのだろう?


 私なんて……誰からも好かれるわけない。


 彰にはいっぱい優しくされてきたから……だから彰だって私のことを大切に思っているって勘違いしてしまっていた。

見捨てようとするくらいだったら優しさなんて最初から見せないでよ。

「彰の……バカ……」

 心が痛かった。 


 次の日、休み時間に読書をしていたら、彰に急に話かけられた。

 耳元に、甘ったるい声が響き渡った。

「話がある」

 心臓が大きな音を立てる。

 だけど、冷たい態度で対応した。

「何?」

 話しかけた彰に対し、私は本から目を離さずに聞き返した。

本の名前は、『罪と罰』。いつもはつまらない本ばかりだけれど、この本は面白いから本から目が離せない。

「明日、学校の体育館で試合がある。由良のために勝つから来てほしい」

 私は、ページをめくりながらしゃべった。

「そんなところ行きたくない。

 そんな汗臭い野蛮な人たちがかっこ悪い動きばかりするのを見て何の得があるの?

 ああいうのに真剣になる人は本当にださいって」

 本を見ているため、彰がどんな表情をしているかわからなかった。

「……由良はさ、どうして俺に『インターハイに行きなさい』って言ったの?」

「何のこと?そんなどうでもいいこと忘れたわ」

 本当は、中学の時、貧乏だった私に合わせて部活に入っていなかった彰に、楽しい青春の思い出を作ってもうらうためだった。

 だけど、そんなことは言えなかった。

 ふいに、彰が私から本を取り上げた。まるで、心を隠すものを取り払われて素っ裸にさせられたような気分になった。彼は、顔を近づけて告げる。今まで一度もそんな強引なことをしたことはなかったのに。

 奇跡のようにかっこいい男と目が合った。切れがあるのに優しそうな茶色い瞳が、私だけを映している。ドクリッ。思わず心臓が跳ねた。

「……僕は、勝つよ。勝ってインターハイに行くよ」

「私、生まれてから一度も他人の幸せも喜びも祈ったことがないから応援なんて求められても困る」

「僕は由良さえ来てくれればいい」

 琥珀色の瞳がまっすぐ私を見ている。その少年らしさの残る声がやけに真剣に感じられた。 


 彰は、私を誘ってくれた。けれども、さっきの悪口を言っていた彰が頭から離れない。

こんな風に他の女の子も誘ったのだろうか?私は、試合に行くべきか……。いや、やめておくか……。

もんもんと悩みながら、帰っている時のことだった。

「あ、こんにちは」

 爽やかで明るい声がした。

「こんにちは、一之瀬君。

 最近よく会うね」

 彼とは、偶然のタイミングで遭遇してばかりだ。

 私がに一之瀬君をさらおうとしている高校生にでも見えないか心配だ。

「そ、それは、こうして同じ通学路を通っているわけですし」

「でも、深津小学校なら公園を通る道の方が近くない?」

「いえいえ。こ、こ、公園にはブルドッグを散歩させる人がいて、怖いので」

「へえー。ブルドッグが怖いなんて、弱虫ね」

 大人っぽいところがたくさんあるなと思っていたが、所詮、小学3年生だった。まだまだお子ちゃまなのだ。

 一之瀬君は、むっとしたような顔になったが、押し殺すようにすぐに元の顔に戻った。

「……それより、どうしたんですか?顔色が悪いですよ」

 一之瀬君は、相変わらず優しい。

「ちょっと彰が……」

 彰が私の悪口を言っていただけだ。

 それくらいで落ち込んでどうする?

「何でもない。大丈夫よ」

「そうですか。そういえば、桜ヶ丘さんは、綺麗な女の人とキスしているところを見ました。ちょうど持っていた携帯で写真を撮ったんです」

 そうして、携帯の写真を見せびらかした。


 それは、彰が同じクラスの栗林マロンさんとキスをしている写真だった。


「え……」


 信じていたものが突然、ガラガラと崩れていく気がした。

「嘘……」

 無意識のうちに言葉がこぼれ出ていた。

「俺が嘘をついて何の得があるんですか?本当のことですよ」

 まさか一之瀬君が嘘をつくわけがないだろう。そんなことをする理由なんてない。

「別に、桜ヶ丘さんが悪いわけじゃないと思います。

 身近にあんなにかわいい女の子がいたら、誰だって手を出しますよ」

 そうだ。栗林マロンさんは、今まで見たことのあるどんな女の子よりもかわいい。クラスにいたら、ときめいて当然じゃないか。彰と栗林マロンさんが仲良くなって当たり前にきまっている。何で、彰にとって私が大事な存在だなんてうぬぼれていたんだろう。

「それに、桜ヶ丘さんは、由良ちゃんが思っているようないい奴じゃないですよ。

 桜ヶ丘さんが由良ちゃんの悪口を言っているところは、何度も聞いたことがあります。桜ヶ丘さんは、言っていました。『あんなに性格が悪い奴は、さっさと死ぬべき』だって」

 彰が……そんなことを言っていた?でも……彰は、そんなことするような人間には見えない。一之瀬君も嘘を言うような人間に見えない。

 彼は、戸惑う私の背中を押すように一言を囁いた。


「あんな人間、信じたらダメですよ」


 世界がひっくり返っていくようだった。



 読んでくださりありがとうございます。

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